第60話 光の特性

 美玖side


 進たちと分かれた3人は最前線で最も冒険者に被害を与えているイモムシ型モンスターの前へと来ていた。


「やべえよ。武器が効かねえ。こんなのどうやって戦えってんだよ!」

「た…助け……うぁぁぁぁああ!!」

「おい!お前逃げん——うぁああああ!!」


 3人の前に広がる光景はまさに地獄絵図。

 数多の冒険者が戦ってはいるものの、誰も太刀打ち出来ずただただ一方的にやられている。


「全員下がってろ!こういうモンスターは大抵、魔法に弱いんだよ!切断水流ウォータースライサー。」


 1人の冒険者が水属性の魔法を放つ。


切断水流ウォータースライサー

 刃の形をした高圧水流を放つ魔法。

 それらが計4つ、イモムシ目掛け放たれた。

 水の刃はイモムシモンスターの体を輪切りにする。


「よっしゃあ!!ほらな、残りも纏めて俺がやっつけてやるよ!」


 一体倒した事により、勢い付いた冒険者が残りを倒そうとしたその時だ。

 輪切りになったイモムシの体が膨れ上がる。


 あれは何?

 モンスターの体が膨れてる?

 普通、倒したモンスターの体は砕け散って魔石に変わる筈。

 あれは何かおかしい。


「逃げて!!!」


 咄嗟の叫び声に反応して冒険者が振り返る。


「へ?……何だよ、これ?」


 膨れ上がった肉体が爆発し、中から緑色の霧が溢れ出る。

 冒険者はその霧をモロに浴びてしまった。


「うわ!ちょ、何だこれ?前が見え……あれ?俺の腕が……」


 目を擦ろうとするが、腕の感覚がない。

 視線を向けると、数秒前まで存在していた自分の腕がなくなっていた。


「あ……うわぁぁああああ!!」


 痛みはない。

 どうやら神経が麻痺しているみたいで、麻酔をしているかの様な感覚だ。

 しかし、問題はそこではない。

 腕が無くなった。

 目で見てしまった事により、その事実を実感する。

 彼が受けたショックは想像を絶するものであった。


「ああ……腕……俺の腕……」


 膝から崩れ落ちる冒険者。

 そんな彼を取り囲む様にイモムシモンスターが現れる。


「ははは……もう、無理だ……」


 彼は全てを諦めた。

 魔法以外は通用しない。

 だが魔法を使ったとしてもイモムシの体は爆散し、腕を溶かすレベルの霧を放って来る。


 こんなやつに勝てる訳ない……


艶美な閃光グロリアス・レイ


 その時だった。

 遠くから聞こえた呪文と共に、閃光が取り囲んでいたモンスターの一部を消滅させる。

 閃光により、僅かに空いた隙間から1人も女性が冒険者を抱え逃げ出した。


 イモムシモンスターから少し離れた場所に抱えていた男を降ろすと、その女性はモンスターの元へ戻ろうとする。


「待ってくれ。お前、アレを倒せると思ってるのか?アレは無理だ。武器も魔法も効かない。諦めて地上に逃げた方が……」


「あんたが倒せなかったからって私たちが勝てないって決めつけないで。それに少なくとも…あの子の魔法は通用する。」


 彼女…シェリアの視線の先には美玖がいる。

 美玖はユニコーン討伐時に使用した魔法(あの時より威力は低い)「艶美な閃光グロリアス・レイ」をイモムシ目掛けて連射していた。


「駄目だ。魔法を使ってもあの霧が——」


 艶美な閃光グロリアス・レイがイモムシモンスターに直撃する。

 すると『切断水流ウォータースライサー』で輪切りにした時とは違い、イモムシから霧が放たれる事はなかった。


「——そうか!光属性は浄化の魔法。あいつの霧は浄化出来るんだ。それにあの閃光は体ごと消し炭にしてる。もしかして……肉体を残さなければ霧は出ないんじゃ……」


 冒険者がぶつぶつと何やら考察を始めた。

 その声を何となく聞いてたシェリアは勝機を見つけ、微笑んだ。


「肉体を残さなければいいのか……いい事聞いたかも。あの子に良いとこ取られっぱなしじゃいられないっての!」


 美玖への対抗心を燃やし、シェリアが駆け出す。

 そんな妹の姿をシルが見ていた。


「はぁ…絶対シェリア無茶するよなぁ。僕がサポートしないと……」


 相変わらずの行動に呆れながらもサポートに回る。


 美玖側の戦況は冒険者サイドが押される状況下で始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る