第18話 冒険者協同組合(ギルドユニオン)


 登録作業は30分程度で終わった。

 ギルドタグを受け取って、チェーンで腕に巻く。


「ギルドタグは魔力によって反応し、他者にも閲覧が可能なステータスを空中に投影します。失くされた場合は再発行に手数料がかかりますので、お気をつけください」


 見た目はドッグタグのような金属の板だ。

 名前や冒険者Noなどの記銘があるほかは、何の仕掛けもなさそうに見える。


「……ステータスへのアクセス、その記録と投映、このサイズで全部こなせるんだったら超価値あるよな。でも冒険者みんなに配ってるならそれはない。つまり、タグが俺の肉体から情報を取得してるわけじゃない。USBみたいな情報記録端末か……?」


 ついつい職業柄(『技工士』として半分、ゲーマーとして半分)考察してしまった俺の独り言を聞いて、職員のお姉さんが驚いたような顔をする。


「よくお分かりですね! この手の技術的なお話を理解できる方はほとんどいらっしゃらないのですが」


「あー……」


 思い返せば街の各所には街灯や上下水道など、近代的な仕様の構造物がある一方、街全体を見るとそこまで発展しているようには見えない。

 近代化——人から機械、農業から工業に移り変わる途中なような感じ。でも、それにしては安定していて急激に時代が移り変わっているような慌ただしさはない。


 魔法による技術が極めて発展している一方、工学的な技術が一定のラインで停滞しているのだ。やはり、不要にジョブの話はしない方がよさそうだ。


「前職での経験が少しありまして」


 などと適当にぼかしておく。


「ふふ、あなたにはなにか秘密がありそうですね。私はフランと申します。今後、あなたの担当をさせていただきます。いまはまだ話せなくても、いつかあなたの秘密を聞かせてくださいね」


 そう言って、職員のフランさんは微笑んだ。


 そのあと、「魔石やドロップアイテムは、ギルドで買い取ることができますよ」と教えてもらったので、要らないアイテムを売っておくことにした。


 魔石が一番安定して金になるらしいが、『技工士』はクラフトに魔石やドロップアイテムを消費するからなぁ……。地下神殿ダンジョンで白魔石は80個以上手に入ってはいるが、できるだけ手元に置いておきたい。


 ナザレ石の例もあるし、使わないドロップアイテムもいつか使うかもしれない。

 けど、使わないものを持ち続けてもバッグを圧迫する。

 う〜〜〜〜〜〜ん、悩ましい。


 とりあえず、『ディザークロウの嘴』『ディザークロウの黒羽』『ヤングゴブリンの硬爪』あたりは売っておくことにした。

 あとは『シャープスパイダーの糸』も売ってしまおう。『R伸縮自在の女王糸』が完全に上位互換だしな。


「とりあえずこれで幾らになりますか?」


「そうですね。これらの量ですと……およそ30,000Gほどでしょうか」


 初級バックパックから大量に取り出したドロップアイテムを一目見て、間を置かずに見積もりを出すフランさん。あまりに早すぎる見積もり、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。


「こういうのって鑑定士が値段出すんじゃないんですか?」


「私が鑑定士の資格を持っておりますので」


「なるほど……」


「ふふふ、冒険者協同組合ユニオンの正職員はエリートなんですよ?」


 そういうフランさんは誇らしげ。

 確かに受付だけではなく、荒くれ者の冒険者と対話し、鑑定、交渉、計算、事務のすべてをこなすって考えたら、かなり優秀な人材だ。

 実際、いまもかなりの量なのに一目で概算を出していたしな。


「ちなみに30,000Gは、この国だとどれくらいの価値ですか?」


「そうですね。レイン様は宿をとる必要がありますから、数日の宿代と食費が賄えるくらいでしょうか」


 日本での3万円と同じくらいの価値だな。

 当面の資金としては十分。尽きるまでには、また稼げているだろう。

 とりあえずドロップアイテムだけ売っておくことにする。

 

「ギルドの併設宿でしたらもう少し、費用を抑えることができますよ」


 フランさんの説明によるとギルドは会館のようなものらしく、クエストの受諾やドロップアイテムの売買を行う受付の他に、酒場や訓練場、さらには冒険者用の簡易な宿泊施設も併設されているそうだ。


 夜遅くにクエストから戻ってきた冒険者や、金のない駆け出しが利用するような泊まるためだけの部屋。


 一部屋一泊当たり4,500G。食事は別料金だが、一階にある酒場でとることはできる。大浴場は一日一回のみ可。洗濯はセルフサービス。使い古しのタオル等のみ無料で貸与とのこと。


 簡素で部屋も狭いが、その代わりに低価格。

 まさに駆け出しの冒険者向けのビジネスホテルといった感じだ。


 とりあえず三泊ほど借りることにした。

 代金を払って、宿泊棟に向かう。


 割り当てられたのは六畳ほどの部屋。

 内装はベッドとトイレ、小さな机だけ。かなり簡素だが、代わりに清潔だ。

 元が貧乏社会人だった俺にとって、特に不満はない。


 とりあえず風呂に入りたいんだが、大浴場に行ったところで清潔な服がない。

 この世界に来た時に着ていたチノパンはもうかなり汚れちゃってるし、Tシャツに至ってはもう布切れだ。代わりの服が毛皮である。


 まずこの野人みたいな恰好をなんとかしたい。

 久しぶりのキレイな部屋に腰を落ち着けて休みたかったが、この先を考えても替えの服は必要だし、まずは服でも見繕いに行こう。




 土地勘をつける目的も兼ねて商業区を少し歩き回ったが、ゲームと違って同じ業種でも数えきれないほどの店があって、どこを利用するべきか非常に迷う。

 最終的にフランさんがオススメしていた店に行くことにした。

 

「すいませーん。服を買いたいんですが」


「はいよ。肌着はこっち。外着はこっちね。好きに見てってちょうだい」


 フランさんが勧めるだけあって、実用性重視で安価な衣服が多い。

 冒険者は汚れてナンボだからちょうどいいな。


 まずは肌着と上着を適当に見繕おうと思って店内を物色する。

 すると、一つの事実に気づく。


「服によって防御性能が違うな……」


 素材の違いか、明らかに誤差レベルではなく、ステータスの数字に現れるほど明確に丈夫さに違いがある。


《眠れる山羊の肌着 DEF+1》  100G

《ヘビースネークの上着 DEF+5》 2,000G


 肌着と上着の違いはあるが、露骨に値段が異なっている。


 この世界では動物でさえ巨大で、モンスターに至っては地球じゃ考えられないほど強靭で不思議な能力を持っている。

 ゆえに、その動物やモンスターから採集できる素材も、並みはずれた性能を持っている。その素材で作られた衣服には見た目以上の耐久力があるのだろう。

 

「悩んでんのかい? あんた見たところ駆け出しだろ? アドバイスしとくなら命を守ってくれるものには金を惜しまない方がいいよ」


「そうですよね。でもまだお金がないんですよ」


 命が一つ切りの現実じゃ攻撃よりも防御を優先すべきなのは当然ではある。金で命が買えるなら安いもんだし。

 俺も当然、金さえあれば高級品を買いたいものだが、残念ながら手持ちがない。


「金がないなら、指定のモンスターからドロップアイテムを取ってきてくれたら、オーダーメイドで作ってやることもできるよ。割引でね」


「ほんとですか!?」


「もちろんよ。ウチは冒険者協同組合ギルドユニオンとの提携店だからねえ」


 詳しく聞くと、この店は冒険者協同組合と提携契約を結んでいるらしい。

 冒険者が直接店とやり取りをして必要な素材を用意することで、素材の仕入れにかかる手数料や流通の費用を抑えることができ、それによって価格を抑えて冒険者に商品を販売できるという仕組みだ。


 自分で冒険して素材を収集できる冒険者ならではの制度だな。

 金がないので、有難くあやかることにした。指定リストを見せてもらおう。


―——————————————————

  討伐対象  /  ドロップアイテム


〈ヘビースネーク/ヘビースネークの硬皮〉


〈百年羊/百年羊の羊毛〉


〈ネメアの銅獅子/銅獅子の毛皮〉


      ……


      ……

〈Rクイーン・シャープ/R伸縮自在の女王糸〉

―——————————————————


「えっ」


 見覚えのある素材がリストに載っていた。

 

「あの、ご婦人。お聞ききしたいんですが、蜘蛛の糸からも服が作れるんですか?」


「蜘蛛の糸? ……ああ、クイーン・シャープのかい。もちろん、普通は作れないよ。蜘蛛の糸ってのは、水に濡れると縮んじまうからね。けど、こいつのは伸び縮みが自在だから作れるんだ」


 そう言いながら仕立て屋のおばさんは、見本と思われる白い糸を取り出して引っ張ってみせる。


「『R女王糸』は高級素材だよ。糸自体がとんでもなく丈夫で、しかも肌触りがよく加工もしやすい。火で燃えず、刃も通さないから防護性能も極めて高い。その上、魔力で伸び縮みしていつまでも着れるもんだから『R女王糸』で作る衣服はご貴族様に大人気なのさ」


 そう言いながらおばさんは見本糸を取り出して、伸び縮みさせて見せる。扱いがかなりスムーズで慣れた手付きだ。


「あの、ご婦人。その『R女王糸』を持ってきたら、オーダーメイドで服を作っていただけますか?」


「そりゃあ持ってきてくれたら作るけど、ボスドロップだからねぇ。今のあんたじゃあ手に入れるのはだいぶ先になると思うよ?」


「いえ、今ここにあります」


 最小に縮めて初級バッグに入れていた『R伸縮自在の女王糸』を、ごそっと取り出して台の上に置く。


「……あんた、これ本物の『R女王糸』じゃないかい!?」


 なんと気持ちいい驚きっぷり。


「どうしてこれを持ってんだい? あんた駆け出しだろ?」


「なかなか信じがたいかと思うんですが、モンスターに追われてクイーン・シャープの巣に落ちまして。そこで死闘を果てになんとか倒して、生還したのがついさっきの出来事なんですよ」


「……」


 仕立て屋のおばさんがぱちくりと瞬きをする。


「やっぱり信じられないですか?」


「……いや、信じるよ。市場に滅多に出回らない素材だし、手に入れられるコネや資金があるなら嘘つく必要もないからね。あたしが驚いてたのは……有望な新人がでてきたねぇ、と思ったからさ」


 そう言ってニヤリと笑う。


「こりゃあ、期待の新星様に飛び切りの一着を仕立ててやらんとねぇ」


「いやいや、ただの偶然ですよ……あんまり茶化さないでください」


「いいじゃないの。例えまぐれでもとんでもないことをしたんだから胸を張ったらいいのよ」


「えーと、ご婦人が仕立てていただけるんですか? 金額とかかる日数をお聞きしてもいいですか?」


「あたしが縫うんじゃないよ。おばさんのセンスは若い子には合わないかもだからねえ。ウチの服飾士に任せるから、できるまで数日貰うよ」


 金額はそうだねえ、と言いながらおばさんは算盤を弾く。あんま高いと手持ちじゃ無理なんだが、


「うん、少しサービスして40,000Gってとこかね。支払いは商品の受け渡しの時でいいよ」


 と言ってくれたので助かった。

 数日あれば、その分の代金は貯められるだろう。

 だが、いますぐ着る分の服は必要だ。


 その後、俺は寸法を測ってもらったあと、当面使うための肌着を数着、アウターとパンツを一着ずつ購入して店を出ることにした。


 店を出る直前、おばさんが思い出したかのように声をかけてきた。


「あっ、そういえば新人さんよ。ギルドで討伐報酬は受け取ったかい? さっきの口ぶりだとクエストを受けたわけじゃなさそうだったから」


「そうですね。偶然、遭遇して倒しただけなんで報告してないですけど」


「普通のモンスターはクエストを受けてなきゃ報酬は出ないけど、ボスモンスターは別さね。危険度が段違いだからね、常にギルドの指定討伐モンスターなのさ。討伐報告をすれば報奨金がでるよ」


 マジか!

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