魔法至上主義国家に転生した俺、ジョブ『技工士』で産業革命を起こす ~時代は大量生産、大型兵器じゃい!
円堂はっぴ
第1話 地震がきてもMMOがやりてぇ
「地震でもFPSやめられないんだけどww」という名言が存在する。
これは人間が命の危機を自覚していながら、刹那的な欲求が理性に勝ってしまうことを的確に言い表した名言だ(俺調べ)。
これは昔、大学の授業で聞きかじったことなんだが、人間とは不思議なもので、未来の大きな利益よりも、目の前の小さな利益を優先してしまう性質がある。
「地震でもFPSやめられないんだけどww」の人のように、地震から生存すればまたFPSを続けられるのに、死ぬ可能性がある中で一瞬の快楽に身をゆだねてしまうことも往々にしてあるのだ。
……あるんだよ。
そう、だから俺が地震でも、パソコンの前から動けなかったのも仕方ないのだ。
なんせその日は、三年も待った新作MMORPG『カオスグランツ』の正式リリース日だったのだから!!
最先端のグラフィック。AIを導入したリアルなNPCたち。
大手クリエイターによる期待のストーリーと、主要キャラクターたち。
そして、プレイヤーたちが属する個性豊かで魅力的な国家・組織。
剣と魔法の国——神聖騎士国家トリニティ。
小国ながら最先端の技術を持つ――魔導教皇国家レグセオ。
武門の極み――武天。
そして五十を超えるジョブ。
神聖騎士、銃士、凶手などの戦闘職だけではなく、鍛冶師などの生産職。領主や大商人などのストーリーや世界経済に影響力を持つジョブさえ存在する。
そしていまだ明かされず、PVで匂わされた意味深な敵組織。
その上、さらに続々とアップデートが予定されている、超、超超超、超大作だ!
「うおおおおおおおおっしゃぁあああああ!!!!! 気合の定時退社!!!! 翌日有給ヨシ! 三連休ヨシ! エナドリよし! 社用携帯電源オフよし! もう俺を邪魔するものはなにもねえ!!!!!!」
その日、俺はカオスグランツを最速プレイするために、すべての業務を先回しで終わらせ、リリース時間に合わせてプレイできるように、事前ダウンロードしながらパソコンの前で待機している時だった。
時間は17:59分。
ダウンロードはあと1%。
今日は徹夜で遊びつくすと決めていた俺は、エナドリをさっそく一本キめる。
「…………っし!! 18:00! 正式リリースキタ!」
高橋名人ばりの連打でランチャーを起動し、荘厳なBGMとともにオープニングが始まろうとしたとき。
——机が揺れた。
「……」
日本人らしくガン無視して、OPに集中しようとしたが、次の瞬間。
ズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズ!!!!!!!!!!!
人生で経験したことのない巨大な揺れが襲った。
棚からマンガが飛び出し、扇風機がぐらぐらと傾く。
「はあああああああああああああ!? このタイミングでかよ!? いってぇ、なんか当たった! ってやば、モニター倒れる! もおおおおおおおおおおお、なんで今なんだよ!」
地面が崩落するんじゃないかってくらいの強い揺れで、部屋中のものがごちゃごちゃに崩れていく。
〈——————この世界を生きるのは、あなた、だ〉
モニターの中では、壮大なオープニングが流れ続け、『カオスグランツ』の世界観、国々、ジョブシステムなどが紹介され、そして最後にプレイヤーのアバターとなる『私』に焦点があたっている。
〈——————どのような生き方をするのも自由。悪に与してもいい。世界を征服することもできる。己の国を作ることだって〉
逃げるべき。
震災レベルの地震だ。すぐに避難するべきだし、少なくとも隠れるべきだ。
だけど、俺はモニターから目を離せなかった。
「くそ、せめて、せめてオープニングだけでも見させてくれ! 三年も待ったんだ! 今見なきゃ意味がない! あとで、誰かがあげた動画を見ても意味がないんだ!」
〈——————様々なNPCやプレイヤーがあなたに立ちはだかるだろう。世界に影響を与える無数のプレイヤーによって『カオスグランツ』は展開していく〉
「よし、オープニング終わったし……ぐぐぐ、逃げるか」
〈——————あなた、の名前は?〉
「………………も、もうちょいだけ。『レイン』っと」
〈——————レイン、あなたのジョブは?〉
「五十個あるからなー、悩むなー、なんつって実は決まってるんだけどな! 俺はオープンβの時から『
〈——————レイン、あなたの生まれる国は?〉
「もちろん『魔導教皇国家レグセオ』――ってうばあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
瞬間、世界崩壊レベルの揺れが襲い、アパートの天井が落ちた。
ようやく切り上げて逃げようとした俺は、外に出ることもできず、意識がトぶような衝撃とともに建材に押しつぶされた。
「う、ぐ……」
ピクリとも体が動かなかった。
瓦礫が俺の身体を押しつぶしていて、首から下の感覚がない。
これは死んだな、と直感した。
「……うーわ、最悪だ」
さすがに後悔が湧いてくる。
逃げるべきだった。
どうせ生き残ってれば、またゲームはできていたんだから。
ま、とはいってもアパートが倒壊するような規模を考えたら逃げても助かったかは分からないんだけど。
しかも逃げて助かったとしても、家もパソコンもなにもかも失って、安月給の社畜が生きていけるかって言われたら難しいだろう。
クビを切られて露頭に迷って、最終的にのたれ死んでいたかも知れない。
俺は実家と縁が切れてるからな。
助けてくれる身寄りもない。
どのみち大地震が起きた時点で終わりだったのかもな。
「あー……くそ」
なんで今なんだよ。
死ぬにしてもこのゲームを遊びつくしてから死にたかった。
今日この時じゃなければ逃げていた。
でも、今は。いまだけはこのゲームをやりたかった。
それぐらいリリースを待ってたんだ。
「…………」
顔回りの瓦礫を払って目を開けると、どんな奇跡的な確率か。
ぐちゃぐちゃになった部屋の中で(もうほとんど外だが)、俺の目の前にあるモニターだけは正常に『カオスグランツ』の世界を映し出していた。
〈 GAME START 〉
と、そう促す画面のまま。
こんな時でも、この画面を見るとワクワクしてしまう俺はもうダメなのかもしれない。生まれた時から持ってたこういう性格は変わらないんだ。
「……ふっ」
俺は最後の力を振り絞って、エンターキーを押し込んだ。
もう目を開ける力も残ってない。
あーくそ、恋人もできずに死ぬのか。
家族には悪いことをしたかな。俺が死んだあと、両親の面倒は妹が見てくれるだろう。俺よりよっぽど優れたヤツだから、その辺は心配ない。
だけど、悲しませてしまうことだけは申し訳なかった。
特に自慢できることのない人生だった。
その中で生きがいだったゲームをするために死ぬのなら、後悔は正直ない。
……いや、やっぱりそれは嘘。
一つだけある。
……、やっぱり『カオスグランツ』やりたかったなぁ……。
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