21節 そして始まる午前中
「おはようございます、リョウわた…… 」
「おにいちゃんっ! おっはよー !!ねぇねぇ、今日は何する? アタシは、ねぇーそうだなぁ…… 」
耳元の元気な声で眠りを覚まされる、最近はこの起こされ方が多い気がする。ここ何日かで同居人が急激に増えたことに影響しているのかな。
騒がしい…… けど、悪くない、そんな気持ち。少しでも長く続くと良いけど…… 。
「おはよう…… ルナ、桃華…… 賑やかだね、やっぱり。…… ところで桃華はどこで寝てたの?うち狭いけど大丈夫? 」
「全然っ、平気! アタシは、玄関で十分、いや玄関がいいし、真面で、性に合ってるからね」
なるほど…… そういうのが最近は流行ってるのかな、きっと複雑な妖刀事情があるのだろう。これ以上は…… 触れないでおこう。
『なんだか…… 騒がしいな。む、まさか…… お前、自分が好まれているなどと、思っているのではないか? 自惚れるなよ、こいつらはイレギュラーな存在だ、漫画のように単純にはいかない』
あの…… 別にそういう訳じゃなくて、こうなんか、部屋がカラフルだなーと思って。青、桃、紫が現実にいると鮮やかだなみたいな感想なんだけどね。
『まったく…… 人間はものを見た目や噂ですぐ決める、だから愚かなのだろうな。いいか、本質や根本を深く考察する前に物事を判断するのは、人間と下級魔族の悪い所だ。表紙で漫画を読めるか? 見た目で味が分かるのか? …… わかるはずがない、名前やイメージだけでは何もわからないのだ。………… だからルナ、桃華、我を悪魔と呼ぶなよ、ゼウルと呼べ! そして、食事を用意しろ、食べてみないとわからないからな』
結構良いこと言ってたのに…… 台無しだよ最後で。けど実際その通り、最初はゼウルが怖かったけど、一緒に過ごしてみると意外と優しい所とかちゃんとした目的とかもある。…… あと腹ペコ。
『少し引っかかるが…… まぁ言いたいことはそういうことだ。そして、腹ペコとは何だ? 我の体はお前の物でもあるのだろう。お前自身も腹が空いてるのではないのか? 我だけのように聞こえるぞ』
「いや、僕はそんなにお腹空かない体質だから。ゼウルが来てからだよ、結構食べるようになったのは」
『食事に興味がないとは…… 損してるぞ』
何か言い返そうと考えていたリョウだが強制的に中断された、高水から着信によって。スマホの画面をスクロールしそれに応えた。
『おはよう、双川君。少し時間はあるか? 話したいことがあるんだが』
『あ、おはようございます。えっと、今日ですか? 』
『可能ならば、今日がいいのだがどうだろう、時間は取らせない』
『大丈夫ですよ。…… 僕のほうも色々伝えたいこともありますから』
『わかった、それでは三時間後にこの間の資料部屋に来てくれ、切るぞ』
返答する前に電話を切られた、
「あれヤバい桃華のこと伝えてなかった。ビックリするよね高水さん…… 」
「それに関しては問題ありません。私が伝えてあります、昨日の晩までのことを」
「じゃあ、大丈夫」
さて、今日も予定ができてしまった。三時間後か…… 乗り換えがいくつかあるけど、今すぐ出れば余裕を持って着けるかな。
「すぐに、出発ですね。私は準備万端です」
「よし桃華、準備してすぐ出るよ』
紺のズボンと黄色い線が入った黒のパーカーという、いつものセットに着替える。そういえば、これしか服持ってないな。なんか買おうか今度。
「アタシも準備できてるよ、それでそれで! どこ行っくの?」
「いや、大したことないけど…… 帰りに何処か寄ろうか」
「まっ! どこでもいっか、アタシ暇だし! 」
顔も洗って歯も磨いたし、よし、じゃあそろそろ行こうか。
『待てっ! ………… 朝の食事はどうするのだ! 我は満たされていないぞ』
道中なんか、買って食べるから…………それでどう?
『ならば、良い。ほら行くぞ』
……………… やっぱり腹ペコだね。
東都大学は都内より少し外れた場所に在するため、休日になると閑散とし静寂に包まれる。サークルや部活動などに積極的ではない。訪れるのは提出物や勉強のための生徒、そして仕事が遅いか、研究好きな教授に限られる。
毛利義紀もその一人に思われ、講義や発表会もない今日も熱心に研究室に篭りながらパソコンに向かっている。彼の研究分野は人類文化学それもこの世界の人間の中に存在する魂についての研究だ。
「ここにきて計画変更か、どうだろうな」
画面を眺めながら独り言のように呟く。
「失礼します、教授。入りますね」
「おぉ小平君、どうしたんだ」
小平リンは一礼すると書類が丁寧に整頓されたデスクに、レポートを二つ分置いた。
「二つ? 一つの筈だかね」
「もう一つは、深山君の分です。体調を崩してしまって来れないと言っていたので…… 」
「そうか、なるほど。それならば仕方ない受け取っておこう」
「はい、私はこれで失礼しました」
「ちょっと待ってくれ」
リンは再び一礼して部屋を出ようとした時、呼び止められた。
「君の友達の双川君は元気かな? 最近顔を見ないが大丈夫か」
「双川君ですか、最近は連絡が取れなくて、なんか忙しそうなので」
毛利教授は少し心配そうな表情をした。
「そうか、彼も大変だな。色々事情がありそうで。呼び止めて悪かったね、今度会えたら私も心配していると伝えておいてくれ」
「わかりました、それでは失礼します」
一礼をして部屋を出るリンを、毛利は笑顔で見送った、心からの。
研究室を出たリンは、薄暗く静観な廊下を一息つきながら歩く。リンは毛利教授が苦手だった、…… 魔人と話しているような気がしたから。
その日も成田国際空港では常に多くの者たちが行き交う、人種、性別、年齢、目的、種族、全てが異なる。慌ただしくも賑わい交差するそんな光景が日常茶飯事のここでも一際異様さを放つ二人がいた。如何にも貴族然とした真ん中の女性と従者は、それが当然だというように人混みの中心を堂々と進んでいく。
「ようやく着きました、ニッポン遠いですわね本当に、ほぼ地球の裏側ですわよ—— まったくタカミは何故電話に出ないのです?! このわたくしからの連絡に! 」
丸い片眼鏡を掛けた従者の女性が答える。
「それは、カレン副長官の電話が旧式だからなのでは? 今時、肩掛け電話を利用する人間はいませんよ」
「何ですって? 電話はこのように受話器を取るタイプでなければ、信頼に値しませんのよ。電話ボックスはどこですの? ちょっとオリヴィア! 赤い電話ボックスはどこですの?! 」
「だからそれも古いですから」
貴族服の女性は、カールのかかったブロンズ髪をかきあげると、仰々しく自らの気を落ち着けた。
「ま、まぁいいですわ、わたくしの目的は三罪の一柱、統括局ゼウルなのですから。待っていなさい統括局、参りますよトウキョウに!! 」
「えぇ、まずはホテルに行きましょう、一部屋取ってあるのでそこを拠点にするべきかと」
令嬢は先程までの言動が嘘のように沈黙し、歩みを止める。
「…………………… えーっと、トウキョウって何処ですの?! 」
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