第18話 プリンセスとギルドの異変
異変が起きたのは、ギルドに帰ってきて数日たってからでしたわ
「ちょっと!食材が無いんだけど?!」
ギルドハウスの酒場スペースで叫ぶ、恰幅のいいおばさん
彼女は普段から、皆の食事を作っている
安上がりの物ばかりで、基本、わたくしの口には合いませんが
ポトフの腕前だけは認めてやってもいいですわ
あれは宮廷では味わえない特別な……と、それはともかく
「は?そんなもの、なぜいつものように調達しておかなかったのです?」
「いつもあの子が買い出しに行ってたんだよ!」
「ああ…そういう事ですの」
暗に非難してるんですわね
「…ではわたくしは、レストランに行ってきますわ」
知った事では無いですわ
別に美味しい食事を作れる者などいくらでも…
「…姫様、それはどうかと…
ギルドには外食できない者も多数います」
「ユピテル様が出払っている以上、指揮命令は姫様のお役目」
二人のメイドに苦言を呈される
…まあ確かに、ユピテル様に留守を任されたんでしたわね…
クレームおばさんはともかく、ユピテル様に嫌われるのはまずいですわ
「じゃあ、あなたが食材の調達に行ってらっしゃい」
メイドのうちの一人に仕事を促がす
本当は、メイドは側に置いておきたいのだけれど
ここの奴らは無駄にプライドが高くて、わたくしの言う事をなかなか聞かない
第五王女とはいえ、姫なんですけど?わたくし
「…わかりました。後は任せたわ、ライ」
「行ってらっしゃい、レイ」
そして、メイドの…レイの方は、おばさんからいつもの調達先を聞いて出発
おばさんは、残った材料でできる仕込みをするために
調理場に引っ込みましたわ
まあともかく、これで一段落…と思ったら
「私の制服はどこですか?授業に遅れてしまいます」
学生メガネヤローが、わたくしにありえない事を聞いてきましたわ
…洗濯もあの娘がやってたんでしたっけ
「…いや、それ以前に、アナタは何でギルドに所属してるんですの?
冒険なり依頼なりこなすべきでしょう?」
「決まってるでしょう!推薦のためですよ!
冒険なんて面倒な事やりたくありません!」
「実家に帰れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
つ、つい口汚くツッコミを入れてしまいましたわ
ホントなんなんですのコイツ
「…あれじゃないんですか?」
メイドのライが、ここから見える酒場スペースの隣の部屋…
休憩室に置かれている洗濯物の山を指さす
「ああ…!何でしわくちゃで放って置かれてるんですか!」
「干したままがまずいと思った誰かが、洗濯ものを取り入れはしたけど
その後は放置した感じですね」
ライは、まあそうだろうなという予想を、そのまま伝える
「くっ…仕方ない、今日はこれで行くか……
同級生に笑われたら上の責任ですからね!」
「知らないわよそんなこと!」
…こいつもギルドから追い出そうかしら
相手するのすげーめんどくさいですわ
「あの…」
「今度は何?!」
質素な服装の、臆病そうな男が話しかけてきた
「い、依頼をしたいのですが…」
…思わず怒鳴ってしまったけれど、ギルドの客人だったらしい
「あ、あら、お客様?依頼なら受付の方に…」
「受付の人がいなくて」
ああ、これもあの小娘がやってたんでしたわね…
「穴をあける訳にはいきませんわね…
ライ…あなた、代わりにやりなさい」
「…よろしいのですか?姫様のお手伝いができなくなりますが…」
「構わないわ」
「承知しました」
酒場から離れ、三人で受付スペースの方へ移動
書類はそちらの方にしかない
普通のギルドは酒場が受付を兼用しているが
ラグナロクは依頼者が多いため、別スペースに分けられている
「それで、お客様…ご用件は?」
「い、いつもの水道に出没する大ネズミ退治を」
「いつもの…と申されましても」
メイドのライは困った表情になる
…この子のこういう顔は珍しいですわね
「あの、できればウズメさんに代わって頂けないかと…」
「…彼女は現在、出払っておりまして」
「そ、そうなんですか…」
「ですので、依頼内容をこの紙に書いてください」
口約束だと揉めることも多いので、紙に書いてもらうことになっている
最高ランクのギルドは、やはりそのへんちゃんとしてますわね
「これでいいですか?」
書き終えた内容は…
『近所の水道に出没する大ネズミ十匹前後の退治』
…まあ、よくあるやつですわね
「承知しました…巨大ネズミ十匹前後だと…10万Gになりますね」
「えっ?!」
金額を言われ驚く依頼者
「あ…い、いや…以前お願いした時は、半額の5万だったので…」
「おかしいですね…これが通常価格ですが」
モンスターの数と強さを考えると、中堅どころの冒険者が4~5人必要
と、なると、冒険者への報酬を考えると、ここから下げるのは難しいはず…
「すみません…お金が足りないので、考え直させてください」
臆病な男は何かが変だと勘づいたようだ
「失礼しました」
「あ、ちょっと、お待ちを…!」
男は逃げるようにこの場から立ち去った
…メイドが止める暇も無く
「ははは、メイドにラグナロクの受付は務まんねーよ」
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