第33話 死神との再会

 卒業式が終わってシスター達に見送られ卒業生達は学園を去っていく。

退場は時間制で順番だ。高位貴族から退場していく為、公爵家の私が1番最初に送り出された。


学園の門を出ると正装してピンクの薔薇の花束を抱えたアッシュが待ってくれていた。

「卒業おめでとう」と抱きしめて頬にキスをしてくれた。


「ありがとう、すごく幸せだわ」

私もキスを返して見つめ合っていると、周りから「おめでとう」と拍手と歓声があがった。


侯爵家の馬車でサウザー公爵家に向かい、アッシュは正式に婚約の申し込みをしてくれた。

「卒業おめでとう。お祝いだ」と言って義兄は婚約を認めてくれた。


「お兄様有難うございます」


「まだ婚姻は許可しない」


アッシュの顔が僅かに歪んだが「許可頂けるように精進いたします」と笑顔を返した。


 だがロザリア様が私たちの婚姻に積極的で「貴方は娘になったのだから」と意外にも公爵夫人も協力して下さり、ウェディングドレスを発注したり、教会への予約や招待状の準備が進められ、文句が止まらない義兄の許可も得て7か月後には結婚式を挙げることになった。



     ***

 


 秋晴れの空気の澄んだ日に、教会で私とアッシュは結婚式を挙げて大勢の祝福を受けて夫婦になった。


 式が終わって教会の扉が開けられ、階段上で手を振ると離れた場所で、騎士姿のクロードが綺麗な女性を伴って拍手してくれていた。

スーザン、メアリー、同級生たちの顔も見えて思わず涙が零れた。


 バーンズの父にミハイル、ディーンにカイト、サーレン夫人もお祝いに駆けつけてくれた。


ディーンの母親はバーンズ商店で働いている。

なぜか父がエスコートしていた。

もうバーンズの父を責める気は無い、ただ幸せになって欲しいと思う。


 私の涙をアッシュがそっと拭ってくれる。


「俺はこの日の為にこの傷を受けたんだな。今じゃ第一王子殿下に感謝するよ」


「私もこの日の為に生れてきたんだわ。素敵な旦那様、よろしくね」


アッシュの頬の傷にキスするとまた盛大な拍手に包まれ私は幸せを噛みしめた。




翌年はロザリア様もエドガー王太子殿下と婚姻を結ばれ王宮では1週間舞踏会が続いた。

国民にも祝福され、将来お二人は素晴らしい国の統治者となられた。


 前回毒のせいで病弱だった私は健康体となり、男の子2人と女の子1人の3人の母親となってアッシュと多忙ながらも幸せな日々を過ごした。


子ども達が成長して結婚し、9人も孫が誕生。


初孫の結婚式の最中に私は久しぶりにあの男を見かけた。

私は62歳になっていて、男が迎えに来るのだと予感した。


式が済んで孫達を見送った夜に私は心臓の動悸を感じていた。

トクトクと、男の足音のように思えた。


「アッシュ、少し疲れたみたい、先に休むわね」


「大丈夫かい? 今年は他家も結婚ラッシュで忙しかったからね」


「孫全員の結婚式に参加したかったわ」


「1番下が10歳だから、元気でいないとね」


 夫の首に腕を回して「私、生まれ変わってもアッシュとまた結ばれたい。死ぬほど愛してる」と告げると「ああ、俺もだよ。次も、そのまた次も、ずっと」と言って私を強く抱きしめてくれた。


夫にキスして私は寝室に一人で向かった。




+++アッシュ視点


 いくつになってもクレアは若々しくて美しい。俺は66歳になり随分と老けてしまった。

そんな俺に『死ぬほど愛してる』などと今夜、妻は照れる言葉をかけてくれた。


 生まれ変わっても俺はクレアをまた見つけ出して必ず妻にする。

その次も、また次も。


 若い頃、俺は貴族になんて戻らないつもりだった。

でも貴族だったからクレアを妻に出来た。


 領主になった不出来な俺を妻は支え続けてくれて、立派な跡取りも授けてくれた。

まさに妻ありきの人生だった。


今日、クレアは随分疲れていたようだ。


『孫全員の結婚式に参加したかったわ』と言った。


何かおかしい・・・不安に思い俺は立ち上がった。






私はベッドに横たわり上下する胸に手を当てていると空中に男が現れた。



「迎えに来てくれたの死神さん?」


「ええ、後悔はありませんか?」


「ないわ、あなたのお陰で幸せな人生だった」


「生まれ変わったらまた「アッシュと結婚したいわね」


ふっと笑った男が差し出した手を取ると、私はふわりと宙に浮いた。


「今心臓が止まりました。ご臨終です」


「突然ね・・・もっとアッシュと過ごしたかったけど」


「ご主人もそう思っているでしょう」


「もう私の声は届かないのね」


私の様子を見に来た夫が「クレア クレア」と何度も呼びながら私の体に縋って泣いている。

最後まで愛してくれてありがとう。


「先に逝って待ってるわね」


私は死神に手を引かれ、光に向かって飛び立った。

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