第30話 4つのミッション

 ナタリーが退学となり数人の貴族令嬢が停学、噂は嘘みたいに消えた。

今回はナタリーと距離を置いたのは間違いじゃなかったと思う。

彼女は、親友ではなかった。



 二人だけの図書室でお行儀悪くディーンが頬杖をついている。


「公爵家を敵に回すなんて馬鹿だよな。一応身内の俺でも怖くてビビるのに」


「味方になってくれれば心強いわね」


「あんまり信用するなよ、殺されかけたんだからな」


「ディーンが訴えてくれて助かったわ、ありがとう」


「仲間にしてしまえ!って言ったんだ。ちょっと思惑通りには運ばなかったけどな」


「思惑?」


「俺の嫁にしてしまえばいいと思った」


「アスラン様には聞かせられないわね」

「ああ、殺されるかもな」


「まあ・・・」「ははは」


「本気だったんだぞ、婚約破棄されたら拾ってやるよ」


「嬉しいけど、お気持ちだけ頂いておくわ」


「ちぇ、侯爵夫人なんて苦労するだけなのにさ」


「ふふ、そろそろノエル様モードに戻ってね」


苦労してもきっと幸せを掴んで見せるわ。

死神さんが与えてくれたチャンスだもの。




 寮にいる間、カイトから手紙をもらった。

なんだか日記みたいな内容だった。


バーンズ商店の今の状況やサーレン商店の事。

商店街の日常やどうでも良い事を面白おかしく書いていた。


それは私の郷愁を誘った。


前回私がクロードと恋人で婚約者時代に見ていた風景だった。

人々の声、通りに流れる香りまで鮮明に記憶を呼び起こした。


「あの頃は幸せだったわね」

遠い昔に読んだ小説のように私の中で光景が蘇っては消えていった。


そういえばアスラン・・・アッシュとは前回は出会わなかった。

店の襲撃に駆けつけたのは犯人である副団長を含む第一警備隊だった。


アッシュは貴族に戻るのを嫌って他国に行ったのかもしれない。

私は多くの人の人生を変えてしまった。

その事は心に刻み付けておかねばならない。




 学園でディーンに気を配りながら平和に過ごしていると、やがて冬の休暇に入った。

公爵家でお世話になって3か月が過ぎていた。


週末には時々ロザリア様もアッシュと共に訪問されてマナーの成果を見てくれた。

王太子妃の教育を受けたロザリアに「まぁ良いでしょう」と最近は合格点を頂いている。


合格したら王妃様のお茶会に招かれて慌てふためいた。

「公爵家の恥にならないようにな」とマルク様にも言われて胃が痛い。


更に近々私を養女とお披露目する予定。


公爵家で私が主催のお茶会を開くこと。


王宮で新年に開催される舞踏会にも参加させると仰る。ああ、胃が・・・


アッシュに相応しい婚約者になりたい。それと私は財産を投入して是非やりたい事があった。

こんな所でつまづいてはいられない。

4つのミッションを必ず乗り越えて見せる。


 王妃様のお茶会はロザリア様の未来の義姉と紹介された。

ご令嬢たちの羨望と嫉妬の視線にさらされても私は耐えた。


アッシュのお兄様、長兄イーサン様の元婚約者リーズ伯爵令嬢には敵意剥き出しで睨みつけられた。

セシリーを貴族にしたようなお嬢様で、イーサン様が喜んで他国に婿入りしたのも納得だ。


さすがに王妃様のお茶会なので目立った攻撃は無かったがご令嬢達からヒソヒソとこれ見よがしな悪態を見せつけられた。

ロザリア様を見習って、ポーカーフェイスで最後まで無視して乗り切った。



**

 私のお披露目会は領地の城で行われて、公爵様から養女として紹介され、親族は複雑な経緯を知っているのか拍手で迎えられた。

傍でマルク様のフォローがあったので恙無く挨拶回りは終わり「次はダンスだね、足は踏まないでおくれよ」と耳元で囁かれ心拍数を爆上げしてくれた。

会場の楽団による演奏が続く中、最初のダンスをマルク様と踊った。


「城にはノエルもいるんだよ、会ってみるかい?」

「結構ですわ、お兄様」

 動揺して思わずマルク様の足を踏んだ。態とじゃない。


マルク様は態と私を困らせるのが好きなS男だ。


「随分と洗練されたな。これだと婚約を許可できそうだ」

「本当ですか」嬉しそうな顔を見せると「ふん、まだ先の話だ」と意地悪を言う。

仕方ないので悲しそうな顔をしてあげるとニンマリして・・・面倒くさい義兄だ。


ロザリア様をエスコートしてアッシュも招待されていた。


王妃様のお茶会で私は既にロザリア様から未来の義姉と紹介されていたが、ダンスでアッシュは手を離してくれず三回も続けて踊り、周囲に間違いなく恋人、将来の婚約者だと知らしめた。




***

 公爵家のお茶会は家庭教師や侍女たちの補助を受けて準備、無事開催できた。

公爵夫人も顔を出して下さって、ロザリア様にも参加して頂き成功に終わった。


「これだと侯爵夫人としても大丈夫そうだわ」

初めてお会いした時は私を睨んでいたロザリア様が味方してくれている。

ここまで来れたのもロザリア様のお力添えがあったからだ。


 余談だがリーズ伯爵令嬢もお招きした。

始終ミスしないか、つけ込む隙が無いかと睨まれていたのは言うまでもない。



 ミッションを無事3つやり遂げて残すは宮廷舞踏会のみ。


 それと春には卒業式だ。

礼拝堂で祈りを捧げて卒業証明書をもらう簡単な儀式、パーティなどは無い。

メインは婚約者や恋人のお出迎えで、令嬢たちは楽しみにしている。


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