第12話 ゲイリーとシャーリー

+++他者視点(ゲイリーとシャーリー)


「まぁ 籍を抜いて欲しいとクレアさんが?平民になるつもりなのかしら」


「あの子が分からないよ。良縁も断ると言うし、はぁ~」


「願いを叶えて差し上げれば?籍を抜いても親子に変わりはないですわ」


「大事な娘なんだ出来ないよ」


「苦労を知らないお嬢様ですから夢を見ているのです。現実を知れば戻りたいと旦那様に泣きつきますわ」


「ふむ、最近は少々我儘が過ぎると思っているが」


「クレアさんが大切にしているお店の出入りも出来なくなりますわ。そうなれば直ぐに反省して戻ってきますとも」


「出入り禁止か。離れに一人で住まわせてみるか、学園は卒業させてやりたい」


「旦那様はお優しいですわね。籍はどうするのです?」


「もう一度話し合って、反省しないなら籍は一旦抜いてもいいだろう」


「好きな人とは誰かしら?」


「縁談を断るための言い訳に決まってる。小賢こざかしいからなクレアは」


ゲイリーは愛する妻を非難されて娘であってもクレアを許せなかった。

籍を抜くと聞いて妻が密かに笑ったのも気づかず、愚かな男は美しい妻を抱き寄せた。


     *****



次にお父様と顔を合わせたのはお店の中だった。

食事は自室で済ませており、二日ぶりの再会だ。


「クレア、籍を抜くならお店の出入りも禁止だよ。住まいも離れに移しなさい」


「では直ぐに抜いて下さい。学園も退学します」


「い、いや学園には授業料を支払い済みだ。勿体ないだろう」


「そうですか。書類の準備をお願いしますね」


「お前は本気で言っているのか!」


「勿論です。離婚届か除籍届か、どちらかを用意して下さい」


「なんて可愛げのない娘なんだ!わかった用意しよう、出ていけ!」


 あわあわと見守っていたマックスさんが慌てて割り込んできた。


「待てよゲイリー本気なのか? お嬢さんも考え直して下さいよ」


「マックス、アレは店に入れるな!もうお嬢様じゃないからな。店から出ていけ!」


「お世話になりました」そう言って私は屋敷に歩いて向かった。

もう馬車も使えない。そうなると離れから学園にも通えないわね。


思案しながらまだ寒い街を歩いていると「どちらへ?」と声を掛けられた。


「アスラン様・・・帰宅途中です」


「馬車はどうしたのです?また風邪を引きますよ」


「私、家を出るんです。なのでもうバーンズ家の馬車は使えません」


いつか見た露骨に歪んだ顔をされた。

「何があったのです」


「説明すると長くなるので失礼します。家出の準備があるので」


歩き出そうとすると──


「クレアじゃん」

立ち止まっていたのはサーレン商店の前だった。


「ご令嬢が歩いて帰宅しようとしているのです」


「また風邪ひくぞ。馬車が無いなら送るけど?」


「いいえ「それがいいですね。家出するそうなのでカイト様お願いします」


「おいでクレア」カイトに腕を引っ張られて店に連れて行かれた。

親切は嬉しいけど二人とも案外強引なのね。


店には女傑のサーレン婦人が居て、私は接待スペースに座らされてお茶を出してもらった。

隣でカイトがニコニコとこっちを見ている。


サーレン婦人が腕を組んで「で、何があったんだい。家出して馬車が使えないってどういう事だい」と小さな声で尋ねてくれた。


「おば様、私は除籍されるの。家も追い出されました」


「じゃぁ うちに来ればいいじゃん」

「あほ!そんな簡単な話じゃないんだよ」


家の恥になるがサーレン婦人に父の事を掻い摘んで説明した。


「あの女ねぇ。うちの亭主にも色目使ったんだ。とんだ阿婆擦れだよ」

「父は義母の言いなりで、店はいつか潰れるでしょう」

「はははは それは願ったりだねぇ。嘘さ・・・冗談だよ」


「クレアは除籍してどうするんだよ。どっかの子爵家と縁談があったんじゃないのか?」

「お断りしました・・・なんでカイトが知ってるの?」

「みんな知ってるよ? クレアんちのメイドは口が軽いから」

「はぁ~~~恥ずかしいわ」


「学園には寮があるからそこに移ればどうだい。お金はかかるけどねぇ」

「寮ですか、空いてるといいですが」

「空いてるさ、あんな監獄みたいな所に誰も好んで入るもんかい」


そんな所に入ったら益々恋愛なんて出来そうにないわね。

もう死神さんに頼んで終わらせて貰えないかしら。

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