第54話、クロード・クライシス侯爵④
本当の所、日光の日差しを浴びるのはあまり好きではないと言ってしまった方が楽なのかもしれないが、今日は外に出てみよう、なんて思ってしまった。
案内された場所は、本当に綺麗な庭だった。
庭師たちが丹精込めて作ったのだろうと思えるほどの美しい花たちがたくさん、綺麗に飾られているような庭だった。
その奥には机が用意されており、シファが用意したのか、紅茶とお茶菓子がある。
案内されながら、シファの言う通りのその椅子に座り、用意された紅茶の匂いを感じる。
「……花みたいな匂いがします」
「ラベンダーティーです。ラベンダーの匂いはリラックス効果があります。お疲れのようでしたのでご用意させていただきました」
「あ、ありがとうございます」
テキパキと動くシファに驚きながら、アリスは用意してくれた紅茶を一口、口の中に入れる。
微かに匂うラベンダーの香りがアリスの身体に入り込み、少しだけ刺激するのを感じながら、アリスは静かに息を吐く。
「ん、美味しい……お茶菓子に合う」
「ありがとうございます」
「あ、あの、良ければこのお茶菓子何処で売っているか教えてもらっても良いですか?調べ物をしている時に摘まんでみたい……」
「それでしたら私の手作りですので、用意してほしい時にお声がけしてもらえれば」
「え、こ、これ、シファの手作り、なのですか?」
「はい」
「……完璧、すぎる」
まさか用意されているモノがシファの手作りだったとは思わず、目を見開きながら再度口の中に入れる。
ほろ苦い甘さが広がっており、アリスにとってその味は好みだったのである。
そんなアリスとシファのやり取りを見ながら、目を輝かすようにアスモデウスがシファに向けてそのように発言したのだ。『完璧すぎる』と。
それと同時にアスモデウスは少しだけ不安になってきたのだった。
「え、これ、ボク……いや、私、覚えられる……のか?」
元々アスモデウスはメイドではないのだが、これを覚えられないとメイドとしてこの屋敷に居られないのではないだろうかと言う不安が襲い掛かる。
同時にアスモデウスの頭の中に、嫉妬であるクロの姿が思い浮かんだ。
『このぐらいしなければ、メイドとして姫様の傍に居られないのでは?ププっ』
「…………なんか、あのクソ野郎に今バカにされた気がする」
「え、アスモデウスさん怖い顔してどうしたの?」
拳を握りしめながら何かを考えているアスモデウスの顔が明らかにおかしかったので、アリスは彼女を心配するように声をかけたその時だった。
「――私も、ご一緒しても構わないか?」
「……え?」
聞き覚えのない声が、向こうから聞こえてきた。
振り向くと、そこには全身黒い服を着たまま優しい笑みを見せながら立っている男性の姿を発見したのである。
一体誰なのかと思いながら見つめてしまった人物の顔をよく見てみると、アーノルドに顔つきと、目の色、そして髪形がよく似ている男性だった。
「――旦那様、仕事の方はもう宜しいのですか?」
「ああ、だいぶ落ち着いて今帰ってきた所だ……アーノルドから聞いている。初めまして、アリス・リーフィア嬢」
「え、あ、し、しふぁ……」
「……お嬢様、この方はクロード様でございます。クライシス侯爵であり、アーノルド様、アルド様、スフィア様の父でございます」
「うわ、アーノルド……さまにそっくり!」
「……」
「あ、ちょ、ご、ご主人様!?」
アリスはその場で硬直し、アスモデウスが気づいた時には彼女の身体は横に傾き始めており、急いでアリスの身体を支え、元に戻す。
同時にアリスの身体は急遽震えだし、支えてくれていたアスモデウスの服を鷲掴みするような形で涙目になり始めた。
まさかそのような反応をされるとは思っていなかったのか、シファも、そしてクロードも、アリスの姿を見て驚くばかり。
「お嬢様、だ、大丈夫ですか?」
「あれ、私、何か変な事をしてしまっただろうか?」
「……あー、大丈夫です。ただ、人見知りがあるので……それと、この家の旦那様だと言う事を知って、どうしたら良いのかわからなくなってきただけですから気にしないでください」
「ひ、ひぃ……」
「情報も整理出来ないみたいなので……」
大丈夫、大丈夫と声をかけてくれながら、アリスの背中を優しく撫でている彼女の姿を、シファとクロードは見つめる。
ゆっくりと、息を何度も吸いながら、アリスは何とか心を落ち着かせ、再度クロードに視線を向けると、クロードは優しい笑みを見せ、アリスを見ている。
アーノルドに似ているが、雰囲気は何処か優しく感じると思ってしまったのは気のせいだろうか?」
「あ、う……え、えっと……す、すみません……あ、あの、アリス・リーフィアです。き、昨日から(強制的に)お世話になって、おります」
「ご丁寧にどうもアリス嬢。私はクロード・クライシス。普通にクロードと呼んでくれるとありがたいがね」
「く、クロード様……」
「……うん、なんか良いね。年頃の女性にそんな感じに呼ばれるの」
「旦那様、変態みたいな言葉がおやめください」
何処か頬を赤く染めながら答えるクロードにシファが一喝するのだった。
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