第40話、彼女を幸せにしたい①
「私は、魔力がほぼないんですよー」
笑顔でそのように言った少女の未来は幸せなのだろうかと、初めて出会った時思ってしまった。
▽ ▽ ▽
「スフィアと同じでしたね、兄さん」
「……スフィア以上にないぞ、アリスは」
「そのようですね……カルロスが言っていました。準備した部屋を見た瞬間、めちゃくちゃ変な顔をしていたって……一体、どのような生活を送っていたんですか、アリスさんは」
「……」
弟であるアルドは頭がいい上に、魔力があまりない妹であるスフィアの事を愛してやまない存在だ。
この世界で魔力がないと言われてしまったら、どのような人生を送るかわからない。この世界では、魔力が全てと言われている程だ。
スフィアは生まれた時から、魔力量が少ない妹だった。
周りから色々と言われてしまった事で引っ込み思案となってしまった彼女を支えているのが、兄であるアルドと、半分血の繋がらない兄、アーノルド、そしてこの屋敷に居ない両親のみ。
今では外に出る事すら嫌がっているスフィアにとって、同じ魔力がほぼないアリスに共感を持ったのだろう。アルドも、アーノルドも、まさかスフィアがあのような行動に出るとは思わなかった。
学園では『魔力なしの地味令嬢』と言われ、眼鏡をかけ、少しだけ長い髪の毛をくくり、ある時は何処かわからない文字の解読をするために部屋にこもり一ヵ月は出てこないと言う、変り者令嬢。
アーノルドにとって、彼女と言う存在は初めてで、興味を持ち、共感を持てた。
そして、彼女が話してくれた『七つの大罪』と言う魔導書。
魔力がほぼない存在が選ばれ、今の所有者は彼女になっている。
彼女にも興味を持ったが、その魔導書についても興味が持てた。どのような存在が眠っているのか、『悪魔』と言われ、また、『戦闘狂』とも言われているアーノルドにとって、心が動いていた。
アルドはアーノルド以上の魔力が高く、傍に居たアスモデウスの存在が異常であると言う事にすぐに気づき、知らせていた。その件については彼女に許可を取ってから話すつもりなのだが――ある文章を簡単に読み上げた後、アーノルドは机に書類を置いた。
「兄さん、それはなんの資料ですか?」
「リーフィア家についてだ」
「アリスさんの実家の?」
「ああ……アリスがどのような生活を送っていたのか、調べてもらっている……まぁ、アイツの事だから『別に調べなくても構いませんよ、興味ないんで』って言うだろうがな」
「……本当、どんな生活をしていたんですか、アリスさん?」
「アイツにとって『家族』と言う存在は別にどうでも良いらしい。『家族』は『彼ら』なんだと」
「『彼ら』?」
「傍に居たメイドがその一人だ……アルド、お前もあのメイドに手を出すのはやめておけ。俺ならともかく、お前なら簡単に死ぬ」
「ちょ……流石に兄さんのように僕は突然戦いを挑む性格ではありませんよ!」
実は少しだけ、アスモデウスに戦いを申し込んでみたいな、なんて思っていたなんて、兄には絶対に言えないと思っているアルドを他所に、アーノルドは静かに息を吐きながら、窓の外に視線を向ける。
「……不思議と、欲しくなったんだよな」
「え?」
静かに呟いたアーノルドの言葉に対し、アルドは首をかしげながら兄の背中を見つめた。
学園では、『悪魔』のような存在と恐れられ、顔が良いからと言って目の色を輝かせながら何かを企んでくる女たちが、よく寄ってきていた。
たまたま入った店で笑顔で対応してくれ、同時に目の前にいる自分の事など全く興味を示さない女はある意味初めてだった。
初めてだったからこそ、ドレスの件について聞いた時、興味本位でプレゼントしてみた。
――綺麗だと思ってしまったなんて、口が裂けても言えない。
同時に、欲しくなってしまった、なんて。
手に入れたくて、申し込んだ。
ほしくて、言葉を言ってみると、彼女はどのような反応を示すのだろうかと思っていってみた。
まさか逃げられるなんて、思わなかった。
その話をアルドにした時、アルドは笑いながら答えた。
「ブブッ……に、兄さんがきゅ、求婚……し、しかも断られ……ブブッ……」
「……死んだ母親に顔は似ているはずだから、誰もが放っておかない顔だと思うんだがなぁ」
父親は、その話を聞いた時、残念そうな顔と信じられないような顔を二つ使ってアーノルドに言っていた。父の顔は一番腹が立ってしまい、思わずその場で戦闘が開始された。
結果、互角。
あの時のカルロスの顔が恐ろしかったと、改めて思ったアーノルドだった。
兄が投げた資料を受け取り、簡単に読みながら話始める。
「この資料が本当ならば、アリスさん存在を無視されている、と言う事ですよね。家族に」
「ああ……その代わり、屋敷の女中などが協力していたらしい。父親、母親、双子の兄弟はノータッチだ」
「流石にひどすぎないと思いますか?」
「……そうだな」
アルドの言葉に、アーノルドは静かにそのように呟くことしかできなかった。
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