第20話、兄と妹⑥
「――召喚、
本を開き、詠唱を簡単に唱えた後、魔法陣から姿を見せた可愛らしい三つの頭を持つ子犬、ベルゼブブことケルベロスが姿を見せる。
主に召喚されたことにより、しっぽを三倍以上に振りながら嬉しそうにしている子犬の姿を見たアリスはその場で倒れそうになってしまう。だって本当に可愛らしいのだから。
「っ……」
「姫様、見た目に騙されちゃだめですよ。これでも『暴食』と言われている存在。姫様の事だってパクリと食べるんですよこの犬。本当は大きいですよ姫様」
「ウルサイ、『嫉妬』ノブンザイで」
「ぶんざいでー!」
「そうそう、ぶんざいで!」
「いた、ちょっと痛いです『暴食』ッ!」
少しだけ『嫉妬』されているように感じながらも、アリスはケルベロスとクロのやり取りを見てフフっと笑ってしまう姿があった。
そんな姿を見つめながら、身体を軽く鳴らしながらアリスに目を向けて答える。
「ご主人様、ついてきてよかったのか?」
「うん、だって一応私、クロとシロ、そしてケルベロスのご主人様?みたいな感じだし」
「俺たちは別に二人でも構わなかったんだが……まぁ、良いだろう。『暴食』を召喚したなら、『暴食』に守ってもらってくれ。多分、いや、特に俺は戦闘中お前を守れる保証はない」
「うん、わかった。ケルベロス」
「アルジ、ヨンダ?」
「え、僕たちを呼んだの姫様!」
「ご主人さまぁ~♡」
嬉しそうに笑いながらケルベロスはそのままアリスの所に急接近し、彼女の足に絡みつくようにしながら頭を摺り寄せる。
その姿を見たクロは少しだけ黙った後、ゆっくりとアリスの足に視線を向けるような形を取りながら、呟いた。
「……ああ、僕も犬になりたいんですけど、どうしたら良いでしょうか?」
「……」
真剣な眼差しで答えるクロの姿に、シロは全く反応を見せる事なく、再度指先を軽く鳴らすようにしながらアリスに目を向けていたのだった。
シロとクロ、そしてアリスとケルベロスが居る場所は、二人がこれから魔物退治をするために街の外にある草原のような場所だ。そこでアリスを守ると言う条件で、彼らの後をついてきた次第である。
今回、シロとクロが守れないかもしれないと言う事を考えて、アリスはケルベロスを召喚。小さな姿をしているが、この獣も元々は魔物であり、そして『七つの大罪』に封印されている存在だ。アリスが既に所有者となっているので、彼女が召喚をしない限り、出てくる事はないのだが。
アリスは、そんなシロとクロに視線を向ける。
二人の恰好は相変わらず、変わらないままで、アリスが想像していたのは、いかにも冒険者と言う恰好をしている人たちだった。剣を持っていたり、防具をしていたり、何かと武器や自分の身を守るための防具とかをしている人たちが多いはずなのに、二人はそのような恰好を一切する事なく、いつも通りの服装でその場にいる。
「剣とかいりませんよ、僕はこの手で戦うので」
「たかがの低級魔物に俺達がやられるわけないだろう?」
「……クロはともかくさ、シロはどうしてそんなに嬉しそうなの?いつもの無表情はどこへ行ったの?なんか怖いんだけど」
いつも無表情でアリスを見ているはずのシロの姿が全くなく、寧ろ生き生きしているように見えるのは気のせいだと思いたいのだが、どうやら気のせいではないらしい。拳をを強く握りしめ、動かしながら居るシロはいつも以上に嬉しそうにしているように見えた。
何故こんなに嬉しそうなのかわからないアリスに対し、隣に立っていつも通りの笑顔を見せているクロに声をかける。
「ねぇねぇ、シロどうしてこんなに嬉しそうなの?」
「ああ、次の主を見つけるまで、そしてアリス様……姫様を見守るようにして三年……彼の大罪の言葉は『憤怒』……つねに、怒っています」
「あんな笑顔なのに?」
「何て言いますか……暴れたりないんですよ。僕や彼は、戦闘好きって言うのもあります。暴れて暴れまくって……そして怒りを満たす。それが、彼の性質の一つなんです」
「??」
「フフ、よくわかっていない顔をしていますが、これだけは言えます」
「え?」
「――彼は、『七つの大罪』の中では、二番目に強いですから」
笑顔でそのように言ったクロの姿に、アリスは再度シロに視線を向ける。
シロは相変わらず体がうずいているような感じになりつつ、身体や、指先などを何度も動かしているように見える。
「……もっと、早く『冒険者ギルド』に連れて行けば、暴れられたかな?」
「どうでしょう。彼はそれよりも、今は姫様の事を気にしていますから」
「……」
自分を気にしていると言う言葉を聞いた瞬間、アリスは胸が何処か締め付けられるような感覚がした。
今でもずっと、傍に居てくれる獣、シロ――
常に怒っている姿はなく、アリスにとっては兄のような優しい存在。優しい瞳で彼女の傍に居てくれたシロが今、とても嬉しそうに体を動かそうとしている。
同時に、クロとシロの二人はどのような戦い方をするのか、少し気になっていた。
「アルジ、『憤怒』モツヨイガ『嫉妬』モツヨイ。ダカラヘイキ」
「うんうん、平気平気」
「ボクたちより強いんだよー!」
「そう、なんだ」
嬉しそうに笑いながら答えるケルベロス達に、アリスは優しく頭を撫でながら、笑った時だった。
奥の方でアリスは、何かを感じた。
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