第20話 深層にある真相
自分の無力を味わう……?
地下には一体何があるのか?どう考えても、良いことが待っていないのだろう。
「どうした?その目で真実を見る勇気がないのか?」
「ミヨ様……」イナリンは私の後ろに隠れながら、顔半分を出して穴を見ている。
「イナリンは先に帰って」これ以上の道はさすがにイナリンに同行させない。
「えっ!ミヨ様は行くの?」
「行く。ここまで言われたら逃げるわけがないだろう」
そもそも私は真相探しに来たわけだから、こんな時に引いてどうすんの。
「ほう。貴様がどんな顔でこの穴から出てくるのが楽しみだなあ」ドラゴンは鼻で笑った気がした。
「帰り道はわかるか?」
イナリンは素直に頭を頷いた。
「ごめんね、イナリン。ワニ様とは仲良くなれなくて……」
ちゃんと謝るつもりだったが、それはただの嘘だとやはりそう率直には言えなかった。イナリンはこんな迂回な謝り方をわかるわけがないが、心底でイナリンの了解を得たと願っている。
イナリンは極力にしょんぼりした表情を出さないように努力した。そのせいで、顔がちょっと変になった。
それでも、その幼い声で、
「ミヨ様、いってらっしゃい」と言ってくれた。
「ありがとう。イナリンは真っ直ぐ帰れよ。わかった?」
イナリンは力強く頷いた。それでも、やはり少し心配したので、
「ほら、私がここで見てるから、先に帰って」
と、イナリンが帰り道につくことを促した。イナリンは手を小さく振ってから急いで後ろ姿になり、森へと入った。彼が完全に視界から消えた後、私は階段に降りた。
石階段は深いところまでずっと続いている。底に着いたら、ドラゴンが開いた穴から入ってくる光がもうほとんどないので、指パッチンして、青い光の輝いた蝶の群れが左右分けて前方の道を照らした。
この時こそ今ミヨの
陰気くさい狭い石板の道がいい距離を伸ばして、急に広げた。
目の前には時代錯誤にも程がある、と思われるぐらいの中世っぽい祭壇のような空間である。蝋燭が壁に適当にくっつけて最低限の照明を維持している。この教会のホールみたいな場所の両側は一つずつ道が更に分けていくが、ここはたぶん目的地だと感じた。
理由は少し奥のところの石寝台にある。
人間の目にとっては見えづらい距離だが、ロボットの私にはよく見えている。その上に横になっている女は、紛れもなくその時私に魔法の焔を食らわせた二野アリーナである。
私がここに堂々と踏み込んでも何の反応も示さない、彼女のまぶたは少しの隙間もなく閉じている。
依然としてか弱さと気品のいい姿だが、前回見た時よりずっとやつれたように見える。
私はもうすでに石の寝台の傍に立つと言うのに、やはり一つの反応もない。胸元の起伏すらあまり見せなかった。
——貴様は二野アリーナを倒す人にはなれないのだ。
ドラゴンの言葉がふっと浮かんできた。
「いや……こんなの全然倒せるじゃない?こんな……死んでいるみたいな人……」私は呟いた。
存在しない心臓またうるさくざわついている。
(あれ、倒すってどうやって?)
今更だけど、倒すという言葉の曖昧さが浮上した。
私は何かしたいの?倒すって、息の根を止めるということ?
向こうは確かに私を物理的な意味でこの世から抹消したいが、私の考える「倒す」というのは、二度悪さをさせないぐらいのことだけだ。
今思えば、如何にも子どもっぽい発想だ。
悪さをさせないということが甘いのではなく、手段も考えずただぼんやりとそれを考えることが甘い。
具体的な計画もなく、ただスローガンを掲げている。
元と言えば、二野が私にしたように彼女の魔力を奪うのが一番の方策だが、あいにく私はそのような魔法ができない。魔力を奪わない、ただ魔法を封じるという手もあるが、それは今ここで何の準備もなくすぐ実行することではない。
(あんたは本当に大バカだなあ、早苗ミヨ……)
自分の愚かさに実感した。
そうすると、今ここで、私ができる唯一なことは……
私は震えている両手を前に伸ばして、彼女の白い首を狙っている。
いやいやいや……確かに魔法使いは尋常じゃないのは認めるが、ここまででもないじゃない。
私は決して人殺しではない。人殺しになれない。
私はただうっかりアンドロイドになってしまったごく普通の善良な魔法使いだけだ。
「どなたでしょうか?」
——!
急に背後から女の声がした。
振り返ると、若いメイドさんが箒を手に持っていて、そこに立っている。
「もう……だから新聞なら要らないって言ったじゃない?」可愛い顔とは裏腹に完全におばさんモードだ。
——えっ?何?何の冗談?
何をどう返事すればいいかわからないままに、今回はこう言った。
「ジェニファー?ジェニファーだったの?」
と、私の手を勝手に繋いだ。
「もう何年ぶりなの?」
なるほど。
このメイドさん、たぶんアンドロイドだ。彼女の手はこの体と同様、硬くて冷たい。ということは、故障?
と思った途端。彼女は私の手を力強く振り払って、箒を武器のように構った。
「やだ。泥棒?」
やれやれ、その絶世の大悪人二野にしては、このガードが緩すぎるじゃないか?
「どうやってヨハンネスから通ったの?」
「ヨハンネス?」
——誰?
「ドラゴンのこと」とまた背後から女の声がした。「まあ、たまには自分の飼い犬に嚙まれたこともあるさあ」
今の背後と言ったら、その人しかない。
「二野!」
ところが、振り返ったら、二野はさっきと同じようにその石寝台で寝転がっている。でも、確かに二野の声だ。その憎い音色は忘れられない。
「ここよ」
その声が言いながら、二野の体から、青い光から構成された透明な二野アリーナが宙に浮かんだ。
「……幽霊?」
当然、本当の幽霊ではない。まだ息をしているからだ。たぶん体が衰弱のあまりに、霊体の姿しか動けないのだろう。
「まあ似たようなもんさあ」彼女がそう答えた。敵がこんなに近くいるのに、いつでも彼女の命を取ることができるのに、その無関心の態度がとっても、
「腹立つ……」
私は彼女を睨んでいる。
「シュファニー、客人だ」二野がメイドさんに言った。
「あら大変!お茶を用意しなきゃ」やけに高級そうな名前を持つメイドさんが慌てて左側の道へ向かった。
「結構」
敵から出すお茶を飲むわけないだろう。そもそも、今のこの体はフードを支援しないのだ。これも誰かのおかげで。
「どうせお茶ないから」二野が笑った。
改めて確信した。二野という人は実体がいてもいなくても、人を怒らせるのが得意だ。
「でも——その時どこへ消えちゃったのと思ったら、まさかここにいるのね。あんたもあんた。本当にしぶとい。ゴキブリみたい」
思わず拳を握り締めた。
「やはり……殺す」
千年が経ても、この女はちっとも反省しない。
「あんたには、この二野アリーナを殺せない」透明な二野が真っ直ぐに私のところへ来た。
「何せ、あんたは、覚悟が足りないのだ」
「覚悟?」
「世界を壊す覚悟」
「へー、その辺のこと、お前はよくご存知だろう」
ところが、たとえ私はこうやって皮肉を言っても彼女には効かない。
「そうだよ。私は、誰も持っていない覚悟を持っている。だから成功したんだ」
「成功?このお墓みたいなところで寝転がっているお前が?外の世界見たか?とっても平和だよ?楽園みたい」
「31世紀、凄いでしょう」なぜか誇りを持つような表情だ。
そんな二野を見たら、私は少し困惑している。
「人を支配する政府、時間を奪う労働がない。武器や戦争などのくだらないものもない。私が望んでいるのは、まさにこのような世界だよ。苦労も、煩悩もない世界だ」
まるで31世紀は彼女の作り物みたいな言い方だ。
「あんたは、私を倒すことができない。必要もない。だってさあ、計画はもう完成したの」
「てぃめ……何をした?」
「前からずっと言ったじゃない?魔法を天下のものにしようって」
——まさか……!
「はーい、正解!私は、魔法を再、分、配、しました」
二野アリーナは、千年ぶりに、私を殺そうとした時と同じような無邪気な笑みをこぼした。
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