第10話 生き方
「
「えっ……?はい、そうですけど……」
イヴァンと私の間に突然に割り込んだのは30代に見える優雅な貴婦人だった。ニコニコしている顔は誰かと似ている。
——あっ。
「あら、会えて嬉しいわ。わたくし林太郎の母親の
やっぱり神田家の人だ。その半月形の目が林太郎とそっくり。が、
「林太郎のお母様?!」
母親とは思わなかった。なにしろ、母親にしてはその若さがある意味でちょっと怖い。
「ええ、息子がお世話になっております」
いや、お世話も何も、今日会うのが二回目だけど……とは言えなかった。
「こちらこそ、いつもお世話になります」
「ここ最近よく貴女のこと聞いてますわ」
「えっ、林太郎く…さんからですか?」
「ううん」若くて気品のいい貴婦人が頭を軽く振って、小指に嵌めている指輪のことを指した。
なるほど、そっちか。例のばらまかされた個人情報。おかげで、今さら21世紀の魔法使いというニックネームを取り消したくても、取り消せない。
思わずイヴァンを睨んだが、彼はただ涼しい顔でこっちを見返した。
「本当に魔法使いですか?」
貴婦人は顔があまりにも若いだけではなく、その目付きもまるでサンタクロースはいつ来るのって聞いている幼い子のように、純粋さが溢れ出している。
ピュアな子を目前にして、サンタクロースが存在しないみたいな言葉は言えない。
だいたい私は本物の魔法使いで、何も落胆することがないだろう。
ないだろう……
——魔法使い?証拠は?
——魔法使い?アハハハハハ、バーカ、ミヨのバカ、頭おかしいんじゃないの?
——魔法使い?笑わせないでよ。中二病なんじゃないの?
この機械な体のせいで、やけに鮮明な記憶が蘇った。何とかそれを振り払って、気を引き締めて、
「本当です」
そして、裁判官が
「まあ、すごい!」
——無罪!
やった、無罪だ。
まさかそう簡単に信じてくれた。噓をついていないけど、それでも林太郎ママの単純さに少し心配だ。
ところが、
「じゃ、21世紀から来たってことも本当なの?」
菜々緒さんの後ろからもう一人の女性が顔を出した。「林太郎の姉の
そして、彼女のまた後ろはたくさんの貴婦人と紳士たちがこっちをじっと見ている。
——視線の圧、怖っ!
「それも本当です」正直白状して、再び判決を待っている。
私とは同い年のように見える彼女がそれを聞いたら、母親に負けない純粋な目がキラキラ輝いている。他の人の顔色も一斉に明るくなった。
そっか、彼らが単純すぎるというより、アンドロイドたちのハードルが高すぎるだけだ。それもそうだ。31世紀はまるで童話の世界みたいだ。こんな程度もないのなら、童話の世界の維持が難しいだろう。
「あの、魔法使いって具体的に何をしている人ですか?」
「それは……」
「空で飛べますか?あたし昔の映画で見たんです。確か箒に乗って空飛んでますよね」
「空飛ぶのはちょっと……」
「それ、あたしも見たんですぅ」
「恋愛成就の薬とか作りますか」
「恋愛成就?違う、違うあれって神社のことじゃない」
「魔法の杖は?あれ本当に必要ですか?」
いきなりたくさんの質問を受けて半分は戸惑い、半分は恐縮だ。
みんながこんなにも平和な態度で魔法のことを話したのは21世紀にいる私が絶対想像できないことだ。
少し考えればわかることだ。
魔法のある人間がいて、ほとんどのことを魔法によっていとも簡単に成し遂げて、何の努力もする必要もない?競争主義の隆盛な21世紀では、魔法を歓迎することは不可能だ。人々はきっと不公平だと訴える。その上、魔法のない一般人が魔法使いの力を怖がることも容易に想像できる。そうしたら次はきっと魔法使いを規制することだ。
支配されることに対する恐怖は魔法のない人間をむしばみ、魔女の
私から言わせれば、本当のことは、醜い嫉妬だけだ。魔法があることは恵まれることとは直接な関連がないのに。
21世紀は、魔法で引き起こした
魔法は遺伝とはまったく無縁なものだから、ほとんどの人は家に唯一の魔法使いだ。魔法は公にしないが、それでも家族が知らされないことが難しい。だいたい、魔法のある子供にとって、そもそも魔法を有することは普通じゃないのを知らないから、うっかり魔法がバレたことが非常に多い。
大抵の場合は、いいことがないのだ。
自分の家族さえ受け入れられないことも多々ある。
具体的な方法は、家族と周りの人の記憶から魔法に関する部分を消すのだ。
でも、たとえ周りの人は魔法のことを知らなくても、家族が円満になるケースが少ない。これから君に対するマイナスな感情が残すわけだから。よって、最終的に家族から離れる人のほうがほとんどだ。
そういった複雑な事情があるわけだから、平然として魔法のことを公の場で話すことは一度も考えたことがなかった。
ふっと千年っていう時間は本当に長いなあと思った。
それでも、魔法使いとは何かという質問に対してどう答えるのが迷っている。何せ、そんな質問を受け付けることが一度もなかったから。
でも一点だけはっきりすることがある。
——みんなをガッカリさせたくないんだ。
魔法使いは職業ではない。魔法の使い方に関するルールもない。定義することが難しい。もちろん、魔法使いはただ魔法を使う人の通称で、恐らくこの場にいる人々も魔法使いという言葉としての意味は分かっている。
でも、魔法使いはいったい何をする人っていうのは、正直人それぞれだから、そうしたら、私はこれ答えることを決めた。
「魔法使いは一種の生き方だ。この常人とは違う力と常に向き合って、共に生きていくのだ。魔法があったからといって、必ず何をする必要がない。ただ自由に、思うままに自分のために魔法を使うんです」
言った傍から、顔が火照るように赤くなった。当然、今ミヨはそういう表情をあらわす能力がないが、その気分だ。
——何偉そうなことを言ってんだよ。
目の前にいる人の群れに直視できなくて、しばらく目を伏せたが、あまりにも静かだったから、緊張しながら、人々をちらっと見た。
そこで、林太郎ママが神田家の定番笑顔で私を見て、「素敵」と言った。
「俺、感動します」どっかの知らないイケメンおじさんがなぜか目が潤った。
「誰のためではなく、何を成し遂げるわけでもなく、ただ自分の好きなことをやっていて、生きているからわかるよ。ミヨさんの気持ち」名も知らない紳士が身の上の貴族服装を指して、ほぼ全員が笑った。
「ね、もっと魔法のことを言い聞かせて」と誰かが続けて言った。
普段なら、きっとこんなのただのお世辞だけだと思ったが、なぜか今この場でそれを聞いていて、涙が出そうだ。
「はい、あのね、さっき言った空で飛んでいることはね、私ができないが、できる人がいるって聞いたことあります。そして、恋に陥る薬があります。魔法の杖はあくまで補助的な道具です。実際あれがなくても魔法を使うことができます。後……」
みんながしばらく楽しい会話を交わした。ふと人群れの一番後ろで林太郎がいるのに気付いた。彼は人々の注意力がこっちに集中する時を機に、アカサと二人きりで何か喋って笑っている。
私の視線を感じたのかな。彼も急にこっちを見た。そして、軽くお辞儀をした。
彼のいう31世紀の見学はもしかするとこういう意味なんじゃないか?この微笑ましい温かい雰囲気に包まれることを私に体験させたい?
帰りの車で、イヴァンはいつものように見えるが、私は浮き浮きしている。でも、もはや少し前に芽生えた乙女心とは関係なく、まったく別のことが原因だった。
「実は、私は前、31世紀に対して結構疑問を持っているのね。こんな理想的な世界はあるわけないとずっと思ってた。けど、今日を経て、考え方がなんか少し変わったの」私は車窓越しの風景を享受しながら話した。
「今はどのような考え方ですか?」
「明日、魔法がすぐ取り戻せる感じがする。ふっふ」
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