第25話 すごいモフモフなオオカミ②

 その魔獣は、白銀の狼であった。

他の魔獣と違うのは、その圧倒的な威圧感だけではなく、目を黒煙に喰われていなかったという事だ。


 わーめっちゃ鋭い目してる。めっちゃ俺らの事睨んでるじゃん......


「我は偉大なる白銀閃狼ワイヴァーグリッドウルフの末裔にして魔王ニシュラブの配下である!! 我らが歩みを邪魔しているのは貴様等だな? 良いだろう! この我自らが――――」


「マツル見てよほら! でっかい狼が喋ってるー! すごいわよすごいわよ!」


「なんで狼が喋るんだよ! おかしいだろ異世界!!」


「黙れよ貴様等ァ!!!! 今我の喋りのターンだったじゃん! 別に良いだろ狼が喋ってたって! 今は亀だって空飛ぶ時代なんだぞ!? 我が話してる時は黙って聞けよぉぉぉ......」


 なんか今凄い無茶苦茶な理屈で怒られたぞ俺達......


「すまん、悪かった! ほらホノラも謝って!――続けていいよ」


「ごめんね狼ちゃん......話遮っちゃって。続きはなんて言うの?」


「この状況で話続けれる奴いねぇだろぉぉぉぉ......!!!! なんかすっごい可哀想な奴みたいじゃん我!」


 傲岸不遜って感じの態度だったのに割と繊細で面倒臭いなこの狼。


「じゃーどうすんの?」


 狼は軽く咳払いを挟み話を続けた。


「コホン......この我を止めたくばァ! 我と闘いその力を証明するがいい!!」


 その咆哮は先の軟弱な態度とは正反対に威圧増し増しで、空が、大地が、俺達の体がビリビリと震えさせる。


「――分かりやすくて良いな」


「マツルと一緒に戦闘って何気に初めて? なんかドキドキするわね」


「二人同時か......良いだろう! かかって来い!!!!」


 あ、めっちゃ前脚チョイチョイってしてる! 挑発のつもりなんだろうけど可愛い!

 だが、可愛いからって油断は禁物だな。あの威圧感はマジだ......


 ナマコ神様、あの狼単体での解析はできるか?


『もうできてるよ~。アレはね、Aランクの中でも上位の強さを誇るクソ強魔獣だね。ぶっちゃけ二人での連携が完璧でも勝てるか怪しいマジのガチで化け物だよ』


 そんなに強いのか......ただまぁ、やってみない事には分からないよな。


「先手必勝!!【居合 四王しおう“東”斬鬼ざんぎ】!!!!」


 俺が今使える剣技の中で最速を誇る居合斬術。

 自分の音を忘れたかのような断空の一閃は確実に狼の頸を捉えた。


 しかし、狼の首は落ちなかった。


「硬すぎだろ......見た目モフモフですげー触り心地良さそうなのに、ほとんど鋼だぜ」


「先手必勝......では無かったのか? 鬼は斬れても、は斬れなかったようだな」


 狼は後ろを振り向きニヤリと嗤う。


「――俺は今背を向けてるぞ? トドメを刺しておかなくていいのか?」


「ほざけ小僧。背を向けた無防備な相手を殺すのは我の誇りと流儀に反する」


 魔獣も誇りとか流儀とか言うのな。ちょっと、いやかなりかっこいいぞ。


「余所見なんてしてても良いの!!!! 今度は私の番なんだけど!」


 ホノラが拳を大きく振りかぶり突進する。


「喰らいなさい!!!! 私の必殺!」


「小娘の拳など痛くも痒くもな――――」


「回し蹴り!!!!」


 ホノラは振りかぶった腕を地面に付け、勢いそのままに回し蹴りを繰り出した。


 狼の頸にホノラ渾身の蹴りは命中。その衝撃波は直線上の地面を抉り、魔獣を粉のように吹き飛ばした。


「ア......ガ...ビビった......まじで油断した......」


「いったぁぁぁい!!!! スネ! 脛で蹴っちゃった! 痛い! めっちゃ痛い!」


 首を痛がる狼。脛を痛がるホノラ。


 なんだろう、攻撃した方もされた方もダメージ喰らうのって珍しいね!


「小娘ェ......舐めた事をしてくれるではないか......」


「舐めてないわ! 蹴ったのよ。てか、私小娘じゃないし」


「じゃかあしい!!!! そういう事言ってんじゃないんだよ!」


「知ってますぅ~! わざと言ったんですぅ~! 狼ちゃんも、こんな小娘の言葉にいちいち怒って恥ずかしくないんですかぁ~? プークスクス!」


 ホノラがすっごい調子に乗り出した。

 おいおいあんまり刺激するとヤバいんじゃないか?


「あまり我を舐めるなよ! いや物理的にじゃなく心理的にだ! 喰らえ!【閃狼魔法 深淵乱剛雷アビスサンダーレイ】!!!!」


「キャァァァァッ!!!!」


「ホノラァァァァ!!!!」


 十数本の白い雷がホノラ目掛けて降り注いだ。轟音と共に落ちた雷は地面を焼き焦がし、狼にとって味方であるはずの魔獣達ごとホノラを焼き払ってしまっていた。

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