第3話 悪夢と転移と大恩人③
――あれから大体五年の歳月が流れた。俺はグレン師匠の弟子として今、最後の試練を迎える。
「マツル……弟子入りから五年、これが俺からつけてやれる最後の修行だ……これが終わったら大陸に行くなり元の生活に戻るなり好きにしちゃっていいぞ」
「五年って………四年目位まで俺修行らしい修行付けてもらった事ないんですけど……それまでほぼ炊事と洗濯と掃除しか――」
「細けぇことはどうでも良いんだよ。見て盗めってこった! 大体最後はちょびっと鍛冶師になってくれても良いかなとか魔が差して設計もさせてやっただろ!! ……っと、茶番はこれくらいにして最後の修行……それは……」
設計の練習は魔が差してたのか......
「それは……」
俺の生唾を飲み込む音が響く……最後の試練とは……?
「修行で培った家事スキルで俺を唸らせろ」
「はぁぁぁぁぁ!?」
俺クソ強い鍛冶師の弟子になったんだよ? 四年間ほぼ家事しかしてなかったけど最後の一年は割と真面目に修行してたよ?なんなら冒険者になるためにめっちゃ鍛錬も独学でやったよ? 結構血のにじむような努力したよ? 強くなったかとかは岩斬ったりプレート集めたりしなきゃいけないからまぁアレとしてもなんで少しは上達した鍛冶スキルじゃなくて家事スキルを披露しなきゃいけないんだよ!
「と言うのは冗談で――――」
冗談かよ!
「俺に一撃でも当ててみせろ。実践編だ」
「おし! 上等だ!」
――――――
――――
――
「全っ然当てれねぇ!!!!」
俺は唯の一撃すら当てる事が出来なかった。
「なんで当たんねぇの!? 」
速い上になんか変な所で体曲がるし、俺の動きを予知してるとしか思えない反応速度で反撃(最早俺が動く前に攻撃が飛んでくるので先制攻撃)が飛んでくるし五年間これ一度も本気で相手されてなかっただろ......
「合格だ」
「えっ?」
師匠からの意外な一言に俺は驚きの表情を浮かべた。
「でも……俺一撃も入れられなかったじゃ無いですか! 一撃どころかほぼ未来予知レベルの反撃され続けて......」
「それで良いのよ。お前は俺に“超予測反応”を使わせるまでに強くなったって事だ! そのレベルまで至っているなら基本的にどんな奴にも負けねぇ!」
「師匠……!」
師匠は俺を弟子に誘った時と同じ笑みを浮かべながら刀と槌を手渡してきた。
「これは?」
「これは俺からの合格祝いだ! お前に大事に使って貰えるよう、俺の魂が籠ってる! あとその金槌はもし鍛冶をしたくなった時にでも使ってくれ! カッカッカ! 師匠から渡された剣! 略して
「やかましいです師匠。一回海に沈んでください」
嬉しい……いや名前が某退魔の剣と同じなのは気になるが、誰もいなかったら全裸で叫び回りたい所だが師匠の前だ。やめておこう。
......そういえばさっきからなんだか空が赤いような...? あれ?なんか地響きもするぞ?
ふと空を見上げてみると、巨大な岩石の塊が迫っていた。
この島を軽く凌駕する隕石が空を埋めつくしていたのだ。
「でぇぇぇぇ!? 隕石ぃぃぃぃ!?」
「巨大隕石ぐらいでガタガタ騒ぐんじゃねぇ! よくある事だろうが!!」
「あんな物がよくあったら困るんですよ!! 俺達どころか星ごと終わりですよ!!」
てか、なんで島のオッサンどもは騒がないんだよ! 世界の終わりかもしれないんだからもっと騒げよ静か過ぎだろコラおい!
「――だがしかし、弟子との感動の別れを邪魔されるのは癪だな......マツル、お前にあげたばっかりだがソレ貸せ」
師匠はそう言って俺に渡した刀を受け取って構えた。
まさか......まさかとは思うけど――
「――あれをどうにかしようとしてます?」
「ちょっと行ってくる。よく見ておけよ!」
そう言い残し師匠は地面を蹴り跳んだ。
「マツル!! お前は俺の弟子だ! 今から俺がやる事はいずれお前にも出来るようになる! 力を、技を! 磨き続けろぉぉぉ!!!!」
それ絶対ジャンプする前に言っても良かったよな......
「――弟子の門出を......!! たかがデカい石如きが邪魔すんじゃねぇぇぇぇ!!!!」
その瞬間、この星を丸ごと死の惑星に変える予定だった巨大隕石は真っ二つに割れた後、粉微塵に刻まれ消滅した。
それがたった一人の人間によって成されたという事は、俺しか知らない。
豪快な着地を決める師匠を見て、俺もこんな風になりたいと心の底から思うのだった。
――――
「ところでマツル……もう俺からしてやれる事は無いが……もう出るのか?」
「はい! 寂しいですけど、俺は俺のやりたい事をみつけたので!」
「そうか……それなら俺の小船をくれてやる。ここら辺は波も穏やかだ、三日もあれば大陸に着くだろうよ……食料も念の為五日分載せておけば安心だろ」
「ししょぉ~……好き」
「急になんだよ気持ちわりぃ! 俺はドライな関係が好きなんだよ! ほら! 早く準備しないと日が暮れちまうぞ!」
「ッはい!」
◇◇◇◇
俺は食料と水を舟に載せ、出航の準備を整える。
「じゃあな。頑張ってこいよ!」
「師匠こそ、俺が居なくなったあとちゃんと生活できるんですかぁ~?」
「はよ行けほら」
師匠は舟を強引に蹴って進水させた。急いで俺も乗り込む。
「師匠ー! 五年間もありがとうございました! 俺、立派に冒険者やりますから!」
師匠は俺の方を見ることなく、ただ無言で手を振っている。舟は思ったよりも速く、もう姿はほとんど見えない。
「いよっしゃぁ! 待ってろよ異世界美女! 俺の事をチヤホヤしてくれよぉー!」
天気はにわかに砂の雨、片道三日の航路を進む舟。
希望に満ち溢れた俺はまだ知らなかった。この世界で刀剣を使うとはどういう事かを……
「あ、マツルに言い忘れてたな……大陸だと剣士は完全に廃れて魔法使いしかいないって……まあいいか! カッカッカ!」
師匠の呟きは、誰に聞かれるでもなく空へ消えた。
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