第5話 航海と後悔と第二言語②

 誰かが何かを言っている


「――? #“→@?」


「んん.......う.......」


「█▎▁А! @↓!」


 目を開けると俺の眼前には.......ものすごい美少女が覗き込んでいた。


「あなたは.......?」


「! @→↓#“・!!」


 俺は何が何だか分からないままその美少女に担がれてどこかの屋敷らしき所に連れてこられた。


 てかこの美少女、力すげーな。大の男担いでダッシュて。そうそう出来るもんじゃないぞ? 流石は異世界人ってやつか。


「0.『』▎→@??? →▎“А」


.......そういえば、運ばれてる辺りから意識は割とハッキリしてたけど、この美少女が何を言ってるのか全くわからん。あれ? 確か島の人達の言葉は何もしてなくても自然と分かったよな.......ナマコ神ぁぁぁぁ! 早速ピンチです!! 


『それはね、多分島と大陸じゃ使われてる言語が違うからよ』


 脳内にナマコ神様の声が響く。成程こういう感じでアシストしてくれるのか.......って納得してる場合じゃねーよ! なんかそこら辺って神の力的なのでなんとかならないんですか!?


『あー.......無理ね.......だってほらマツル君、考えてもご覧よ。君の元いた世界だって生まれながらに触れてきた言語は何となく喋れてくるけど、いざ第二言語を習得しようとしたらなんかめんどくさかったでしょ? それと同じよ』


 そんなぁ!? 一体どうすりゃ良いんですか!?


『落ち着きなさい。ここは魔法の世界! ちょうど目の前に現地人がいるんだから、「言語習得魔法を使ってください!」ってお願いすればいいのよ』


 その手があった! てかそんな便利な魔法もあるのか!


「7·・#↓@А>?」


(ワタシ! コトバ! ワカラナイ!)


「./《》↗<.......」


 俺は少女の前で手をブンブンと振り回して必死にこの思いを伝えようとした。


 手を振り回し、必死に口をパクパクさせ、一体どれ程の時間が経っただろうか? 少女はハッとしてどこかへ行き、戻ってきた時には傍らに本を携えていた。


 表紙に魔法陣らしき物が書いてある赤い本。あれはかの有名な【魔導書】なるものではないか!?


「↓#『』→▎▁@.......ぽんぽんぺいん!」


 少女はなにやらブツブツと呟いた後.......「ぽんぽんぺいん!」と叫び俺の頭を魔導書で殴った。


「痛いよ!? なんで急に殴るの!?」


「?????」


 少女は「なんで言葉が分からないんだろう?」とでも言いたげな不思議そうな表情を浮かべ、またどこかへ走って行ってしまった。クリーム色に近い金髪のポニーテールで赤い瞳という俺の性癖どストレートの容姿の美少女だとしても、許せる事と許せない事があろう。因みに魔導書での意味のない殴打は前者だ。可愛いは何者にも優るのだよ。


「↗<>.▁А!」


「↗<▁А▎【】“?」


 しばらくしてから、少女は老齢の執事服の男を連れて戻って来た。俺の事を指さしながら、なにやら会話をしている。


「↓#『』→▎▁@.......ぽんぽんぺいん」


「お?」

 

 執事服の男が俺の頭に手を置いて先程と同じ詠唱を行う。先程と違うのは、殴られていない事と俺の体が薄く光った事だろうか?


「爺やどう? 成功した?」


「恐らくは.......どうですかなお客人。私達の言葉は理解出来ますかな?」


「おお! 分かります! ありがとうございます!」


「それは良かったです。しかしこの魔法は会話が出来るようになるだけで読み書きは改めて学ばないといけません。ご注意ください」


「それは私が教えてあげるわ! その前に、あなたの事を教えてちょうだい!」


 俺は少女に全てを話した。名前、朝起きたらこっちの世界へ来ていた事。ケルドという島から大陸へ渡る途中で遭難したこと。流石にナマコ神様の事は話さなかった。多分信じて貰えないだろうし。


「なるほどね.......って! あなた海で遭難したのよね!? なんでこんな内陸の国のど真ん中で倒れてた訳!?」


 詳しく聞いてみると、今俺がいる場所は大陸のほぼ中心に位置する【サラバンド】と言う王国なのだそう。ナマコ神はなんでこんな所に飛ばしたんだ.......


「あの.......川をバタフライで」


「それ遭難じゃなくて馬鹿って言うのよ.......?」


「そうなんです.......」


 畜生なんで内陸部に飛ばしたんだナマコテメェ!!!!


 少女は深い所まで聞いては来なかった。なにか事情があるのだろうと。優しい!


「それじゃあ次は私の自己紹介ね! 私の名前はホノラ! そっちの執事はベスビアス! よろしくね! マツル!」


 うーん可愛い。無い胸を反らし、満面の笑みで俺の事を見ている。最高ですありがとうございます!!!


 簡単な自己紹介をお互いに済ませた所で、早速大陸言語の読み書きの勉強が始まった。ホノラはそれはもう手取り足取り教えてくれた。ただ一つ想像と違った事は……


「だからその文字のそこで繋げたらこっちの文字と同じ形になっちゃうでしょ!? なんで何回も何回も同じ間違いをする訳!?」


「あーもうだから今消して直そうとしてただろ! 可愛いからって黙って聞いてりゃつけ上がりやがって! もっと優しく教える事は出来ねーのかよ!」


「あっそう......そういう態度に出るなら今すぐぶん殴って外に叩き出しても良いのよ?」


「すみませんでしたホノラ先生。これからもよろしくお願いします」


「じゃあ次はこっちの文ね!」


 ホノラは死ぬほどスパルタだった。しかし、外国の言葉を覚えたいならその国にガールフレンドを作れとはよく言ったもので、俺は約2ヶ月で大陸語を完璧にマスターできた。ボディに拳二百六十と七発――蹴り百九十八発を受け切ることで、肉体を代償に大陸の言語を覚えることが出来たのだ!


「こんな短期間で完璧に覚えるとは思わなかったわ......」


「ホノラさんのお陰ですよ! 本ッ当にありがとうございました!」


「私の方が年下だし...呼び捨てで......ホノラで良いわよ」


「そうか?......じゃあ改めて、ありがとう! ホノラ!」


「って! そんな事はそんな事はどうでもいいのよ! マツルあんた、これからどうする訳?」


「あーそうだな......俺はギルドで冒険者になる為にここまで来たんだから、これからそっちに行く事にするよ」


「あら奇遇ね! 私もギルドに用事があるの! 良かったらこれから一緒に行かない?」


「よし! じゃあ行くぞ! 目指すはギルド支部!」


「そんな張り切って行くところじゃないわよ。歩いてすぐよ?」


「あそう......」


 こうして、俺はこの世界での二人目の恩人、ホノラと行動を共にすることになった!

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