貰ったチートが使えない!!〜魔法至上の異世界で魔法が使えなかったのでたった一人剣士として努力を続けようと思います!〜

ちょっと黒い筆箱

第一章 魔法使いしかいない世界

第1話 悪夢と転移と大恩人①

――――足の生えたナマコに追いかけられ、崖から落とされる夢を見た。


「なまこぁッ!」


 あまりの悪夢に飛び起きる。するとそこにいつもの自分の部屋は見当たらなかった。


 上を見上げれば、天井があれば見えるはずのない青い空……反対に下を見てみれば、ゆうべ干したばかりのふかふかのマットレスではなく、石でできた小高い台のような物の上に俺は乗っかっている。


「エイヤッ! 実りに我ら先祖の感謝を~」


 石の台より更に下から歌声が聴こえる……覗き込んでみるとそこには数十人の上裸の男が円を描きながら歌い踊っていた。


「夢だな……寝直そ」


 いやこれはさすがに夢だろう。この俺、相州 真鶴そうしゅう まつる18年の人生の経験上そうに決まってる。なんで夢の中で上裸のオッサンなんか見なきゃなんねーんだよ全く……


 ゴツゴツした石の上だと寝にくいなと思いつつ、俺はもう一度眠りについた。


――――


「――おはよう世界! グッドモーニングワールド!」


 素晴らしい寝覚めだ! あんな変な夢見たけどこの快眠感でチャラだぜ! 朝の日差しが眩しいね!……ん? 全身に朝の日差し?


 眼前には先の夢の中と変わらない景色。小高い石の台に乗っかっている俺。覗き込めば上裸のオッサン……は不思議そうな顔で俺の事を見上げている。さっきより人数が増えてるし、踊ってもいない。


「あんた何者だ? ちょっと降りてこい!」


 オッサンの中の一人が話しかけてきた。歌の時もそうだったが多分これ日本語じゃないな……なんで理解出来てるんだ俺!? 


 一先ず台から降りて話を聞いてみよう。


「あの……ここどこですか?」


 言葉が通じるか不安だったが、オッサン達は案外アッサリと答えてくれた。


 ここは“ダサラ大陸”から遠く離れた名も無き小さな島だという事。年に一度の豊穣を祝う祭りの最中に供え物を祀る祭壇が急に爆発を起こし、恐る恐る見てみると俺が寝ていたという事を教えてくれた。


 いや意味わからん。なんも理解出来ん。俺の知る限りダサラ大陸なんて大陸は地球に存在しなかったはず……つまりあれか? 


 異世界に転移した? 


――まあ転移しちゃったもんはしょうがないよな! 多分俺がこの世界の運命とか握っちゃったりしてるんだろう!


 元の世界で女の子とあまり出会いの無かった俺がこの世界で目指すのは世界を救ってハーレムッ! これしかあるまいて!


「皆さん! この俺が来たからにはもう安心です! この異世界人の勇者! マツルがこの世界を救ってみせましょう!」


 俺の質問に丁寧な説明をしてくれたオッサン一同が馬鹿を見る目で俺を見る。


「あの……あなたは誰なんですか? 豊穣祭の最中急に現れて……」


「あ、すみません……あの俺、名前はマツルと言いますです。なんか急に朝起きたらこっちの世界に来てたっぽくて、訳分からなくて世界がどうとか言ってしまいました……」


 あんれぇ? なんか思ってたのと違うぞぉ?


 なんか転移した人って……もうちょっと何かを託される感じじゃないの?


「なんか魔王が世界の支配を狙っているとか……」


「無いですね」


「チートスキルが無いと対処出来ない未曾有の災害とか……」


「無いですね」


「恐ろしい魔獣の危険に晒されてるとかも?」


「無いですね」


「俺……何すればいいですか?」


「……取り敢えず村でも見て回りますか?」


 オッサン達はとても良い人達だった。こんなに怪しい人物を暖かく迎え入れ、島の案内までしてくれた……村は質素だが衣・食・住どこをとっても困る事は無かった。やることが無いなら、私達と一緒に住まないか? と提案してくれた。


 村での生活は、日の出と共に始まり、日の入りと共に終わる。現代人にはなんともしんどいリズムだったが、すぐに慣れることができた。


 村を見て回った後、オッサン達は着る物を用意してくれた。服は和服と洋服を混ぜたという表現が一番近い独特な服装で。着心地が良く動きやすかった。


 次にご飯を食べさせてくれた。ご飯は魚と米を基本としたマジモンの和食であり、畑で採れた漬物もそれはそれは美味しかった。


 最後に家も用意してくれた。家は島民30人程が全員別々の家に住んでおり、その全てが平屋であった。ほぼ江戸時代である! 元の世界で住んでいた実家もそれなりに近い感じだったので特に違和感無く生活出来そうだった。

 もう一度言うが衣・食・住はなんの問題も無かった! 問題は無かったのだが......

 二日程して、俺はある事に気付いた。


「あの......そういえばこの島に女性はいないのですか? オッサンはたくさんいるのに」


「ギクッ!?」


 俺の問いに「知ってはいけない事に気付いてしまいましたね」と言わんばかりの表情をしたオッサンは恐る恐る事情を話してくれた。


「実は......マツル殿が現れる少し前に皆消えてしまったのです......子供も、老婆すらも」


「消えたァ!?」


 あるじゃん異世界っぽい事件! 一斉に攫われた的な? それを俺が解決的な!?


「あ、消えたは違いますね。皆家出しました。たまーにあるんですよ」


 オッサンが言うには、この島の女性は何十年かに一度、男共に愛想を尽かして子や孫を連れて出ていくらしい、それで10年くらいすると戻って来るらしい。


「なんだよそれ......」


「まーしょうがないですよね!」


「しっ......しょうがなくねぇよォォォォ! 定期的にあるなら原因を改善しろよォォォォ!」


 こうして、高校3年間クラスの女子と喋った事の無かった俺は、女の子と共同生活でウハウハの望みを完璧に潰された異世界生活を送ることになったのだった。


 いやまぁ男子校だったんだけどね。

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