016 カチカチ灯す煉獄の炎

 俺が降伏勧告をした1分弱の間にムジナ一家のG・Sは、あらかた基地からの出撃を果たした様だ。


《現在戦闘区域に居る敵機は84機、3個中隊です》


 なるほど、だったら基地周辺に塊ってるうちに蹂躙じゅうりんしとかないと


 俺はアクセルとスラストレバーを最大加速フルスロットルにして、基地の正面区域で横陣オウジンになってビームガンやライフルを放っている敵陣へ目がけて突っ切った。


《アイリス、危険です いくら回避能力が優れていても》


《あの弾幕を全て回避するのは物理的に不可能です》


 大丈夫だ黒兎、俺を信じてくれ


【組員達】「あいつスゲぇスピードでこっちに突っ込んで来るぞ!」「だが、一直線に真っすぐだ、馬鹿野郎だぜ」


【組員達】「撃ちまくれ!」「半分は狙い撃ちして半分は水平撃ちしろ!」「蜂の巣だ!」「うてぇぇぇ!!」


 敵陣から俺に目がけて雨あられの様にビームの閃光が飛んでくるのが見える。


 回避できる隙間は無い


 俺は自機ホワイトポーンの手に持っていた"チャガマのブレード"を足の方に持って行くと"スノーボード"の様に乗り、そのまま足を弾幕が来る方角に向けて加速した。


 足元のブレードにビームがいくつか直撃し、コクピットにまで振動が来る。


 これだけデカい剣だと盾にもなる……ただ、これも数発しか耐えられないだろう。


 次に自機ホワイトポーンの左肩部かけられていた"実弾オートライフル"を手に持つと、足元のブレードを敵陣目がけて蹴り上げた。


《アイリス、このままでは複数の閃光ビームが直撃します》


 俺はオートライフルを構えると、自機ホワイトポーンに向かうビームの直撃弾に向けてオートライフルの引金をひいた。


 ドドドドドドドドッ!!!!


 連続した爆発音を響かせるオートライフルから放たれた"ビームシールド拡散弾"が自機ホワイトポーンの軸に入った直撃弾ビーム全てにヒットした。


 するとこちらに飛んできたビームの閃光が、何か"見えない壁"に当たったかの様に分散して消失する。


《"ビームシールド拡散弾"を飛んできたビームに当てて》


《ビーム光の熱源を"拡散"させた!?》


 そう、これが"パトリオットファイア"だ――


《信じられません……理論上は可能ですが》


《飛んできたビーム熱源中央の"真芯"を狙い撃ちしなければ出来ない神業です》


 でも5~6人ぐらいしか出来なかった技だからな


 敵陣から放たれたビームの弾幕を撃ちとしながら突っ込んで行く自機ホワイトポーン、音声通信からはムジナ一家達の驚きと焦りの声が入る。


【組員達】「なんで当たらねぇんだ!?」「どうなってる!?」「ビームを実弾で撃ち落としてる!?」「そんなこと出来るのか?」


【組員達】「いや、実弾がビームに当たったら一瞬で溶けて消し飛ぶ!」「出来るはずねぇんだ!」「いいから撃て!陣に入られるぞ!」「畜生!当たれってんだよぉ!」「くる……くるぞ!」


 俺が蹴り込んだチャガマのブレードが敵陣に居る1機にぶち当たって爆発した。


 直後に弾幕を掻い潜った自機ホワイトポーン横陣おうじんを組んだ敵集団の中央へと突入を果たす。


 その一瞬、敵の動きが止まる――


 回避不能と思われた弾幕を突破し、思考が追い付いていないのと自機ホワイトポーンを挟んで対面側に味方機がいるので射撃を止めるしか無かったのだ。


 自機ホワイトポーンはオートライフルを素早く肩にしまうと、腰脇部にあるビームガンを両手に二丁持ちにし、敵機目がけて次々とトリガーを引いた。


カチカチカチカチカチ……


 ドッ! ドッ! ドッ! ドッ! ドッ!


 自機ホワイトポーンのコクピット内部に射撃レバーのトリガーが引かれる"カチカチ"音だけが響き渡る――


 そして、それと同時に周りに居る敵機の胸部にはビームによる大穴が開き、次々と爆破して行った。


【組員達】「うわああぁぁ!」「何やってんだ撃ち返せ!」「バカ、味方に当たるぞ!」「よく狙えば大丈夫だ!撃て撃て!」


 陣形が崩され、水をかけられた蟻群ぎぐんの様に散り散りになり始めるムジナ一家のG・S達、その中央で蟻地獄の様に1匹ずつ削り落とす自機ホワイトポーン


 カチカチカチカチカチ……


《敵20機目撃破、21……22……23……》


【組員達】「相手は1機だぞ!さっさとやれ!」「どけ、邪魔なんだよ!」「近接(ナイフ)に持ち替えて刺してこい!」「近づけねぇんだよ!」「お前がやれよぉ!?」


 大パニックにおちいる敵機の群れ


 カチカチカチカチカチ……


《31……32……33……》


【組員達】「もう構うな撃ちまくれ!」「うおおおおおお!」


 敵機達が自機ホワイトポーンに向けて射撃を始める。


 だが、その全てがロック撃ちか、自機ホワイトポーンを直接狙った一点撃ちなので俺は身体を捻ったり回転をして、まるで演舞やフィギアスケートの様ないで光線を躱しつつ、2丁のビームでカウンターを放った。


 カチカチカチカチカチ……


《39……40……41……おっと敵機が自分達の流れ弾に当たってますね48……》


 ビームのエネルギーが切れたらその辺に漂っている敵機が持っていたビームガンを換装して再び撃ちまくる。


 カチカチカチカチカチ……


【組員達】「ひぃ!」「なんなんだあいつ!?全然当らねぇよ!」「助けてくれ!」「おい、逃げるな!」「奴の音声から"カチカチ"って音だけがする……」


【組員達】「あの"カチカチ"音がしたら仲間の機影が無くなる!」「まただ……あの音……に、逃げろ!食らっ!……ザ――……」「もう嫌だ!俺はもうずらかるぜ!」「あの"カチカチ"音は聞きたくねぇ!」


 既に敵機の3分の1ほどが撃墜、又は行動不能となっており、残った敵機も逃走をし始めた……その時であった――


【組員達】「ザ――……うおおおおお!削岩!削岩んんんんッ!!!!」


 逃げ出そうとした敵機の群れごと薙ぎ払いながら、こん棒の様なドリルをぶん回す、他よりも一回り大きなG・Sが突進してきた。


 あいつが五袋ゴブクロの"ドックリ"か……黒兎、奴の音声表示を【ドックリ】に変更を


《了解アイリス》


【ドックリ】「オン!オン!オン!お前掘る、ぐちゃぐちゃ、俺、楽しい!」


 辺境の蛮族みたいな喋り口調で"チャガマブレード"の3倍ぐらいデカい巨大ドリルで横なぎを食らわして来るドックリ機。


 しかし、スピードは鈍く俺はまるで弁慶べんけいの薙刀を飛んで躱す義経よしつねの様に上舷方向へスッと躱す。


 それと同時にがら空きになっている敵G・Sの胸部へビームガンを放った――が……、直撃させても表面装甲が少し溶け、黒く焦げるだけであった。


 "重装甲G・Sか"


【ドックリ】「俺様、カッチコッチ、硬い!ドリルもギンギン!」


 近接でやるか、だがチャガマのブレードと違ってパリイを狙っても回転しているドリルのリード角回転刃衝撃で手が持ってかれる。


【ドックリ】「削岩!削岩!たのちーなぁ!」


 ドックリの重装甲G・Sがドリルを持って突きの姿勢で突進してきた。


 俺はその辺に漂っていたチャガマブレードを回収すると、逆手に持って槍投げの様な態勢でドックリのドリルへとぶん投げた。


 放たれたチャガマブレードはドリルの刃スレスレの所を横切りドリルとモーターを繋ぐチャック回転関節へと突き刺さる。


ドン!……ギギギギ……ギ……ギ……


 ドリルの刃の回転が止まった。


 良いになったよチャガマブレード


【ドックリ】「あで?俺のドリルが動かないぃ!これじゃ削岩出来ないよぉぉん!」


『ドックリさん、降伏してください……』


【ドックリ】「動かない、だったらそのままグリグリ擦り付ける、お前に俺のドリルスリスリするぅぅぅ!きっときもちぃ!」


 回転が止まったドリルをそのまま鈍器の様に振り回して突進して来るドックリ


 あんたは救えないな――


 俺は振りかぶられた、既にただのデカい棒となった物を躱すと2丁のビームガンを構えてドックリの機体の胸部を狙って撃った。


 ドッ!ドッ!ドッ!


 轟音と共に放たれたビームの閃光が全弾ドックリの機体胸部へと直撃する。


【ドックリ】「ムダ!ムダ!ムダ!俺、硬い、かっちこちん!」


『同じ場所をピンポイントで撃たれたら、"ふにゃふにゃ"になりますよ』


 ドッ!ドッ!ドッ!


 再び寸分すんぶんの狂い無く同じ位置にビームの閃光を当てる。


 すると装甲表面が赤く光り、胸部表面がドロリと溶鋼し始めた。


【ドックリ】「なんだ!?あづい!あづい!ふにゃふにゃになっちゃう!」


『さよならです』


 カチ……


 ドッ!


 止めの1発として放たれたビームが直撃、チーズが溶ける様に胸部の装甲に大穴を開けて貫通した。


【ドックリ】「削岩……俺が削岩され――ザ――…………」


 ドックリの機体が爆破する――。


五袋ゴブクロのドックリ撃墜》


 五袋ゴブクロは残る2体……。


《こちらに向かってくる機影を確認、数は2》


 来たか、え~と……バンブーとスゥーコ


【組員達】「あらあら~ドックリちゃん死んじゃったわ~小娘ちゃん、かなり強いわねぇ~」


 オカマ口調、こっち音声通信の表示を【スゥーコ】に変更


【スゥーコ】「だったら五袋ゴブクロ2人がかりならどうかしらぁ?」


【組員達】「ヒャッハハハハ!俺は一人で充分やってやるぜぇぇぇ!」


 はい、こっちは【バンブー】っと……。


【スゥーコ】「小娘ちゃ~ん、既に私のワイヤーが一区域ごと丸ごとあんたを囲ったわぁ~、これで不用意に加速したら特殊粘着ワイヤーに絡め捕られちゃうわよぉ~、オホホホ」


 確かにいつの間にか、この空域にワイヤーで編まれた球体の結界で囲われてしまっているな……しかも"網漁"の様にどんどん範囲を狭めている。


【バンブー】「フッハハハハ!よくやったぞスゥーコ、これでちょこまか逃げれずに俺の"バーストガン"の餌食に出来るぜ!」


 ワイヤーの陣内にはバンブーも入っている。


 この仕切られた空間、まるでコロシアム、いや、ゲームギガントスケアクロウの戦闘ステージに来たみたいだ……テンション上が――おっと、真面目にやらなきゃ


 バンブーが乗るのは惑星同盟軍の新型G・S"ラスター・5改"恐らく自機ホワイトポーンと同等の性能だろう。


 この世界で初めて"同等フェア"な対戦


 俺という感情の無いはずのアンドロイドの表情が、無意識に微笑を浮かべていたのであった。

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