第686話 異界人の男について~石浜勝利~

「じゃ、先に行っときますんでー」

「おう、了解だー。田島氏、ありがとうな!」


俺は手を振って異界人―田島氏―を見送る。

長門皇国海軍に16の時に所属して早15年、まさか異界人に会えるとは。

人生、何があるかわからんね。


「……まさかあそこまで疑うことを知らんとはね。異界人はそういうものか?」

「多分田島さんだけかと。そもそも中将!まーたショーもない嘘つきましたね?何が男は爪の先に火を灯すぐらいの霊力しかない、ですか。そもそも霊力は男にも普通にありますからね?中将が霊力ないだけですから『虚無の石浜』とはよく言われますけど……」

「……うるせー。わーってるよ!まさかあそこまですんなり信じるとは思ってなかったんだ!」


確かに俺は霊力がほぼゼロだけどさー……

副官の佐渡崎は憎めないが小言が多い。

本土にいた頃は直ぐに俺を追い抜いて行くと思っていたんだが何故か俺の下にいる。

こんな南の最前線に飛ばされたってのに、よくついてくるもんだ。

霊力がなくてほぼ戦闘が出来ない『虚無』の俺にな。



「……で、お前の心眼的にも信用に足るってことだよな?」

「……そもそも私の心眼は霊力の量を見るだけなのですが……しかも中将、さらっと心を覗けるって嘘をついて、何を考えているんですか……田島さんは信用出来ますよ。というよりは信用しないとまずいです」

「……ほう?その意味は?」

「……霊力量が桁違いです。恐らく、やよいさんを遥かに超えます。今世紀最大と言っても過言ではないかと」

「……は?」


そんな馬鹿な。

やよいは長門皇国の中で一番の霊力をもつ海巫女だぞ?

俺の幼馴染で子どもの頃から霊力を使って色々大人を驚かせていたんだ。

だからあの【怪物】を動かすことを任されているんだからな……

やよいが選ばれた時の顔、今でも思い出す。

……俺に霊力があれば、と何度後悔したか。

そんなやよいを超えるだって?


「……それ嘘じゃないよな?お前が普段嘘つくことないから逆に信用できなくなったぞ?」

「嘘なんてつけませんよ。そもそもここに来る前に感じれるぐらいですよ?多分昨日の昼に黒魔の襲撃の可能性を報告しましたが、出会ってわかりましたよ……昨日の報告は訂正しておきます。あれは黒魔ではありません。田島さんの霊力です」

「……黒魔と同様だって?ますます人間じゃない気がするぞ」

「……そもそも中将が霊力感知が低すぎますよ……もう少し霊力観察眼を磨いてください……それに先程薬を出した袋……あれは【無限の包】です」

「む、無限の包だと!?かの大将軍が持っていたと言われている伝説の国宝か!?」


無限の包とは長門皇国の国宝であり、歴代の大将軍が持つものとして古来より受け継がれてきた呪具。

見た目は手のひらに乗る程度の皮の袋だが、どんな大きさのものでも格納できる。

しかも腐らず、長期間保存出来る。

戦国時代、無限の包を持った大将が物資を保存し戦線が変わった、と言うのは有名な話だ。

そんなもんをサラッと出して薬を渡してきた……

なんてやつだよ……


「……信用せずに敵対したら、と考えるとあまりにも利益かありません」

「そこまで言うか。敵対した場合、俺たちに勝ち目は?」

「ゼロです」

「……即答だな。そこまでかー」


俺は頭をかく。

佐渡崎の見立てではあの【怪物】をフル稼働させても歯が立たないだろう、とのこと。

……それ、最早人間か?

黒魔が人型になった、と言われた方が信じられるぞ。


「その薬も一応見ましたが、悪いものでは無いので信用に足るかと。というよりは信用しましょう。敵対したらどうなるか……そっちの危険性が高いと進言します」

「……仕方ない、というよりはわらを掴む感じだからなー。やよいのためだ、田島氏を信じよう」

「そうですね……やよいさんLoveの中将がそろそろ黒魔から逃げ出して2人で逃避行をしないかヒヤヒヤでしたから……」

「……馬鹿にしてるのか?戦線をほっぽり出すなんてことは流石に……」

「この前の襲撃の時、やよいさんが咳き込んだって聞いただけで会議から逃げて診療所に行ったのはどこの誰でしたっけ?一ノ谷元帥だから良かったものの……普通なら懲戒ものですよ?少しは司令官らしくどっしりと会議に出ていただいてですね……」


うぇ……佐渡崎の小言が始まったよ……

これ始まると長いんだよ……

……それと、まぁ、あれだ。

やよいが好きだから仕方ないだろ!



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