第5話
「では書類のここにサインを。お支払いは全て終わってから、成功報酬の二割でけっこうです」
「まあご親切に。お金をむしり取っていただければ助かりますわ」
「公爵が離婚したがっているのはこちらに有利ですよ。金額をつり上げるためにも、夫人は離婚したくない、という態度を貫いてください。裏切られた貞淑な妻の立場をお忘れなく」
「あら、どうしてですの? いやですわ、そんな未練がましいこと」
「金額の多寡にかかわりますからね。明日の午前中、さっそく公爵邸を訪ねてみましょう。報告は午後、この事務所で」
「迅速な対応、感謝いたします。先生だけが頼りですわ。離婚が成立したら、このまま町に住もうかしら。そうね、この町で働いて自活するのはどうかしら」
「職業斡旋所はありますがオススメはしませんよ。夫人には……庶民的すぎると思いますので、ご友人などを頼られてはいかがでしょうか」トールは意味ありげな咳払いをした。「ところで、私は親切な法曹家を自認しております。なので、こういった離婚相談にともなってよくたずねられることをお伝えしておきましょう。もっとも夫人には必要ないことだとは思うのですが」
「あら、ずいぶんもったいぶっているのね。なあに?」
「ご紹介しようかと思ってるんです、市井の便利屋をね」
「便利屋……それはいったい……」
「別名、復讐代行業者です。こういった相談にはついでに便利屋を利用される方が多いのですよ。まあ、夫人は未練はないとおっしゃってますし──」
「紹介してください」
(復讐代行業、なんという甘美な響き)
サラは夫に未練はなかった。だが復讐代行業という言葉は胸を高鳴らせる。実際に仕事を依頼する気はない。だがどんな復讐が出来るのか、話だけでも聞いてみたいと思ったのだ。
公園の指定されたベンチに座って、サラは詩集を読むふりをして待った。ダチョウは傍らで豪快に砂浴びをしている。のどかな午後である。
「お待たせしました。復讐の天使、お呼びにより馳せ参じました。上品から下品まで全てはお望みのままに」
いつの間にか隣に物乞いが腰かけている。
(この男が?)
衣服は破れ、穴が開き、汚れている。歳はよくわからない。ボサボサの髪が顔を隠している。自ら天使を名乗る物乞いにサラの視線は釘付けになった。
「あなたが復……便利屋さん? その格好は変そうかしら? ちなみに私は夫に浮気されたんだけど、どんな仕返しができるの?」
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