第173話 東条麗香視点

「はあ。うまくいかないものね」


「はい」


 転校して1週間。


 どこにでも、わたくしに媚びてくる輩はいるもの……

 当然です。わたくしは東条家、現当主の孫ですもの。


 いつもならばそんな方々は適当な理由をつけて軽くあしらうのですが、今回は目的がありましたので仲良くさせていただくつもりでした。


 良くも悪くもこの学園は中立、他家の影響もほとんどないことは事前に分かっていましたからね……

 今回はそんな彼女たちにも協力をしてもらおうと都合よく考えていたのですが……


 なんてわたくしは浅はかだったのでしょう。こうなる可能性も少し考えれば分かることでしたのに……


 というのも、わたくしは今、クラスメイトから警戒されて孤立しています。


 正確は一緒に転校してきたカエと、念能力に長けた護衛がどこかに潜んでいますので、完全に孤立しているわけではないのですが、この学園の生徒からは距離をとられているのです。


 もちろん、その理由はすでに調査済み。


 どうも以前、武装女子のデビューを阻み、裏で圧力をかけていたことがバレているようなのです。


 今日お会いした武人様も、普段はお優しい方のはずですのに(下調べ済み)、あの時は、わたくしを突き放すような態度……すでに知られていると思っていた方がいいでしょう。


 ……おかしいですね。


 海千山千の叔母さま方に鍛えられたはずなのに、なぜか彼の言葉が頭に残ります。

 

 そして、思い出す度に胸がとても苦しい……


 ダメね。気持ちを切り替えましょう。


「しかし……サーヤですか」


「はい」


 困りましたね。これならば、他の三家と繋がりのある輩が妨害していたと言われた方が何倍もやりやすかった。


 サーヤとは純粋に武人様を慕う者たちこと、彼女たちは非公式だが、自らを武人様を包み込むように見守るサーヤ(鞘)だと名乗り、武装女子の推し活を武活(ぶかつ)と言っているようです。


 部活と武活をかけているのか、紛らわしい言い方をしているので気づくのに時間がかかってしまいましたけど、剛田武人様が所属している武装女子会(株)が正式にファン=サーヤだと認めるのも時間の問題でしょう。

 

 いえ、サーヤ(鞘)は彼個人のファンでしたね。とすれば武装女子のファンは武活となるのかしら? 


 ——「武活のみんな〜、今日は来てくれてありがとう〜」


 武人様がステージ立ち、わたくしたちみんなに向かって手を振っている。ふふ……


 ハッ、いけませんわね。わたくしも入りたいと思ってしまったのでつい余計なことを妄想してしまいました……


「それで、情報を提供しているのが新聞部、同性ながら多数のファンをかかえる風紀委員、そして学園に影響力のある生徒会までもがサーヤでしたか」


「はい」


 生徒会は初めからわたくしと一定の距離を保っていましたが……

 今日の彼女(生徒会長)の態度で確信しました。


 面と向かって敵対してこないのは十中八九、東条家を敵に回したくないからでしょうけど、彼女たちのようなサーヤがどこまで広がっているのでしょうか。

 ホント面倒なことになってしまいましたね。


「迂闊に近づけませんわね」


「はい。少し慎重に行動した方がよろしいかと」


「そうよね」


 お婆様が皆(東条グループ)に謝罪したとおり、東条家は間違った選択をしてしまったのだと今さらながら悔しく思います。


 このままでは他の三家とのバランスにも……

 

「……困りましたわね」


 それもこれも、沢風和也、彼が通う学園がたまたまわたくしと同じだったこと、停滞していた他三家に差をつけるチャンスだと誰もが思ってしまったこと、彼の後ろ盾となりわたくしの婚約者にしたこと、そのすべてが裏目に出てしまったから……


 グッズ商品からCM、彼を主役としたドラマや映画、漫画やアニメまで男性一強の彼(沢風和也)は絶対に売れる。水を差されるわけにはいかなかった。


 しかし、そんな彼の愚かな行いで、グループ全体は利益を得るどころか損失をこうむる形に。

 早期に見切りをつけたことで損失を最小限に抑えることができたが、圧力をかけた武人様の名前が予想より早く世間に広まってしまったことで、東条家は肩身の狭い思いをしている。


 しかし、わたくしも落ち込んでばかりもいられません。


 北条家は影で何やら動いているようですし、西条家は武人様と婚約を交わしてしまいました。


 ないと思っていた南条家までもが武人様に目をつけて交流を図っている始末。

 なんでも、男性を見下し下僕としか思っていないと界隈でも有名な南野広子が当主を説得したとかなんとか……

 来月にはシャイニングボーイズとのコラボの話も進んでいるようで……楽し……こほん。油断なりませんわね。


「ところでカエ。タケト様がおっしゃっていた西条家と進めているサイキックスポーツ。たしかサイコロでしたわよね。その申請は上手くいっているのかしらね?」


「いいえ。しかし、時間の問題かと思われます」


「そうですか」


 さすが西条家と言ったところかしら。まさかわたくしも国の保守派にネズミが潜んでいるとは思ってもいませんでしたけど……


 表向きは下手に国民の念能力を高めて他国を刺激してはいけないと善人ヅラしてもっとも意見を述べる官僚たち。実際は違う。


 決定的な証拠は掴めていませんが、あれは他国の間者です。


 まだ憶測の域ですけど、実際にサイキックスポーツは廃れ、サイキックスポーツ競技者人口も年々減少している。


 これは念能力の衰退や国力の低下を狙っているのはないだろうか。


 これはタケト様がサイキックスポーツのイメージボーイにならなければ、調べることもなかったことで、そのような報告を受けた時には驚いたものだ。


 というもの、うちにもサイキックスポーツのチームがあります。


 スポーツは多くの人々に親しまれるコンテンツで、ビジネスの展開には多大な利点があります。

 

 東条グループのブランド価値の向上にも繋がっています。しかしサイキックスポーツだけは足を引っ張っていました。


 人気がないためにチームを維持するだけでもかなりの赤字。チーム解体の声も度々上がるが、お婆様がそんな声を一蹴しているのが現状でしたね。


 ただ一蹴していた理由が他の三家になめられないためでしたので、聞かなかったことにしましたけど……


「まあいいわ。今回は裏で手を回し西条家が少しでも有利に進めれるようにしてあげなさい」


 西条家の者ならばすぐに気づくでしょうけど、武人様がサイキックスポーツを盛り上げようとしていることは知っています。


 サイキック健康体操だって毎日拝見していますし、本当に応援しているのですよ、と思いつつ、わたくしの目には報告書に書かれているサーヤという単語に釘付け。


 ——どうやって入るのかしら、勝手に名乗っていいものなのかしら……ん?


「カエ、にやにやしているその顔は何かしら?」


「麗香様……今日、武人様にお会いして、本気で惚れましたか?」


「なっ、そんなことあるはずありませんわ。わたくしは本気でこの国とサイキックスポーツのこと憂い……」


「うんうん」


「そ、それにほら、西条家が開発を進めているサイコロは念力を使うものですわよね。

 国(間者)が懸念しているのは国民全体の念動、念体、念出の練度が上がることですが、サイコロは念力のみ消費して念力操作力しか必要としていませんよね。却下される要因はありませんの。リスクもありません。恩の押し売りですのよ」


「うんうん」


「もちろん、その恩もいずれ返してもらうことになりますわね……」


「うんうん」


「……もう」


 何を言ってもにやにや顔をやめないカエから逃げるように自室に戻ったわたくしは本気でカエの減給を考えました。もちろん、そんなことはしませんけど……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る