第125話 (肥田竹人視点)
それがなんだか羨ましいと思うようにもなり……あ、他にも沢風和也という男がいたのにも吃驚したが、あれは気取っていて俺には合わない。
やっぱり剛田武人。彼のようになってみたい。
それから俺は姉に対する態度を少し改めた。とは言ってもスケートボードを持ち歩く姉を小馬鹿にしたり、罵声を浴びせたりすることをやめただけ。
妻たちは妊娠しているので会うことはないが、武装女子のチャンネルを薦めておいたら、剛田武人がモデルをしている男性服専門店あゆの服を贈ってきてくれるようになった。
早速その服を着て剛田武人風の髪型を保護官にしてもらい撮った写真を妻たちに送る。
すると、妻たちがすごく似合っていると褒めてくれるじゃないか。これは悪くない。剛田武人が女性に優しくしている気持ちが少し分かった気がした。
そして、参加したお見合いパーティー。最近お気に入りの剛田武人ファッションで身を包み会場に入れば、スーツ? そんなのもあったな。でも俺は剛田武人ファッションだな。みんな(女性たち)が俺に注目する。
いつもの俺だったら視線を向けるなとムカついていたが、今日の俺は剛田武人ファッション。俺が選んだファッションが認められた気がして少し気分いい。
しかし、いきなり司会者が握手しろとふざけたことを言ったが、
「きゃー」
「やった」
俺を見て喜ぶ女たち。ほう。今日は気分がいいから握手くらいしてやるか。
ただ話をするのは面倒なので女どもが勝手に話していることを適当に聞き流しておくか。
「きゃー肥田様」
「竹人様」
ふふふ。俺は剛田武人ではないと言うのに、俺の歌が聞きたいという女たち。やれやれ、と思うが俺も剛田武人のようにみんなの前で歌ってみたいとも思っていた。ちょうどいい。
ステージに上がり驚いている司会者からマイクを借りると歌を歌った。
「聞いて驚けよ、俺(肥田竹人)が歌う『微笑みを君に』を」
ふんふんふん♪
歌い終わると拍手がある。なるほど。これは気分がいい。お、その中に1人だけ拍手をしている男がいたぞ。あいつも剛田武人のことを知っているのだろうか? 気になったがちょうどフリートークは終わりとのことだ。
「すごくよかったよ肥田様」
「ふん。そうか」
俺にはすでに2人の妻がいたので今日はただ参加するだけのつもりだったが、気づけば婚約したい女性の欄に、俺が歌って1番喜んでくれていた小柄の女(32歳)の名前を書いていた。
それからは女の名前を書いた紙をスタッフに提出してから俺たち男は休憩で使った控室に案内される。
あとは自分の部屋に名前を書いた女が現れれば婚約が成立するらしいが……俺がやったことといえば歌を歌っただけ。話なんてまともにしていない。
柄にもなくちょっとドキドキしている自分に驚く。女なんて興味がなかったはずなのに……
コンコンコンッ!
来た。と思ったら案内人だった。そっか。認めたくないが、これが現実。柄にもなく俯き肩を落としそうになったところで、
「肥田様、ご婚約おめでとうございます」
え、案内人の言葉に驚き再び案内人の方に顔を向ければ……案内人の背後から小柄な女が顔を出す。俺が名前を書いた女だ。
「肥田様! あ、ありがとうございます」
「お、おう」
これで婚約成立となるが、なんだろうこの気持ち。俺が、女を見てうれしく思うなんて……
あとは案内人が婚約が成立した俺たちの写真を撮れば長かったお見合いパーティーは終わり。好きに解散していいが、希望すればこの後すぐに婚姻の手続きができる。手続きと言っても案内人(市の職員)が準備している書類にサインをするだけなんだが、
「あ、あの……」
女は結婚するき満々だったらしい。手提げ鞄から指輪と細いブレスレットを取り出すと、すぐにサインをした。
この日俺は3人目の妻を迎えることになった。
えっ!
新たな妻と分かれて保護官と帰路につくが、その帰り道、俺はある人物に遭遇して思わず声を上げる。
「剛田武人!」
剛田武人だ。剛田武人が前から歩いて来る。俺の目指している男。ネッチューブで何度も何度も見ていた男。その男が今目の前を歩いている。
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