第65話 (新聞部部長視点)
私は新聞部部長の園根田 早衣子(そのねた さいこ)。
ふふふ、彼が学校に来るようになってとても充実した日々を送っている。
なぜなら彼を追えば必ず面白い情報が飛び込んでくるのだから。
「さーて今日は忙しいぞ」
とりあえず文化祭の初日からの情報を書き抜いてからまとめようと、MINEアプリを展開して3学年のグループチャットのチェックを始める。
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『私、武人くんのミニパフェ店並んだんだ』
『私も。待たせて悪かったからって握手してくれた。私もう手を洗いたくない』
『気持ちは分かるけどちゃんと洗おうね』
『いいなぁ、ミニパフェ店には行ったけど武人くんいなかった』
『それね、武人くんの模擬店がすごい混雑していたから、その場を収めるために生徒会長と風紀委員長と文化祭実行委員が彼を連行して行ったのよ』
『あちゃーもっと早くに並べばよかった〜』
『ふふふ。武人くんウチのクラスの模擬店に来てくれてクレープを買ってくれたのよ。渡す時に武人くんの手を握っちゃた♡』
『実は私、並んでる武人くんの後ろに並んでいたけど、混雑してきた時に、どさくさに紛れてぎゅって抱きついちゃった♡』
『何ですと!?』
『むむむ』
『私も……混雑した時に抱きついたよ。っていうかこの混雑事態、武人くんに抱きつきつくのが目的だったんじゃないの』
『あ、それ私も聞いたけど間に合わなかった』
『ちょ、そんなことここに書いたらダメだよ』
『まずいって、それ削除して』
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「ふふふ。そんなことしないから大丈夫よ」
文化祭の初日から、みんなもなかなか貴重な体験をしているようで何より。今年が最後の文化祭だというのが悔やまれるくらいにね。
でもね、自慢じゃないけど私もすごかったのよ。みんな(部員)からの情報を頼りに武人くんが向かっているだろうと思われる模擬店や展示会場などに先回りして、さりげなく彼の後ろに並び3回も後ろから抱きついちゃったからね。
まさに身体を張っての情報収集。ふふ。その都度大丈夫ですかって言ってくれる武人くんの心配そうにする顔に胸がキュンときちゃった。いいよね彼。
ま、だからこそ彼の誠実さが仮面じゃなく本物だと確信できたのよね。
しばらくの間、MAINアプリを少しづつスクロールして押さえておきたい情報を書き抜いていると、日付は文化祭の二日目に入った。
「そうそう、昨日の武人くんもヤバかったわね」
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『武人くんのライブヤバかったね〜』
『うんうん。わたし感動して泣いちゃった』
『武人くんの歌声が胸の奥まで響くの。今も目を閉じると武人くんの歌声が聞こえてくる』
『そういえば腰抜かしてる子がいたね』
『あ〜、あいつらうちらの後輩だけど、武人くんの歌を聞きもしないのにバカにしてたから腹が立って連れていったのよ』
『ふむふむ。それから』
『腰抜かしていたわ。後で詳しく聞いたら男性である武人くんの歌声に痺れて腰が抜けたってね。知りもしないのにバカにしてすみませんって。しかもあいつら武人くんの歌声だけで軽くイッちゃってたのに記念写真の列に並んでるの』
『わぁ逞しいね』
『へぇ、あんな見かけなのに感受性すごかったんだ彼女たち。ま、私も危なかったけど』
『たぶん言わないだけでじわってなった子いっぱいいると思う』
『目元が?』
『違う下の方』
『いや〜ん』
『なぜバレた』
『でも記念の写真はうれしかったね。武人くんの写真、編集して待ち受けにしたよ』
『それみんなやってるよ』
『私会場に入れなかったから、その写真ほしい』
『いいよ〜』
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「そうなのよね。彼の歌声は聴いててすごく心地よくなるのよね。男性だから? あーそれだと先に歌っていた彼(沢風くん)の時に分かりそうなものね……うーん」
幸い昨日の内に開設したばかりのネッチューブのチャンネルが『武装女子』って事は掴んでいる。もちろんすぐにチャンネル登録をした。
「おや? 早速動画が2つも上がっているね。一つが『君の側で』のミュージック動画でもう一つが……ほほう。メンバー紹介動画ね。いいじゃない」
早速ミュージック動画から再生してみる。
♪〜
「はぁ〜。武装女子サイコー。武人くんの歌声はやっぱり心地いいわね……そして色っぽい///」
お花摘みから戻ってきた私。
「ふぅ」
次は自己紹介の動画を再生する。
「へぇ」
動画を再生すると男装した可愛らしい感じの女の子が1人ひょっこり顔を出す。メイクをしているから中性的な男の子に見えるが胸があるのですぐに女の子だと分かる。
『はーい。武装女子でーす! 今日は皆さまにこれから活動する武装女子のメンバーを紹介したいと思いまーす。
まずは私。私はドラム担当のチコ(さちこ)だよ。よろしくね〜。じゃあどんどん紹介するね』
元気いっぱいのチコちゃんが歩き向かった先にはキーボードを拭いているまたもや小柄で可愛らしい男の子っぽい女の子。
『彼女がキーボード担当のツク(つくね)だよ』
『え、え、それ動画撮ってる?』
『そうだよ。早く自己紹介して』
『え、ちょ……わ、私はキーボードを担当してますツクです。皆さまこれからよろしくお願いします』
ぺこりと頭を下げるツクちゃん。可愛いいわね。百合には興味なかったけどツクちゃんならいいかも、なんて思ってると2人が今度はギターの手入れをしていたイケメンの男の子のところに。いえ、やっぱり胸があるからこの子も女の子なのね。
『彼女がギター担当のサリ(さおり)だよ』
『サリ〜自己紹介は落ち着いてするのよ』
2人がイタズラが成功したような笑顔でサリちゃんに声をかける。
『え、それって動画……? 撮ってるのぉ!?』
驚き目を見開くイケメン。あたふたしだしてイケメンっぽい雰囲気が少しずつ消えていく。
『わ、わたしがギター担当のサリでしゅ……』
見事に噛んでイケメンっぽい雰囲気が完全に消えた。みるみる真っ赤な顔になっていくサリちゃん。何この子、この子もかわいいわね。
湯気が出てきそうなほど真っ赤な顔になっているサリちゃんの手をひき3人で向かった先にはベースの手入れをしていたイケメンの男の子。じゃなくて、この子も胸があるから女の子だったか。やるわね武装女子。
『ん、みんなどうしたの?』
首を傾げるイケメンを気にすることなく元気なチコちゃんが紹介を始める。
『彼女がベース担当のナコ(ななこ)だよ』
『ナコ、自己紹介してね』
『ほ、ほらナコ。動画撮ってるから早く何か言わなきゃ』
『あ〜ベース担当のナコ。よろしくです』
少し無愛想なイケメンのナコちゃんが親指を小さく立てると、3人もカメラに向かって親指を立てた。
『ふふ』
そんな4人がしーっと口元に手を当てて、ゆっくりと忍び足で向かった先には、椅子に腰掛けて水を飲んでいる武人くんの後ろ姿が。
タオルを首からかけて、セットされていた髪が少し乱れているところを見ると汗をかいて髪を拭いた後なのかも。服装も少し乱れている。
そんな武人くんが足音に気づき振り返ると、暑くかったのか第2ボタンまで外して寛いでいた武人くんの姿がバッチリと画面に入る。
『『『ふわっ』』』
『ぁ』
メイクしているのもあって、クールなイケメンさがより際立つ顔立ちにもかかわらず、着崩していたから色っぽい姿として映り込む。
4人からも女子を感じされる声が漏れて聞こえてきた。
『あれ、みんな? ……何してるの?』
『『『……』』』
『……自己紹介動画撮ってるんだって』
元気なチコちゃんではなくナコちゃんが応えことに不思議に思っていれば、武人くんに釘付けになっているチコちゃん、ツクちゃん、サリちゃんは何も言えず真っ赤な顔で固まっていた。
『これ動画撮ってるの? ええ、ちょちょと、待って』
慌ててボタンをはめて服装を正し、乱れた髪を手櫛で整えた武人くんがすっと立ち上がる。
『彼が武装女子のボーカル。タケト』
やっぱりナコちゃんが武人くんを紹介した。チコちゃんはまだ固まっているのかな?
『えっと、武装女子のボーカルをしますタケトです』
そこで5人が綺麗に並んで立っている画面にかわり、
『『『『『皆さま、私たち武装女子はこれから活動を始めます。よろしくお願いします』』』』』
5人が頭を下げて自己紹介の動画が終わった。
ミュージック動画と自己紹介の動画、どちらの動画にも高評価ボタンを押した。
「はあ。次の動画はいつかしら。曲の販売もしてほしいな……ん?」
武装女子の演奏レベルは学生にしてはかなりのもの。武人くんの歌唱力もすばらしい。それなのに。
三年生の『おーちょこちょい』というバンドグループはスカウトされたが、武人くんたちのバンドがスカウトされたという話は全く出なかった。
音楽関係者の目は節穴なの? いや、それはないだろうけど、これは何かあるのかも。
「ちょっと調べてみるか……」
私はいつものように掲示板サイトもチェック始める。
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