第105話 『 二人で買い物へ 』

 アマガミさんが僕の家に居候を初めて早二日目。

 今日は二人でスーパーに訪れていた。


「ボッチー。お菓子食べたい。お菓子コーナー行ってきていいか」

「買い物に着いていきたいって言ったのアマガミさんじゃん。幼稚園生じゃないんだよ。ちゃんと付き合ってください」

「着いて来て思ったんだけどさ、あたし要らなくね? メシ作るのボッチだし」

「本当に今更だね。せっかく来たんだから一緒に回ろうよ。お菓子コーナーは後で寄れば済む話でしょ」


 こうして二人で買い物しに来たわいいけど、既にアマガミさんは飽きている様子だった。

 僕はため息を落としつつ、野菜コーナーに並ぶ食材を吟味していく。


「今日のお昼と夕飯は何にしようか」

「なぁ。ボッチのメシが美味いからこういうのも変なんだけどさ。べつに張り切って毎日手料理作んなくていいんだぞ? たまには外食とか弁当でもよくねぇ?」

「張り切ってるわけじゃないよ。もう作るのが日課になってるから苦行とも感じないしね。でも、お弁当っていう選択肢はありだね。どうする? お昼はお弁当買っていく?」

「あたしはどっちでもいいけど」

「じゃあ、アマガミさんは僕の手料理とお弁当どっちが食べたいですか?」

「本音言っていいのか?」


 わずかに躊躇う素振りをみせるアマガミさんに、僕はもちろんと頷く。


「……なら、んなもん。ボッチのメシが食いてぇに決まってる」

「ふふ。やっぱり素直が一番だよね」

「う、うるせぇ」


 照れたアマガミさんが気恥ずかしそうにぷいっとそっぽを向いた。そんな彼女を見て、僕はくすくすと笑う。


「それじゃあお昼はガパオライスにして、夜はうどんにしようか。天ぷらの具材は何にしようか」

「さも当然のガパオライスを作ろうとする男子高校生に驚きを隠せねぇんだけど」

 若干引いた目で僕を見てくるアマガミさん。

「思ってるより簡単に作れるものだよ。オリーブオイルで炒めた鶏ひき肉と野菜にバジルを混ぜて、塩コショウで味付けすればいいだけだもん」

「そう聞くと簡単に作れそうだな」

「できるできる。あ、せっかくだしアマガミさんが作る?」


 と提案してみると、しかめっ面が返ってきた。


「嫌だよ。あたしはボッチのメシが食いてぇんだ。自分の料理なんか食ったら一人暮らししてた時と変わんねぇもん」

「あはは。なら今後も食事担当は僕だね。夜の天ぷらは揚げたてサクサクだから期待しててね」

「あー、これダメだ。ボッチスパイラルから抜け出せなくなる」

「なにそのボッチスパイラルって」

「ボッチがいる生活から抜け出せなくなるってことだよ。最高すぎて一生抜け出せる気がしねぇ」

「ふふっ。今後も甘やかし続けてあげるね」

「ダメ人間まっしぐらだ⁉」


 アマガミさんの喜ぶ顔が好きな僕にとっては別に無理に抜け出してもらわなくて構わないのだが、本人はそれに不満げな様子で「ボッチに絆されねぇようにしねぇと」と決意を固めていた。むぅ。僕は全然頼ってきて欲しいんだけどなぁ。


「……くぅ。にしても楽しみだなぁ。揚げたての天ぷら。想像しただけで腹が減ってくるわ」


 けどこんな風に子どもみたくはしゃぐアマガミさんを見れば、それだけで満足してしまう自分がいて。

 本当に僕って単純だな。

 キミの喜ぶ顔を見るだけで、何でも頑張れる気がしてくるんだから。


「ほら、そんなに夕飯の天ぷらが楽しみなら、しっかり買い物手伝ってよね」

「しゃーねぇ。これも美味いメシを食う為だ。役立たずだけどやれることはやってやる」

「それじゃあまずは何の天ぷらが食べたいか教えて。まずは野菜から」

「じゃああれだ、玉ねぎの天ぷらってやつ食ってみたい! あ、それとかぼちゃもいいな」

「うんうん。その調子でどんどん食べたい野菜言っていこうか」

「……おい。なにどさくさに紛れてめっちゃ野菜食わせようとしてんだ。危うく気付かないまま天ぷらが野菜だけで終わるところだったじゃねえか」

「ちっ。バレたか」

「確信犯じゃねえか⁉ もう拗ねたからな! ボッチの分の天ぷらも食ってやる!」

「ならこちらはアマガミさんが食べきれないほどの天ぷらを作るだけだよ!」

「張り合ってくるなよ⁉ そのしてやったりみたいな顔すんの止めろ腹立つ!」


 そうして、二人でわいわい盛り上がりながら買い物をして。

 買い物が終われば、ほんのり頬を朱に染めた彼女から僕を求めるように手を伸ばしてきて。

僕はその手を固く握りながら、僕らの住む家へと帰っていった。



【あとがき】

もう結婚してるだろこの二人。。。

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