その⑥
そのささやかな贈り物には
どのような意図があったのだろうか。
一つ分かることと言えば、
好意を伝えたかった、ということだけだ。
紙の感触、蝋の照り、綺麗な筆跡。
筆跡はそれを書いた人の
性格を写し出す、いわば鏡のような
ものだ、と聞いたことがある。
少し丸みを帯びた、可愛らしい字だった。
ここで送り主を探す為のヒント
というものと言えば、
この筆跡ぐらいしか出てきていない。
校内の人間の書いた字を
一つ一つ見るというのは
かなり面倒くさい作業になるだろうし、
似たような可愛らしい字など、
多く存在しているだろう。
これで、個人が特定出来るとは
思えないが、この方法が1番
地道ではあるが、現実的だと思った。
もう一つ方法があるとすれば、
この手紙に付着している
指紋、皮脂などを検出することだろうが、
この方法を取るのは、少々めんどくさいし、
多分、鞄に入れたあの時点で
そんな生態的証拠なんて
ほぼほぼ消えているだろうし、
第一、指紋が分かったとして
校内の全員の指紋と照合するのなんて
現実離れしていると思った。
この時点で、
もう日が暮れかかっていた。
燃え上がる炎の色に
照らされた綿雲が、
風に流れてゆく姿を、
彼女はただ、窓から眺めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます