その④

彼女は思い切った。

しかし、またここで、

奇妙な不気味さ、

恐怖とまではいかないものの、精神の奥底を

根こそぎ取って行かれそうなほどの

強い感情に支配された。

先程は一瞬にして吹き飛んだこの感情も

今度はそうはいかなかった。


今、ここでこの手紙を見ないままに、

燃やしてしまうことも出来る。

そうすれば、何も残るものはない。

ただ、残るものがあるとすれば、

手紙が置いてあったという事実と、

灰だけである。

ただ、その事実は彼女と手紙の送り主しか

知らないだろうから、

ほぼ、無いものと言ってしまっても良いのでは無いか、と彼女は思った。

だが、あまりにも送り主に失礼だ、

封筒を開けてしまった以上は

もう後戻りなどできない。


中の紙を取り出す。

手紙に使われるような紙ではない。

それよりも少し分厚い和紙のような

質感だった。


そこにはただ、こう綴られていた。


あなたの事が好きです。


彼女は、やはりそうか、と思い、

まるで賭けに勝ったような感覚を覚えた。

そうして同時に、当たり前の疑問が

浮かんできた。

これを書いたのは、このラブレターを

書いたのは、一体何処の誰なのか。

どうして私に送ったのか。

どうしてこれだけしか書いていないのか。


これだけしか書いていない。

宛名も無ければ、送り主の名前さえない。

果たして本当に私宛なのだろうか。

私に宛てたとして、

送った側の自分が相手に認知される

ヒントも残さない。


よほどの馬鹿なのではないか、

と彼女は思った。

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