第12話 配信お休み

「うわぁ、沢山AZUSAが居るよ!」


 カフェの至る所にAZUSAのイラストが置いてあり、私は柄にもなく興奮する。


「あんたってホントAZUSAの事好きよね~」


「うん! 好き! 特に歌声が好き!」


 心に染み渡るような優しい歌声から魂に訴えかけてくる激しい歌声まで色とりどりの顔を見せてくれるAZUSAの歌声は私にとって全てにおいて完璧であった。


「へえ、顔とかじゃないんだ」


「顔? いや別に顔も好きだよ」


 ていうかAZUSAであればなんでも好きかもしれない。一度好きになってしまえば私はその人の全部が好きになるのだとAZUSAで初めて知った。


「お待たせいたしました。AZUSAの手作りガパオライスとこちらはAZUSAの手作りハンバーグ定食でございます」


「ありがとうございます」


 美穂ちゃんが頼んだガパオライスと私が頼んだハンバーグ定食が来る。すかさず携帯を手にすると写真で収めていく。それを美穂ちゃんはガパオライスに手をつけずに見守ってくれる。


「今日はありがとね美穂ちゃん。付き合ってくれて」


「私も楽しいから別に気にしなくて良いよ」


 何回も満足した写真が撮れなくて苦戦している私に一切の苦言を呈さない美穂ちゃんの優しさが胸に沁みる。


「ごめんお待たせ」


「良いよ。そんな焦んなくて。カフェってゆっくりするところだからね」


 二人分頼んでおいたラテアートを口にしながら美穂ちゃんがそう言ってくれる。


「ありがと。それじゃいただきます」



 ♢



「美味しかったね」


「うん! それに楽しかった!」

 

 AZUSAのコラボカフェで写真も撮り、グッズも買い漁り、十二分に満足した私はようやくカフェを後にする。美穂ちゃんはAZUSAの大ファンという訳ではないので終始ニコニコしながら私の動作を見守ってくれていた。


「帰りにアウトレット寄ってく?」


「うん」


 ちょうど配信用の服でも探そうかと思っていた私は美穂ちゃんのその提案を承諾する。まあここまで付き合ってもらったし何もなくても行くつもりだったけど。


 それから二人でコラボカフェがあったビルから少し歩いたところにあるアウトレットばかりが並んでいる通りに来る。財布の中身はドローンカメラを買ったのと先程のコラボカフェで優に一万円を使ったことで中々に厳しい状況ではあるが配信のためだ。致し方あるまい。


「このジャケット良くない?」


「うん! 美穂ちゃんに凄く似合うと思う」


 正直、私が着ると逆に着られてる感が醸し出されるオシャレなジャケットも美穂ちゃんが着ればあら不思議。大人な雰囲気を漂わせる美女が誕生する。


「あっ、ちょうどこんな感じのカーゴパンツ欲しかったんだよね~」


「良いじゃん」


 美穂ちゃんが選ぶものはどれもオシャレに見えるし実際オシャレなのだろう。どうしたらそれほどの審美眼を得られるのだろうか。


 私も配信用の服を探そうかな。


 美穂ちゃんと一緒に歩きながら配信映えしそうな服を探していく。出来れば私服というよりかは印象に残るような服が良い。どの配信者を見てもダンジョン配信用のカッコいい服とかかわいい服を着てるのを見てうらやましく思ってきたのだ。


 そんなことを考えていると前方にとある名前のコーナーが見えてくる。


『ダンジョン探索者用衣類』


「美穂ちゃん、あそこ寄ってみてもいい?」


「うん? あー、ダンジョン探索用ね。良いよ。行こ行こ」


 快く受け入れてくれた美穂ちゃんと共にそのコーナーへと向かう。どうやら探索者たちが持ち帰ってくる魔物の素材を使って作っている衣類らしく、激しい動きをするダンジョン探索でも破けにくいし汚れにくいらしい。


「この服とかどうよ?」


「いやいやいやそれは不味いよ」


 美穂ちゃんが真っ先に持ってきたのは上半身セパレートでかなり露出の激しい服だ。胸元のはだけ具合と言い中々に恥ずかしい。


「良いから良いから着てみてよ」


「ちょちょっと」


 美穂ちゃんに押されるがまま試着室の中へと入ってしまう。ここまで来たら流石に着なくちゃダメ? でも着れないよ~。


 少しの間逡巡した結果、もうどうにでもなれって気持ちで試着室の中から飛び出す。


「意外と似合ってんじゃん」


「恥ずかしいよ」


 恥ずかしすぎて叫びたくなる。へそが出てる服なんて初めて着た。谷間まで露になった胸元とかもはや見えてるんじゃないかってそわそわしちゃう。


 それからは美穂ちゃんの着せ替え人形のように服を試着させられていく。


「これとか可愛いよね。似合ってるよ」


「そ、そう?」


「うん、やっぱり茉奈ってかっこいい服でも全然似合うわね」


「ありがと」


 そうして結局、私が今後ダンジョン配信の正装が決まる。二人ともが満場一致で決まった服だ。青色のドレス風鎧。金色の紋様がものすごくカッコいい。


 しかし、魔物の素材を使っているだけあってか値段がかなり張る。5万円か……。一応、ふすまの奥にしまっていたお年玉を持ってきているから払えるは払えるけど。


 財布を見ながらそんなことを考えていると、スッと目の前に美穂ちゃんの手が伸びてきて私の財布を閉じてくる。


「今回は私の奢りだよ。バズったお祝いに」


「え? いやいやいや5万円だよ? 流石に申し訳なさすぎるよ」


「大丈夫だって。私だってモデルで結構稼いでるんだし余裕はあるから。それに後で返してもらうつもりだからね」


 結局かなり渋った私を押し切って美穂ちゃんがドレス風鎧を買ってくれる。流石に悪いからと美穂ちゃんの分は私が買ったけど。


「今日は楽しかったよ。それじゃ配信頑張ってね!」


 アウトレットを出るとすっかり外も暗くなっており、帰ることにした。別れ際、美穂ちゃんがそう言って離れていく後姿を見てもう一度ありがとう、と呟く。


 そうして買ってもらったドレス風鎧を抱きしめながら私は家に帰るのであった。

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