第38話 恥を知れ。その方がかわいい。

「二度と俺たちの前に現れるなよ。あと小さい人間にも何もするな。次見つけたら100まで数えてやるからな」

「ひいっ!? ごめんなさいごめんなさい、ぜったいやりません」

「ほかの男の悪魔にも言っといてやれ」

「はいっ」


 クソガキを開放した。

 小走りで逃げていく後ろ姿を数秒だけ見送り、さあみんなのところに行こうと思ったら……


「ひっ」


 そこには生まれたての子鹿のように脚を震わせている、つるやちゃんが居た。

 大きな瞳をうるうるとさせ、白い肌の頬を紅くさせている。

 地面の草むらは、少し濡れているように見える。こ、これは……。


「……つるやちゃん?」

「はっ、はいっ」

「どうしたの?」

「み、見てました……」

「そっか。どうだった?」

「怖いです!」

「コワクナイヨー」

「怖いですう!」


 ドン引きしてるじゃないか……

 そして、漏らしてるじゃないか……


「安心してよ、つるやちゃんにはしないし」

「本当に……?」

「うん。指を鳴らすと太くなっちゃうからね。女の子にはしないよ」

「女の子……」

「うん」


 俺は男が相手ならSになるし、小さな女の子相手ならMになりますからね。

 しかし、つるやちゃんはピンときてないようす。


「勇者様にとっては悪魔ですよね? 性別がそんなに重要なんでしょうか?」

「重要だね! 一番重要だね!」

「ええ……」


 理解できない様子。常識が通用しないなあ。悪魔だなあ。

 しょうがない説明するか……。


「俺にとっては、悪魔ってのは三種類に分かれるわけ」

「ああ……人間を殺してるか殺してないかとかそういう……」

「メスガキか、ブスガキか、クソガキです」

「えっ?」

「メスガキか、ブスガキか、クソガキ」


 ガキじゃない悪魔は、想定していない。悪魔は俺からすると11~14歳くらいの普通の人間のことである。


「クソガキは男ね。容赦しない」

「え?」

「ブスガキ男じゃないけどブスってことね。まだ会ったことはない」

「はい?」

「で、メスガキ。カワイイ女の子ね。つるやちゃんみたいな」

「カワイイ女の子……」


 さっきまで混乱していたのに、ぽわわ……と幸福そうになるつるやちゃん。かわいがっていこう。


「メスガキは、強制的に俺の家族。異論は認めない」

「か、家族……」


 ぽぽぽと顔を赤らめるつるや。話、聞いてる?


「クソガキは、他のクソガキが俺たちに襲ってこないよう、恐怖を覚えさせる」

「うわあ……」

「ブスガキだったら……一緒には暮らさないし、可愛そうだから恐怖も与えない」

「えっ……それでいいんですか……?」

「うん……なんというか、それしかやりようがないというか……」


 そう考えると、クソガキの方がマシかもしれん。ブスガキの扱いは難しい。

 しかしクソガキでも顔は結構整っていたからな。悪魔は基本的に不細工じゃないのかもしれん。

 小さな人間たちの中には、ちゃんとブスやブサイクもいる。


「ま、そういうわけで。つるやちゃんにはもう痛いことはしないから。あ、いやひょっとしたら最初は痛いかもしれないが……」

「な、なんでお尻を触るんですか」

「あ、これは俺の国の挨拶なんで、気にしないでいいよ」

「そうなんですか……」


 お尻なんてしょっちゅう触るんだから、いちいち気にされてはめんどくさい。


「ま、それよりもさ、早くちゅーしたかったんだよね。ちゅー」

「え? え? ちゅー?」


 腰に手をやり、片手を奪い。上から目を覗き込む。

 うん。やっぱりカワイイ。

 あいらん達みたいないわゆるメスガキももちろん好きなんだが、つるやは正統派の美少女っぽくて嬉しいのよ。


「お。ちゅーしようとしてるー」


 あいらんがやってきた模様。ナチュラルに出歯亀。

 ま、気にすることじゃない。


「……?」


 つるやちゃんは目を背けた。なんで?

 んむーと唇を突き出すが、ぷいっとしたままだ。あれ、わからせが足りてない?


「もっかいお尻叩いた方が良い?」

「や、やめてください!」

「じゃ、ちゅーしようよ」


 俺のキスを拒むようなら、暴力を振るうと脅す。いたいけな少女にね。

 現代日本で到底許されることではないが、それをやっていいのが勇者という存在なのです。ビバ勇者!


「あ、あいらんが見てるので……」

「ほー?」


 恥ずかしいということか?

 なんてこった。

 これは凄いことです。

 悪魔は基本的にそういう概念がないはずなんですよ。

 あいらんと俺なんて、町のど真ん中でみんなに見せつけてるんですよ。

 つまり、恥じらいという感情があるわけだ……


「いいね!」

「何がですか!?」


 いや、いいよ。

 恥ずかしいなんて。素晴らしいことですよ。

 いいこと思いついた。


「ちょっと、あいらん」

「お? どした?」


 俺があいらんを手招きすると、てててーと寄ってきた。


「お手本見せてやろう」

「お? なるほどな」

「つるやちゃん。よく見てるんだよ。見逃しちゃダメよ」


 そう言って尻を撫でてから、あいらんをガッと抱く。

 つんつんと唇で2回ノックすると、お口が少し開いた。

 優しく唇をあわせ、焦らすように上唇をちろちろと舐める。

 あいらんは目をとろんとさせてから、うっとりと目を閉じる。

 

「んぅ……」


 思わず漏れた声。気持ちよさそう。

 横目で確認すると、目を大きく開けて口を手で抑えていた。よしよし。恥ずかしそうだ。

 あいらんを抱きしめる力を少し強める。

 ぷにぷにの頬が紅くなり、メスガキの顔がメスになる。


「うわあ……」


 つるやちゃんは、めちゃくちゃ恥ずかしそうにしているぞ。顔を真っ赤にして。手の指の隙間から見てる感じ。いいね!

 

「あいらん。舌出して」

「え? うん……」


 ちろっと小さく舌を出した。

 おいおいおいおい。なんて控えめな。


「どした? なんでこんな控えめなの?」

「いや、なんかさ。つるやが凄い目で見てるし。なんか……」


 おいおいおいおい。いいね!

 あいらんが、恥ずかしさを覚えました!

 いいじゃない。いい傾向ですよ?


「ん!?」


 恥じらうあいらんの口に、強引に舌をねじ込んでいく!

 ちゅぱちゅぱ、ぴちゃぴちゃ。

 わざと唾液の音を立てるように、舌を動かしまくってキスをする。


「ああ……」


 つるやちゃんが恥ずかしそうにしております。俺がちゃんと見とけと言ったから、目を背けるでも閉じるでもないが、直視はしかねるという感じ。

 あいらんは、気持ちいいのか、ぐったりと俺に身を任せている。


「さて」

「あっ……」


 名残惜しそうな表情のあいらん。いいよ。

 ここで、優しく、やさし~く、つるやちゃんをハグ。


「あ……」


 はい、落ちた。もう恋する乙女のソレ。目がハート。

 つるやちゃんの目をずっと見てると見せかけて……あいらんの目を見る。


「……」


 いいねえ……これがNTRか……。

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