第5話 創造神ガルアディオ

 俺はダンジョンの地下一〇〇階へと辿り着いた。地下九一階から九九階は山岳地帯だったがここは一風変わって聖堂のように厳かな雰囲気が漂っていた。辺り一面、白色の大理石で出来ているようだ。そして幾つもの円状の柱が天井へ伸びていた。


 歩みを進めると豪華な両開きのドアが現れたので、俺はとりあえず右拳でコンコンとノックした。すると扉は鈍い音を立てていた。


「鋼で出来ているな……」


 先に何があるか分からない。仮に魔物が居るとしたら先手必勝で叩くべきだ。それに今なら何が来ても倒せる気がする。


 俺は無言で右足の裏で鋼の扉を蹴り破った! 扉はすっぽ抜ける様に部屋の中に飛んでいき何かとぶつかると砕け散った!


「なんだあれ」


 扉とぶつかった何かは直径三メートル大きさがある白色の球体で縦横無尽に溝があった。


 俺は球体に近づく。


「ピピピピピピピ‼」


 白色の球体はひよこのような鳴き声を出すと、溝に沿って分裂し変形し始める!手、足、胴体、頭部が形成され、それぞれの部位が連結し人型となる!


 人型の構造は複雑で凹凸が無く、機械的だった。頭部にある目と思われる部分は緑色に光る。仏頂面で表情に変化は無かったが、どうやら俺を睨んでいるようだ。


「ナンジ、異様ナ魔力感ジル」

「それはあんたも一緒だろ」

 

 機械的な人型からは今まで感じた事ない魔力を感じた。それに加えて圧倒的、威圧感! そして奴は神々しい光を放っていた。


「ワレ、創造神ガルアディオ。不届キ者ヲ排除スル」


 創造神……この世界と生命を生み出した神だっけ。まぁ、そんな奴が王家の試練で現われるわけないか!


「不届き者は神を名乗るあんただろ」

「今ヨリ天罰下ス」

「創造神ってのは確かこの世界と生きとし生ける者を作った存在だろ? そんな奴が自分で作った人間を襲うか?」

「無知トハ不幸ナリ!」


 ガルアディオの腹部が筒に変形する! そして筒から緑色の光線が放たれる! 光線は前方一面を覆い逃げ場が無い! とかは思わなかった。


「《瞬間移動/テレポート》」


 俺はガルアディオの背後に瞬間移動した。しかしガルアディオは俺の目の前から消え背後に移動した。


「あんたもそれを使えるのか」

「無論、ワレ二出来ヌ魔法ナシ」


 ガルアディオもどうやら《瞬間移動/テレポート》を使ったようだ。振り返ると奴は手を槍状に変形させて俺を突き刺そうとしたが再び、瞬間移動で避けた。


 俺達は《瞬間移動/テレポート》の応酬を続けた。お互い攻撃を繰り出すが一切当たらない。互いの攻撃の余波が地下一〇〇階という階層を破壊する。


 上空に移動し浮いていたアルカディオに向けて俺は魔力を込めた拳を放とうとする。すると奴は俺の目の前で結界を展開する。


 直感で分かった。この結界には魔力が効かないと。だから俺は異空間からある杖を手繰り寄せる!


時針じしんの杖ダンデリオン!」

「ヌッ! ソノ杖ハ!」

「世界よ止まれ!」


 この世界の時間を停止させた。俺以外、動く事はない!


 時針じしんの杖ダンデリオンは地下九〇階で倒した堕天使キュデオが持っていた固有魔道武具アーティファクトだ。この杖は時間を止める能力を持つ。


「ヌオオオオオオ!」

「!」


 ガルアディオは時を止めたにも関わらず雄叫びを上げて足を筒に変形させる! そして筒から緑色の光線を放ってきた! 俺は時針じしんの杖ダンデリオンを瞬時に異空間に収納して光線をなんとか両手で横に弾き飛ばす!


「何故動けた……あんたはなんなんだ」

「ワレハ神。ソレ以上デモソレ以下デモナイ」

「神だから時間が止まっても動けるのか?」

「世界変エタ。ワレガ動ケナナイ世界カラ動ケル世界二」


 こいつは一体何を言ってるんだ? 世界そのものを変えたというのか? まるで神だな。それじゃあ、何しても無駄じゃないか……参ったな。


「お手上げだ」

「潔ク、死ヌガイイ」

「今のままの状態だったら、お手上げって事だ」

「何ヲ言ッテル」


 俺は異空間から吸収短剣ドレインダガーアルムハイムを手繰り寄せよ右手に納めた。


固有魔道武具アーティファクトナド、世界ノ理ヲ改変デキル、ワレノ前デハ無意味」

「お前は侮った。この世界をな」

「戯言ヲ」

固有魔道武具アーティファクトは神が作ったものじゃない。氷山地帯で長年、魔力が溜まり続けていた氷を名工が剣にしたり、樹齢五〇〇年の木を使って精霊が丹精込めて弓にしたり、生きとし生ける物の手によって生み出されたものだ」

「フハハハハハ‼」


 神と名乗るそいつは嘲る様に笑った。


「我二作クラレタ存在ガ作ッタ物ナド効カヌ!」

「それはどうかな? 俺はずっとこの短剣で戦ってきたから分かる、この固有魔道武具アーティファクトにはたくさんの思いが込められている。そして今、この思いの力を行使する!」


 右手にある短剣は砂状になり消えていった。すると、俺の体は吸収短剣ドレインダガーアルムハイムの刀身の様に赤く光りだす。


「ナンダソレハ」

「一回きりの大博打だ……俺が……俺自身が吸収短剣ドレインダガーアルムハイムだ」

「マタ戯言ヲ……散レ!」


 俺の周囲に無数の魔法陣が展開される! 魔法陣からは炎、水、土、雷、氷等様々な魔法攻撃が繰り出される! 俺は高速で魔法攻撃は平手で弾き続けた!


「ヌッ!」


 俺は隙を見てガルアディオの前に瞬間移動した! そして魔力を込めた拳で殴りつけて奴は吹っ飛ばす!


「グオオッ!」


 ガルアディオは壁に叩き付けられる!


「馬鹿ナ何故!」

「分からないか? 俺が吸収短剣ドレインダガーアルムハイムになった瞬間、あんたの力は奪われ続けているんだ。俺があんたの前にいる限り! 力を失い続ける!」

「神ノ力ヲ奪エルハズがナイ!」

「……次元破斬剣じげんはざんけんヴァルヴァルフ」


 俺はいつの日か戦った剣王が使ってた大剣を取り出す! 剣王は俺の目の前から消え、死角から攻撃し続けていた。それはこの大剣が対象を次元ごとを切り裂けるせいだ。剣王は目の前の空間を次元ごと斬って、その次元の中を移動して俺の死角へと移動したのだ。


「いくぞ創造神!」

「無駄ダ! ドンナ事象モ我ニハ効カ……グァァァァ!」


 俺は大剣で目の前の空間を次元ごと斬った! そして次元の中に入り、死角から創造神を斬りつけた! 何度も幾度も、俺は奴を死角から斬り続ける!


 創造神ガルアディオは見るも無残な姿になる。


「馬鹿ナ! 馬鹿ナ!」

「分からないのか? 次元を斬れる世界から斬れない世界に改変しようとしたんだろうけど、もうあんたにその力はない!」

「マ……マサカ!」

「そうだ……あんたの力を奪い続けた俺こそが創造神だ」


 正直、自分でも何言ってるか分からないけどいいや。勝利を確信した俺は次元破斬剣じげんはざんけんヴァルヴァルフを異空間へと収納する。


「我ガ負ケルハズガナイ!」

「自分の体を見ても、まだそう言えるか?」

「ナ二?」


 創造神ガルアディオの体は徐々に消えていってた。


「コレハ⁉」

「あんたが存在する世界から元々存在しない世界へと変えた」

「ドウイウ事ダ」

「俺が世界を変えただけだ」


 創造神は体の消滅を待つしかなかった。


「馬鹿ナァァァァァァァァァァァァ!」


 と言って奴は消えていった。すると創造神の力の全てが俺に流れ込む! 世界の理! 生命の創造! 物質の創造! ありとあらゆる概念が俺の意のままになるのを感じる! 奴の力が完全に俺のものになると赤く光っていた体は元に戻る。もう吸収短剣ドレインダガーアルムハイムは使えない。固有魔道武具アーティファクトに込められた思いの力を行使した事でこの世から消滅したのだ。俺は年月を共に重ねた相棒に感謝する。


「ありがとう……アルムハイム」


 そう呟くと足元の床がずれ動く! 俺はびっくりして跳躍すると、何故か宙に浮いていた。


「うお! 飛んでいる? そういえば創造神って奴、羽が無くても飛んでいたからな。力を奪ったおかげで飛べるようになったのかな?」


 ずれ動いた床から螺旋状の階段が現われた。


「……まだ、下があるのか……ここまで来たんだ。行くか!」


 俺は螺旋状の階段を降りて行った。いくら降りても下の階層には着かない。飛び降りて一気に下まで行ってやろうと思った時、ようやく下の階層が見えた。


 俺の足音が響く、地下一〇一階は水晶で出来た小さい一室だった。部屋の中心には水晶の塊があった。


 俺は水晶の塊に近づく。


「……女の子?」


 水晶の塊の中には一五、六歳位の女の子が居た。彼女は目を瞑って眠っている様だった。艶やかで華がある顔立ち。金色のロングヘアは極細の黒リボンでツーサイドアップとなっていた。白を基調としたローブを身に纏っており、大きな双丘に押し上げられて胸の当たりが膨らんでいた。そしてローブの下からはひざうえ丈の青スカートが見えた。


 俺は彼女に見惚れて無意識で水晶に触れていた。その瞬間! 水晶がひび割れる!


 やばい! 女の子が砕け散ってしまう!


「どうしよどうしよ! この子がバラバラになっちまう! 世界を改変してこの水晶が壊れない世界に変えるか? いや時を止めるか? それとも時を戻すか⁉」


 選択肢があり過ぎて逆に困るな。と考えていると水晶はパリンッ! と割れるが女の子は無事だった。


 女の子は水晶から放り出される。彼女が地面に体を打つ前に俺は両肩を持って受け止めた。女の子は奇麗な碧眼を見開き、俺達は時が止まったかの様に互いの目を合わせた。


§


五話まで読んでいただきありがとうございます。


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