第6話 今日も寝ている安西さん

「って今日も寝てるじゃん!」


 安西あんざいさんの居酒屋の手伝いをした翌日。無事筋肉痛になり、遅刻ギリギリに登校した俺の隣では今日も安西さんが寝ていた。


「……むにゃむにゃ」


 昨日の親子丼の夢でも見ているんだろう。口もとが小さく動いている。


 あれだけの肉体労働だったんだ。それも毎日、寝ちゃうのは当然だよ。これまでは寝てるくらいにしか思っていなかったけど、昨日の働きぶりを見たからこそ分かる。重たい料理を運んだり、皿やボトルを一度に片付けたり、お会計をしたり、注文を聞いたり、安西さんはあの時間ずっと動き回っていた。


 布団を被せてあげたいけど、学校ではダメだよな。

 それにしても、ほんとに気持ちよさそうに寝てる。


「ふわぁ」


 ヤバい。安西さんを見てたら眠気が。HR始まったばかりだし、あんまり重要なこともないだろう、少しは寝ても問題ないか。昨日の疲れもまだ残ってるし。チャイムが鳴るから先生が来る前には起きれる気がする。


「……おやすみ」


 誰にとは言わない挨拶をして、俺は腕を枕代わりに寝ることした。

 ほんと、何でこのときチャイムで起きられるなんて思っていたんだろう。



 ――斉藤さいとう


「……?」


 誰かに名前を呼ばれた気がする。チャイムはまだ鳴っていないから、そんなに時間は経っていないはずなんだけど。もしかして、授業始まってた? だとしても一限は国語の山口先生なはずだし、寝ていたい。


「――斉藤、起きなさい!」


 あれ? なぜか鷹先の声が聞こえた気が。数学の授業は二限だし、そんなこと――


「……え?」


 少しだけ体を起こして教室を確認したら、クラスメイトが全員こっちを見ていた。

 あれ? 今って国語の時間だよね。そんな一時間も寝てるはずが――


「おはようさん。よく眠れたか?」

「……おはようございます。鷹崎先生」


 そっと隣を確認する。そこには安西さんではなく、鷹先がこっちをずっと睨んでいた。


「寝ていたってことは、黒板の問題分かるよな」

「……えっと」


 ……やってしまった。どうするこの状況。

 黒板にはぎっしりと数式や図形が書かれていて、どの問題なのかすらわからない。机の上には当然、教科書やノートどころか筆箱すら置いていなかった。


 あてずっぽで答えてみるか? いやそんなことできるはずがない。こうなったら隣の子に聞くしか。安西さんは――


「――って、寝てる」


 鷹先の横から少しだけ見えた安西さんは、朝と同じ体勢でぐっすりお休み中だった。この状況で、何で寝ていられるの?


「……えっと」


 ――斉藤も寝てたのかよ。

 ――あいつ一時間目からずっとだぜ。


 そんな笑い声がどこからか聞こえてくる。

 ああもう。どうだってなれ!


「3xの――」


 キーンコーンカーンコーン。


 あれ、チャイムが鳴った?


「よし今日の授業はここでおしまいだ。斉藤、次の授業のときに当てるから、しっかり答えられるようにな」


 そう言って、起立礼の挨拶も行わず、鷹先は教室を出ていった。

 ひとまずは助かったけど、二時間くらい寝てたとは。

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