家出

Rotten flower

拾う

道端に一人の少女が落ちていた。外見は誰からでも好かれそうな外見で、人形のような姿だ。段ボールには少し荒い文字で「拾ってください。」と書かれている。いわゆる、「捨て子」というものだろう。

ただ、人通りはあるにはあるが少ない。一時間に二人、三人が通る程度だ。ただ通った人に彼女は眩しい瞳を向けていた。拾ってくれると思っているのだろうか。


拾ってきてしまった。自分は時々、脳よりも体が先に動いてしまっている。悪い大人の例である。

服は綺麗とは言えないほど濡れ汚れていたので着替えてもらった。流石に脱衣所でだが。というか、そもそも女物の服ですら持っていなかったため、俺が最近買った服をとりあえずだが着せてみた。

彼女を拾ったがあまり話もせずに20分が経過した。彼女が時々こちらを見るぐらいで話は生まれなかった。

「すまない。何もなくて。」

それが彼女にかけた一番最初の言葉だった。

「大丈夫ですよ。」

彼女の声は少し柔らかいように聞こえた。視線は別のところに照準があっていたが、話せたことは少しの進展になったのではないだろうか。

そういえば、晩御飯を食べるのを忘れていた。こんな時間帯から料理するのもなんだが、健康のためだ。

俺は冷蔵庫を開けて中身を確認した。最低限のものしか入っていないがそれでいい。

「何か食べますか?」

俺は彼女に訊いた。

「どっちでもいいですよ。」

この前、卵の個数を余分に買ってしまったことがここで役立つとは思ってもいなかったが、材料は十分にある。オムライスにでもするか。


うまい具合にできた。二人分作ったから上手くできた方を彼女の分にした。


俺はバツイチだ。妻は金遣いが荒かった。そもそも、大学の時からの妻から俺への一方的な恋愛だった。結婚しようと言い出したのもあちら側だった。

ある日、妻が妊娠した。避妊はしていたが偶然はあるもんだ。と自分を言い聞かせる。実際は違った。あんな、一方的な妻が浮気をしていたなんて、

そのあと、俺たちは別れた。そもそも心の型が合わない人と結婚したことが運の尽きなのだろうか。

出産時は別の男と結婚していた。そのため、俺は自分の、いや、自分のではないが子供の顔が見たことなかった。


「ごはん、できましたよ。」

「ありがとう。」

そういえば、アレルギーに関する質問をしていなかった。

「そういえば、アレルギーって持ってますか?」

「持ってませんよ。」

持っていないのなら安心した。

彼女は育ちが良いのだろうか。とても綺麗に食べている。人に見られながら食べる。と言うことを人は嫌うと思うが、人に見られながらも彼女は何のリアクションもせずに食べ続けていた。

俺にもし子供がいたとしてもここまでは育てられなかっただろう。

「育ちがいいみたいだけど親御さんは?」

俺は少し気になり質問をしてみた。

「親はすごい暴力を振るってきます。」

彼女は自分の中で一段落つくとそう答えた。

「でも、傷とか、痣はあんまり見えないけど。」

「傷は服で隠れる部分にあって、痣はコンシーラーとか使って隠してます。」

彼女は大事な部分が見えない程度に服を捲った。

「学校は?」

「言ってます。」

彼女には不思議なところが多かった。結局、今わかっていることは彼女の家庭環境が不思議で、一般人な俺の脳には理解できないことが多すぎたことだ。


次の日も、その次の日も。俺は仕事だった。そんなバックれることはなく、順調とはではいかないが働き続けていた。そんな一生懸命働き続けていた時も、彼女のことが脳内のどこかにあった。上の空というのはこういうものなのだろう。

弁当を家に置いていた。ちゃんと帰ってきた時には食べ終わった状態だった。ちゃんと食べたという証拠はないが、自分の中で安心させるためだ。もちろん夕飯は俺が作って、一緒に食べていた。反抗期程度の年齢なのに一緒に食べてくれるのが嬉しかった。


その次の日も弁当を作った。家に帰ると彼女はいなかった。弁当は弁当箱と一緒にどこかに行っていた。

俺は家の中を探した。とは言っても家はまぁまぁ狭いし、家具等もごちゃついていなかったため数分で家全体は調べ終わった。

街中も探すことにした運良く明日は休日だ。

結局、街中にもいなかった。


三日後ぐらいだろうか、彼女は家にやってきた。

「どこへ行ってたんですか?」

俺は彼女に言った。

「大丈夫です。」

無言が続いたあと、彼女はいきなり話を始めた。

「今までありがとうございました。」

少し強めの風が吹く。そのあと、彼女はこう言った。

「これからもよろしくお願いします。私の憧れの「お父さん」。」

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