第90話 峠にいた女子高生

 バ〇バリ〇マシンでも結構有名な峠らしく、ちょっとしたチームみたいな集まりがいたがよく見ると髪を束ねたライダーが走っていたが、チームメンバーではないのか一人で黙々と走っている。やがて、そのライダーが綾と裕子をちらっと見た感じで走り去っていったが、また戻ってきた。


 「あら?女性なんて珍しいですね。こっちの人じゃないですよね~?」


 声を掛けてきたライダーは女性だった。一人で走っていたのは令和の時代ではちょっと信じがたいが、昭和のライダーは女性に声を掛けるどころか相手にしないようで、それもあってかチームにも入らず好きだから一人でこの峠をちょくちょく走っているらしい。令和だったら峠で女の子が一人止まっていようものなら、なんたら騎士団がやってきてちょっとした講釈を垂れたり、あれこれ構うシチュエーションなのだが、峠を走るのが好きすぎるこの時代の男性は女性を相手にしない風潮があったようだ。尤も、令和は走りよりも集まってオートバイ談義をすることが好きな人がオートバイ乗りとして峠に集まって語り合う感じだったり、実際にそういう走行をしていると炎上しかねないのだから目的も変わってるだろう。この世代のおじさんたちが今令和で女性に声を掛けたりするおじさん世代だが、当時オートバイで走っていた輩は令和の峠のライダーとして戻って来てないのかもしれない。


 「千葉から2人でツーリングに来ました!私は裕子、あの子は綾よ。」


 裕子がこの女性ライダーに返事をする。女性ライダーはおもむろに綾と裕子のオートバイをじっと眺めながら、少し興奮気味に話しかけ始める。


 「NSRとVFRかぁ。最新のオートバイだね!特にこのNSRはどっちが乗ってるの?」


 裕子が返事をして裕子が乗っているオートバイと理解した女性ライダーは興奮しつつもタイヤを見て怪訝な顔をする。


 「あたしはTT300GPを履いてるけど、なんかこれすごい!端っこがドロドロになってる!?」


 裕子はハッと気づいて、ピレリスーパーコルサV3を履いていることを思い出した。時空的にありえないタイヤを履いているのだけどそんなところに気づく人がいることを想定していなかった。しどろもどろになりつつも、綾が横から入って、こう言った。


 「ちょっとテストでピレリから借りて走ってるんですよ。あはは。」


 女性ライダーは納得して、タイヤの使い方からしても峠をめちゃくちゃ速く走る人なんだという誤解をしつつ、あこがれるような目で見返していた。ちなみにタイヤは裕子がサーキット落ちした格安のスパコルを買ってきて履かせてるだけなのだが。

 女性ライダーの顔をまじまじと見るとかなり幼い感じ。多分女子高生なのだろう。


 「あ、申し遅れました。あたしは山田沙織と申します。地元の高校2年生です!」


 沙織はここに集まる男性ライダー、つまるところ峠小僧たちとは全く交流してないそうで、あいつらはオートバイが恋人みたいで女性には全く興味が無いらしく、会話を聞いてるとお互いを下の名前で呼び合っててなんか独特の気持ち悪さを感じるので自分からも近づかないようにしているそうだ。


 昭和と令和、35年ちょっとの時間差でこうもライダーの文化の違いを感じるとは思わなかった。やはり当時の人と話すのは実に面白いなと綾は思いつつも令和5年の彼女は51歳になってると考えると何とも言えない気持ちになった。それは沼津での出会いの時と同じ気持ちだ。それはそうと、沙織はNS250Rという1984年のオートバイに乗っていた。高校生で買えるオートバイは最新ではなくちょっと型落ちしたオートバイが入手しやすいのだろう。この時は毎年モデルチェンジしているので型落ちになると二束三文とまではいかないが格段に格安になって中古市場に流通する。フルモデルチェンジが毎年行われてるので2世代も古ければまさに二束三文まで落ちる。


 「いいなー、88NSR~。あたしはこのNS250Rを15万で買うのが精いっぱい。」


 

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