(9)学校案内はお早めに
「起立!礼!」
「「「ありがとうございました」」」
HRが終わり、放課後の時間となった。
「アネッサ、今日は僕が学校を案内しよう」
昼休みに学校案内を任された時には面倒だと思っていたが、アネッサと一緒に学校を回ると考えれば不思議なことに、何となく胸が躍っていた。
「ふふっ、今日は案内よろしくね…?」
「あぁ、任せてくれ」
僕たちは教室を出てすぐ左側にある階段を降りることにした。
階段を降りている最中、突然アネッサが問いかけてきた。
「ねぇ、なんでこの学校には"えれべーたー"がないの?あれがあればこんな階段使わずに済むじゃない」
「それは僕も同意見だ。だが、ここは私立の高校じゃなくて公立の高校だ。予算が無いんだろう」
「ふーん。この高校は財政難なのね」
「財政難か…そうか、そうくるか(笑)」
こんな取り留めのない会話がこんなにも楽しいなんていつ振りだろうか。
出来ることならこの時間を少しでも彼女と共有していたい。
そう思えてくる自分があまりにもチョロすぎて悔しくなってくる。
たかが3日過ごしただけの女性にこれだなんて、自分の女性に対する免疫耐性は0に等しいのだろう。
そんな自嘲を繰り返していくうちに、最初の目的地でもある食堂に辿り着いた。
「ここが食堂だ。今日は僕もアネッサも母さんが作ってくれたお弁当を食べたから利用しなかったが、母さんがなんらかの事情で弁当を作れない状況になった場合ここを利用するから頭の中の片隅にでも覚えておいてくれ」
「ふむふむ、食堂って案外小さいのね。これなら私の王城での個室の方が広かったわよ…?」
「そりゃ大層なことで。残念ながらここは王城じゃないんでな(笑)少し狭いのも勘弁してもらいたい」
「まぁ、仕方ないわよね」
「そんじゃ、次の場所行くぞー」
「はーい」
次に僕たちは食堂を出てすぐ南側に見える体育館に向かうことにした。
「ここが体育館だ。主に体育の授業で使用したり、放課後は部活動で使用したりする。今はバスケ部が使ってるみたいだな」
「ふむふむ、ここが体育館なのね。……それにしてもあそこで運動してる子達の迫力が凄いわね」
「バスケ部のことか、まぁうちはバスケが強豪だからな、僕も練習風景を見るのは初めてだが、中々の迫力だな」
汗だくになりながらスポーツに励み、仲間と切磋琢磨し合うのも高校生活の醍醐味なのだろうが、僕には本という伴侶が居るので浮気はできない。
「じゃあ、もうそろそろ次の場所へ行こうか」
「はーい」
それから僕たちは一通りの校内で重要な場所を巡り、気付けば残り一ヶ所となっていた。
「案外高校って広いのね~」
「急にどうしたんだ?食堂は自分の部屋より狭いとか言ってたじゃないか(笑)」
「う、うるさいわねッ!回っていく内に広く感じたのよ!」
「悪い悪い、あんまりアネッサが面白いもんだから、少しからかいたくなったんだ」
「も~、調子乗りなんだから」
そう言いながら頬を膨らませてムッとさせている彼女の頭をポンポンしながら話しかける。
「まぁ、そう怒るな。帰り際にあの喫茶店でケーキ食わせてやるからさ…?」
「ほんと!?な、なら仕方ないわね!」
やはりチョロい。
こういうところも含めて可愛いのだが、僕はこのことを決して口には出さない。
「さっ、ここが最後の目的地だ」
庭の植え込みの芳しい若葉の匂いが鼻をくすぐる。
「わぁ、なんだかとっても素敵な場所ね」
そう、ここは聖翔高校が誇れる唯一の場所。日本庭園だ。
「ここは昼休みや放課後にお茶をする生徒がよく来る場所だな。僕もたまにここまで来て本を読んだりしてる。」
「へぇ~、ねぇ!今度あの佐伯って人も一緒に連れてここでお茶しましょうよ!絶対楽しいわ!」
「良い案だな、後で佐伯に連絡しとくよ」
「ええ、よろしく頼むわ!」
見るからに上機嫌になったアネッサを見て、僕の口元が自然と綻ぶ。
「それじゃ、アネッサ。そろそろ帰ろうか」
「そうね、帰りましょ!」
「あ、ケーキの件忘れてないからね?(笑)」
「はいはい」と言いながら校門に向かう僕たちの姿は側から見たらカップルに見えなくもないだろう。
そして、そんな状況を楽しむ自分が居ることに気がついた。
"あぁ、僕は多分彼女に恋をしてる。"
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