第92話 バイト中はちゃんとバイトに専念するように

「篠崎君、ちょっといいかな」


 翌日バイト先で休憩に向かおうとした時、店長に声を掛けられた。


「あ、はい。なんかありました?」

「いやその……東野くんと何かあった?」


 掃除し忘れた箇所があるのかと思って返事をすると、想像とは違う返答が帰ってきた。


「え、いや、別に、休みの日にちょっと一緒に食事したくらいですけど」


 あの後、興奮冷めやらぬ彼を何とかなだめて、守秘義務の確認までして別れたのだが……


「うーん、その時何か変なこと話さなかったよね?」

「特には……」


 店長は「そうだよねえ」と呟いてから小さく唸る。どうやら東野くんは出勤して以来ずっと挙動不審らしい。


「君のことをチラチラ確認しては作業が上の空だから、どうしたんだろうって不安だったんだ。本人に聞いてもはぐらかされるし……まあ一緒に食事するくらい仲がいいなら、ちょくちょく気にかけてやってよ」

「あ、はい」


 なんだかんだここでのバイトも長いし、店長とも良好な関係を築けている。なので変に勘繰られたりパワハラ疑惑とかもかけられなくて済むのだが、彼が仕事に集中できてないのは気になった。


 そこで俺は彼にメッセージを送っておくことにする。


――バイト先では仕事に集中しようね

――はい! 了解です!


「……」


 一〇秒も経たずに既読が付き、返信が返ってくる。集中してないじゃん。俺はそう思ってため息を漏らしつつ苦笑した。


「どうしたのかしら、東野くん」


 先に休憩していた金澤さんがそんな事を口にする。


「初日は真面目そうだったのに、調子が悪いのかしらね」

「さ、さあ……」


 俺が曖昧な答えを返すと、金澤さんは店舗の方へ戻っていく。何とかごまかしていかないと、リアバレしてしまうな……


 休憩室兼事務所には今は誰一人いない。俺はため息と共に全身の力を抜くようにしてパイプ椅子に腰かけて、スマホを弄り始める。


 今日はちくわとねこまはそれぞれの配信をするようだが、俺は俺でやることがあった。ユキテンゲのテイムと素材集めだ。


 改めてユキテンゲの数少ない攻略動画を見ていくと、火属性魔法の連発で動きを鈍らせた後に、物理攻撃でとどめを刺す。という機能の攻略方法が鉄板となっていた。というかむしろ、それ以外の倒し方をしている動画が一つもなかった。


 素材に関しても「雪解け水」はほとんど値段がつかないうえに、レア素材なはずの振袖も取引可能な上に値段もそれほど高くないという残念さである。


 そして気になるのが雪華晶という素材の存在だ。


 これは誰も手に入れた記録が無く、何か特別なドロップ条件が設定されているのではないか、というのが、ダンジョンハッカーたちの考えで、それらはずっと謎の素材として、識別票のデータ内にだけ存在する素材として扱われていた。


「お疲れ様でーす。篠崎さん、そろそろ交代っすよ」

「ん、ああ悪い悪い。ありがとう」


 データチェックをしていると、時間の流れが速くなるようで、山中に声を掛けられた俺は休憩を終えて店舗に戻ることにする。

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