第73話 ぷらーん。
「なんにしても、倒せたからよかったよ」
「ああ、先輩も、まさかあの技を使うとはな」
クリスタルゴーレムの討伐動画は見た事が無かったが、なんとかなってよかった。
「救護保険があるとはいえ、あんな技術を見るのは、先輩が二人目だ」
「え、そんなに?」
東野くんの意外な言葉に、俺は思わず聞き返していた。まあ、俺が最初の一人だとは全く思っていなかったが、それなりにこの方法でクリスタルゴーレムを討伐する人はいるものだと思っていたからだ。
「先輩もしかして見てないのか?――現在の日本トップ探索者がクリスタルゴーレム討伐RTAっていうのを投稿してて、それでその技術使ってた」
彼の言葉に俺はそれ以上何も言えなくなってしまった。
いや、でも、当然思いつくでしょ……あれ、ちょっと待って、俺の発想ってなんかおかしい?
「一時期真似したストリーマーが救護保険のお世話になり過ぎてちょっとした炎上をしたはずなんだが……」
「ん、あー……言われてみればそんなニュースがあったような」
なんにせよ、あまり正攻法な倒し方ではなかったらしい。となると、一体どういう倒し方が想定されているんだろうか。あのまま硬い本体をちくちく削りつつ、コアを破壊するみたいな?
「はぁ……まあいいや、それより先輩腕見せてみ。さっきの戦いで結構ヤバい事になってるだろ」
俺が色々考えていると、東野くんは諦めたようにため息を吐く。
「ヤバい事? いや、腕はさっきの槍を支えてた時の衝撃で、軽く痺れてるだけだけど」
言われて俺は自分の左腕を見る。そう言えば、地面に突き刺した槍を引き抜くとき、ちょっと違和感があったな。なんか上手く力が入らないというか。
「……え?」
ぷらーん。
という言葉が似合いそうなほど、俺の肘がわけわかんない方向へ垂れ下がっていた。
それと同時に凄まじい痛みが生まれ、目に涙が滲んでくる。
「いだだだだっ!? な、なんで!? なんともなかったのに!?」
「あーあー、先輩大人しくしててください。今回復魔法かけますんで」
「ぐうぅぅ……」
人間は実際に怪我をした時のダメージよりも、怪我をしていると実感した時の方が痛みが強い。そんな事を思いつつ東野くんが回復魔法を掛けてくれるのを待った。
鮮緑色の光がゆっくりと腕全体を包み、折れ曲がった腕がまっすぐに戻っていく。数秒も経てば、その痕跡は何もなくなっていた。
「あ、ありがとう、助かったよ」
「はぁ……先輩って、やっぱ変だな」
呆れたような、笑っているような、そんな顔で言われて、俺は「あ、これ俺が女だったら惚れてたな」とか思っていた。
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