第59話 口は災いの元

「みんなー! 猛犬系ストリーマーの犬飼ちくわだよー!」

「おはよう人間! 化け猫ストリーマーの珠捏ねこまでーす!」


『おはチワワ』

『ねこまちゃんも昨日に引き続きお疲れ様』

『サムネに居たけど今日はモブもいるの?』


 次の日、ちくわのチャンネルで配信が始まると、俺はデバイスをしっかり被ってることを確認して、後ろにあるGBスクリーンも確認カメラに俺を特定できる要素が何も映らないことを入念に確認してからマイクをオンにした。


「どうも、モブです」


『モブダンジョン外でもそれ被ってんのかよwww』

『身バレ対策ばっちりである』

『モビちゃん見せてー!』


「キュイッ」


 コメントに反応したわけではないと思うが、モビが短く鳴いて頭に乗る。マンダを出すわけにはいかないので、リスナーはこれで我慢してもらおう。


「じゃ、今日も昨日の奴をやっていこっか!」


 そう言ってちくわがキャプチャーをゲーム画面に切り替える。確か昨日は二人用のパズルでそれなりに進んでいたはずだった。


「今回は三人用のステージで遊んでいこっか」


 ねこまが音頭をとって、俺たちはそれに従って動く。


 実際に一緒に遊んで分かったのだが、なんというか彼女は地頭が良くて、応用もきかせられるタイプだった。


 一方で俺とちくわは、なんというか勉強頑張れば成績が良くなるタイプで、始めのうちはねこまにぐいぐい引っ張ってもらっていたが、後半からは色々とこちらからも提案して、バランスよく全員が活躍できるように回っていた。


『この三人、ボス討伐以外でも相性良いんだな』

『他の配信者が詰まってそうなところもふつうに通過しちゃってるし、すげえ安定感あるよな』

『次のダンジョンどこだっけ? 俺達のパーティが攻略する時の参考にしようかな』


「……あ、そうだ。モブさん最近何か変わったことあった?」


 平和なコメントが流れていくことに安堵していると、ねこまが雑談を振ってきた。


「ん、んー……まあ、あったけど、ちょっとこの場では言いづらいな」


 真っ先に浮かんだのが、東条匠馬の一件である。所属事務所も違うし、当人が休止中なのもあって、それを大々的に話すのは憚られた。


『気になるじゃん』

『もしかしてオフの間にもう一体テイムとか!?』

『え、テイム三体目ってマジ!???』


「おちつけおちつけ、テイム関係じゃないから」


 しまった。こういう時は「言いにくい」じゃなくて別の事でごまかすか「特にない」って言い切らないとダメだったんだ。俺は対応を間違ったことに焦りを感じる。


「……ちょっと最近ゾハルエネルギー取り扱い免許をとろうと思ってて、ほんの少しだけ勉強始めた」


 懸命に考えた末、口から出たのはある意味で自分の首を絞める発言だった。

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