第4話 配信準備をしよう
駅前の大手百貨店――に間借りしたテナントが入っており、そこでは探索者向けの色々なものが揃っていた。
「よし! それじゃあ優斗をいっぱしの探索者に仕立ててみよう!」
愛理の希望としては、俺の規格外の幸運(?)を取れ高に、配信をしたいらしい。俺としては、こんな初心者が地味にピッケルを振ってる姿なんて、誰も見たくないと思うのだが、どうもそうでもないらしい。
「優斗、何か欲しいものはある? たぶんちょくちょくゲストで呼ぶから、経費で落とせると思うし奢っちゃうよ」
「いや、何があるか知らないし……とりあえず身バレはしたくない……」
そう言いながら、俺は商品棚を見ていく。
商品棚と言っても、ただ商品が置いてあるわけじゃない。備え付けのタブレットに商品名がずらっと並んでいて、タップしたものがサンプルとしてホログラム表示されるのだ。
何か丁度いいのが無ければ、近くの洋服屋でフードのあるパーカーでも買おうかと思っていると、探索補助具の項目で手が止まった。
「お? そこが気になる?」
「ARカメラ、識別票タブレット片手にうろつくのが面倒でさ」
どうやら上級者はカメラで確認するまでもなく、採取ポイントを把握しているらしいけど、俺にとっては絶対に必要な物だった。
「そこら辺のアタッチメントだと、ウェアラブルデバイス系のほうが良いかな」
そう言って彼女は眼鏡とか時計とかがずらっと並んだリストを表示させる。どうやら識別票と同期して、情報を視界や腕時計の文字盤に表示してくれる代物らしい。
俺はそれを上から順番に見ていき、ある商品の所で手を止めた。それは真っ白な仮面とでも言うべきもので、口元以外を全て覆う装置になっていた。品名は「Persona Expert1.0」と書かれている。
「これ……」
顔がみえない。情報の表示量が多い。無線での通話機能もある。識別票で出来ることが全てこのデバイスで完結していた。
「えー……もしかしてこれが気にいっちゃった感じ?」
「ああ、欲しい機能が全部ある」
結構値段は張るかもしれないが、俺にとってこのデバイスがベストのように思えて仕方がない。
「んーまあ、良いよ」
もっと渋られるかと思ったが、愛理は案外素直に受け入れてくれた。
「これねー、去年の年末に出たんだけど、あんまりにも不評で値段が暴落したんだよね」
「え、そんなダメな奴なのか?」
「んー正直、顔出しの方が圧倒的に人気出るし、ちょっとゴツすぎてね。顔出しNGストリーマーも眼鏡とかオーバーグラスにマスクの方がまだまだ主流だし」
言われて値段を見ると眼鏡型のデバイスより半額くらいの値段で買えるようになっていた。
「まあ、大きい分性能は高いから、悪いものじゃないと思うよ」
とのことなので、俺はこの仮面型のデバイスを買う事にした。
――
「そう言えば、配信に映る時の注意とかあるか?」
配信用ドローンを調整している愛理に、仮面型デバイスのセットアップが終わった俺は問いかける。
「んー、普通にしてて大丈夫だよ。素人にストリーマーみたいな受け答えは期待してないし、むしろウケ狙いで変な事されると対応に困っちゃうからいつも通りで居て」
「わかった」
確かに、言われてみれば愛理は配信用とプライベート用であまり性格に乖離は無い。目立とうとした結果大炎上するみたいな迷惑系ストリーマーが居るので、それを警戒しているのだろう。
俺も少しマナーよく振る舞うようにしたほうが良いかな? そんな事を考えつつ、タブレットを弄る。
どうやらモビにはレベルという概念があるが、俺にはそう言ったものはなく、装備品とスキルでステータスが決まるらしい。
配信で潜る予定なのは、初心者用のダンジョンである。だから装備は初心者用のプロテクターでいいんだが、少し味気ないように感じてしまう。というか大体初期装備は必要最低限の能力しか備えていないのが相場だろうから、早いところまともな装備を揃えたかった。
「なあ、装備ってどうやって更新するんだ?」
「ん、色々あるよ」
そう言って、愛理は設定画面から顔を上げる
「例えば、魔物を倒して手に入れた素材を使って強化をお願いしたり、鉱石系の素材でも同じことができるよ。あとはボクが配信で拾ったみたいに、ダンジョンに落ちてる事もあるね」
識別票タブレットの画面を操作すると、装備生成画面が現れる。どうやらこれに従って素材を集めることで、装備品が出来上がるらしい。
「買ったりは出来ないのか?」
「ゾハルエネルギーで出来た物は、ゾハルエネルギーでしか対抗できないから、ダンジョン内でとれたものを元に加工するのが一番楽なんだって」
「へー」
そう答えながら、一覧を見ていくと、やはりすぐに完成する装備は無かった。まあそんな簡単にはいかないよな。
何とか出来そうな奴が無いか探していると、ショートパイクという名前の槍が「大樹の枝」という素材で出来上がりそうだった。リーチが長く敵と距離を取って戦える武器は、安心感があるし、次に作るとしたらこれだな。それに、大樹の枝なんて名前なら普通に採取だけで揃いそうだし。
「よし、設定終わり! これでこのドローンはボクと優斗を追いかけるようになったよ」
「え、俺はちらちら映り込むモブくらいで良くない?」
愛理が作業から解放された声を上げると、俺はその言葉に突っ込みを入れる。取れ高を気にして変な行動するなと言っておきながら、これは中々ハードルが高い。
「いいのいいの! ていうかテイムモンスターって言うだけでも十分取れ高あるんだから、自信もって!」
そんなもんかなあ……非常に不安だが、まあプロである愛理の言う事には従っておこう。
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