昇段祝い
プロの将棋棋士として四段昇段のインタビューを受けた長谷一輝は将棋会館をあとにし、人通りを避けてスマートフォンを取り出し、どこかへと電話をかけていた。
「もしもし師匠」
「おう一輝か、どうした?」
電話の相手は一輝の師匠である、諸見里武夫九段であり、一輝は師匠に自身の昇段の旨を伝えた。
「すでに知っているとは思いますが、四段昇段しました」
「なーにが、知ってるとは思いますだ、前の励会の時点で2位以上は確定していただろ。今日連敗したら2位ってだけの話だろ」
「ハハハ、でも同じく昇段を決めた黒木さんとの対局は鬼気迫るものがありましたよ」
「そりゃあ黒木君は今年がラストチャンス、16歳のお前とは思い入れが違うに決まっているだろ」
電話越しで諸見里が一輝に説教じみた発言をしていることに自ら気付いた諸見里は話題を切り替える。
「おっと、せっかく昇段を決めたのに説教はいかんな。一輝、今日何か用事はあるか?」
「いえ、今日はこのまま帰ろうかと思っていますが」
「それならわしの家に来い、お前の昇段祝いをしてやる」
「それじゃあ、1度家に連絡します」
そう言って一輝は1度電話を切り、自宅へと電話をかけなおす。
「もしもし母さん」
「あっ、一輝、どうしたの?」
「四段昇段決まったよ。俺プロになれるんだ」
「そうなの、おめでとう……良かったわね」
電話越しでも母のうれし泣きが伝わってきた一輝は礼の言葉を言いつつ、師匠からの誘いを伝える。
「ありがとう。そうだ、師匠から昇段祝いで家に来ないかって言われてるんだ」
「そうなの、せっかくのお誘いだし、いってらっしゃい。うちでのお祝いはまた今度しましょう」
「じゃあ、行ってくるよ」
「うん、あ、お父さんには母さんから電話しとくね」
そう言って母は電話を切ると一輝は師匠の家を目指して電車で移動していった。
諸見里九段の家は一輝の家とも近く、その縁もあって弟子入りができたこともあり、一輝の奨励会入りもなったのだ。
諸見里の推薦がなければ奨励会入りがなかったのは事実ではあるが、一輝自身が幼き頃より才能の片りんを師匠に見せ、奨励会の入会試験に合格しそこからも昇級・昇段していき、最難関である三段リーグを突破し見事プロ入りを決めたのだ。
そんなことを考えながら一輝は師匠の家の前までたどり着き、インターホンを押した。
インターホンを押して出てきたのは女性であり一輝に話しかける。
「一輝君久しぶりね、主人から話は聞いているわ」
女性は諸見里の妻であり、一輝をそそくさと家に入るよう促す。どうやら昇段祝いの準備は整っているようだ。
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