第7話 いきな手土産

 バン、バンという扉が蹴破られる音が近づいてくる。

 とうとうこの部屋の扉が開いた。


「いたぞー、ゲンだー!! 間違いない。大けがをしているぜー!」


「チッ!」


 ゲンが舌打ちをした。

 入ってきた男が、いきなり拳銃を構え三発発砲した。


 ――おいおいおーい、普通なんかやりとりがあるだろう。


 撃つまでが速すぎる。

 日本刀を持っている仲間なら、弾を切って助けるのだろうが、俺にはそんな技術は無い。

 ゲンの方を見ると、ポンがゲンに被さっている。

 さすがだ、でも俺は、それを手で払いのけると、あずさちゃんを抱きかかえたまま、ゲンと銃弾の間に入った。


 バス、バス、バス


 俺の背中に銃弾が入って行く感覚がある。


「ちっ、邪魔するな豚やろう!!」


 男は俺の死を確信しているのだろう、肩に手を置き、力を入れた。

 俺みたいなデブがいたら、弾の無駄遣いになる。どけてゲンを確実に仕留めようというのだろう。

 だが、俺をさわっちゃあいけない。居場所を教える様なもんだ。

 相手が俺のすぐ後ろにいる事が分かったので、振り向きざま右手の甲でたたいた。拳法でいう裏拳だ。


 俺の手は男の肩にあたった。

 少しあたりが変だった為か、男の体はこまの様に回転しながら吹き飛んだ。


 ドン


 隣の部屋との壁に頭から突っ込み、壁を突き破ってぐったりしている。


「何の音だ。ゲンはやったのか。お前達見てこい!」


 廊下にはまだ男の仲間がいる様だ。

 ゲンの上にあずさちゃんを置くと、俺は廊下に出て左右を見た。

 二人の男が左右で拳銃を構え廊下をふさいでいる。

 部屋の様子を見ようと別の男が二人、拳銃を手にぶら下げ近づいて来る。

 拳銃を持っているので、敵が誰かわかりやすい。残りは四人だ。


「な、なんだ! お前は!」


 それはこっちの台詞だ。

 返事をする必要も無いので、素早くふところに入り、胸を手で押し廊下をふさぐ男達の所に飛ばした。


 ズバーーン、ドゴオ


 恐ろしい音を出して吹き飛び、仲間の男に強烈な勢いでぶつかった。

 人を殺そうとした相手だ。わ、悪く思わないでくれ。でも、少し強過ぎたと反省した。

 四人から、危ないので拳銃を取り上げた。

 本物の拳銃をはじめて触った。


 拳銃を持って部屋に戻ると、ポンが仲間に電話をかけている。


「ア、アンナメーダマン。すごい、かっこいい」


 あずさちゃんがゲンの上で、小声でつぶやいている。


「あずさちゃん。その事は二人だけの秘密だからね。それとアンナメーダーマンだからね」


 俺は人差し指を口の前にあてた。


「あっ」


 テレビで見た事があるのか、あずさちゃんが少し焦っている。

 ヒーロー物は大抵正体を隠している。

 それに気付いてくれた様だ。


「俺の名前は、木田とう」


 もちろん全部偽名だ。


「きだとう、さん」


「そうそう」


 俺は、ゲンの上からあずさちゃんをもぎ取り抱き上げた。

 あずさちゃんは俺にギュッとしがみついてくれた。

 それを、ゲンが無表情で見つめている。


「ゲン、あいつらは何だ」


「ああ、あれか、殺し屋だ」


「うわー、まじかよー」


 ――だーーっ、なんだってー。殺し屋なんて本当にいるのかよーー!! はじめて見たー。


「俺を殺したい奴はいくらでもいる。だが今回は、内部の奴が仕組んだことだ。まあだいたい誰かはわかった。今回は助かった。あの会社は、これの報酬と思って、気持ちよくもらってくれ」


 ――だー、仕組まれた。ゲンは俺を利用したんだー。最初からこうなる事を見越していたのかー。……頭良いなー。


「木田さん、あんたすげーなー。会社については俺の手下で頭の切れる奴を、サポートに付ける。よろしく頼むぜ」


 そう言うとダーがドアから体を半分出して、手招きしている。

 どうやら、送ってくれる様だ。


「じゃあな兄弟、またよろしく頼むぜ」


 ゲンが言った。

 あんまりよろしくされたくないなー。


 しかし、俺の体はこまった事になっているようだ。

 元に戻る事が出来るのだろうか。

 俺が特殊な力を手に入れたと言う事は、恐らく他にも三十人は変な奴がいるという事だ。気を引き締めなければならない。中には凶悪な奴もいるはずだ。


 正体をばれない様にしないと、今度は俺が命を狙われることになるだろう。

 目立たない様に、世界の隅っこで静かにすごした方がいいなとそう考えた。




 ダーに送ってもらって、産廃会社につくとその日は、社長室の応接用のソファーで休む事にした。

 少女が離れないので、眠るまで抱っこして、眠ってから三人掛けのソファーに寝かせた。

 部屋の暖房を効かせて風邪を引かさないようにした。


 翌朝、目が覚めると、俺の分厚い太ももの上で少女が眠っている。

 いつの間に来たのか分からなかったが、ここまでなつかれると悪い気はしない。

 まだらになっている頭を撫でていると、来客が来た。


「木田さーん、いらっしゃいますかー」


「ここにいます」


 声をあげたら、少女が起きてしまった。


「こちらでしたか。柳川です」


 普通の名前で驚いた。

 カンとかロンとかという人が来るのかと思っていた。

 柳川という男もやはり目つきが鋭く、恐ろしい顔をしている。

 だが、メガネをしていて見るからにインテリの様な雰囲気がある。


「俺が木田です」


「初めまして、よろしくお願いします。それと、これをどうぞ」


 二十四時間営業の店の袋を渡してきた。

 中には子供用の服が入っている。

 やはり頭のいい男は気が利く。


「これは、ありがたい。心から感謝する」


「あ、いいえ。これはゲンさんから渡す様に言われた物です」


「えっ、ゲンが」


 ゲンが少女を気遣ってくれたのか。

 俺は驚いてしまった。あのゲンですから。


「いま、現場を見てきましたが、木田さんはどの位処理出来るのですか」


「あー全部処理出来るよ。今日の夜には全部無くしておくよ」


「け、結構ありましたよ」


「そこは心配しないでくれ」


「分かりました。あと、会社の社長になるわけですが、給料とかは前の社長の時と同じでよろしいですね」


「いや、俺は廃棄物の処理を真夜中極秘でする。それ以外の時間は、この少女と過ごす。給料は、十五万でいい」


「えっ」


「あっ、ごめん言い過ぎた、十万でいい」


 どうせ、ここに住むつもりなので、家賃光熱費はいらない。

 十万でも余裕で生活できる。


「いいえ、少なすぎて驚いたのです」


「じゃあ、やっぱり十五万で」


「ふふふ、面白いですね。だいぶ余ってしまいますがどうしますか」


「それなら、社員に振り分けてくれ」


「ふふふ、きっと他の社員からは何もしない社長と思われて、嫌われますよ。給料を振り分ける意味は無いと思いますが」


「いや、俺は底辺の人の給料を多くしたいと思っていた。手始めにここからはじめたい。それに、俺は憎まれたり嫌われたりするのは慣れている。それで頼む」


「な、何ですかこれは!!!」


 突然、柳川が怒りの表情になり叫んだ。

 こいつもやっぱり、ただ者じゃねーー。

 顔が超怖いんですけどー。

 いったい何に怒っているんだー。

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