第15話 略奪愛
告白してから2週間ほど経った頃だったろうか。
その子から1通のメールが届いた。
その子『”銀と金"って漫画、小林くん知ってる? すごく面白いよ~!』
その子から送られてきたメールは、そのようなすごい軽い内容のものだった。
なんでそんなメールを急に送ってきたのだろう?
2週間経過し、気持ち的にも落ち着きを取り戻し始めていたのもあり、そのメールに俺は返事をした。
俺『ごめん、その漫画知らない。どんな話なの?』
その子から何気ないメールが来たことが純粋に嬉しかった。
このくらい気楽なメールのやり取りだったらいいかなと思い、俺はその子とのやり取りを続けた。
『銀と金』は、著・福本伸行の、金・裏社会・マネーウォーズが主題の漫画だ。
俺はその子から教えてもらい、インターネットかなんかで調べ、試し読みなどをし、その子がこういう漫画が好きだという知らない一面を知ることができた。
その漫画自体にも興味が沸いたので、翌日近所の古本屋に行き、漫画を購入した。
1巻、2巻、3巻と読み勧めていき、俺はその子にメールを送った。
俺『”銀と金"、すごく面白いよ! 今、3巻まで読んだけど、テンポ良くてサクサク読めて良いねこれ』
率直な感想だった。
俺は、福本伸行の漫画はこの時はまだ読んだことがなかったが、それ以降「カイジシリーズ」など好きになる。
この時の俺も純粋に面白いと感じていた。
その子『読んでくれたの? ありがとう~! 面白いよね~。私、このヒトが好き!』
その子はメールと一緒におじさんキャラの画像を送ってきた。
その子とのやり取りで新たに知ったのは、その子はおじさんキャラが好きだということだった。
ピコン。
その子から送られてきたメールにはカイジのスタンプがあった。
俺『うけるw』
俺とその子はそのような純粋なメールのやり取りをしあった。
その子からのメールの気楽さや自然さのおかげで、俺は2週間前に失恋したことも半分忘れて会話を楽しむことができた。
それはその子も同じだったようで――
その子『私、他に漫画の話とかできる友達いないから、今こうして小林くんとそういう話できてすごく嬉しい!』
その子から改めてそんなメールが来た。
俺『そうなの? まあ、楽しんでくれてるなら俺も嬉しいよ!』
メールの返信は淡々としていたけれど、俺は内心とても喜んでいた。
そして、その子の唯一のオタク友達として、その子の趣味にもっと寄り添ってあげようとこの時思ったのだった。
俺とその子は、それからアニメや漫画の話などを日常的にお互い共有する仲になり、次第にプライベートなことまでも話をするような関係になった。
どんな仕事してるの? とか、今どの辺に住んでいるの? とか、高校の友達とはまだ会ってるの? とか、そういう情報は普段のメールのやり取りでも共有しあうようになった。
だから俺自身もつい魔が差してしまった。
俺『彼氏さんとは、アニメとか漫画の話はしないの?』
俺はこのことがつい気になってしまい、いつもの何気ない感じでそのような問い掛けをした。
以前、その子は"漫画の話はできるヒトがいない"と話していたのを覚えていたので、俺はある意味その子の彼氏がそういうジャンルに疎いのをなんとなく察していた。
だから確認の意味合いが強かったのかもしれない。
その子『しないね~汗。全然そういうの詳しくない!』
予想通りだった。
俺は、期待していた返答を聞けたことでさらに質問を追加した。
俺『言いたくなかったら全然言わなくていいんだけど、彼氏さんとはどういう繋がりで出会ったの?』
以前だったら考えられない質問だったが、このくらいの内容の質問なら問題ないと思えるくらいにはその子といろんな話をしていた。
その子『えっとね~・・・』
その子から彼氏についてのメールが何通か送られてきた。
その内容によると、彼氏は当時、大学のサークルの1個上の先輩で、相手から告白されて付き合ったそうだ。
デートは月1回、その子は今地元で働いているため彼氏が住む東京へその子の方からわざわざ出向いているらしい。
大学1年の時から付き合ってるとのことで、今年で5年目になるという。
――彼氏のことは、好きなの?
そんな質問が頭に浮かんでくるが、俺はさすがに不躾がすぎると判断し、その質問は心にしまった。
ただ、こんな質問が自分から沸いて出てきてしまうくらいには、この時にはすでに彼女を自分のものにしたいという欲望が俺の中にあったのだと思う。
こんなに毎日仲良くメールのやり取りをしているのだから――こんなに仲良くなれているのだから――と。
そして、何故かおれは彼女を彼氏から解放して救ってあげないと――といった正義心をその時持っていた。
おそらく彼女はそんなに彼氏のことが好きじゃない。
相手から告白されてなんとなく付き合って、最初こそお互い盛り上がっていたけれど、それも数年経っておそらく彼氏の方が冷めてきているんじゃないかと。
彼女は優しいから、過去の楽しかった思い出が忘れられず、未だに変わってしまった彼と一緒にいてあげてるのだと。
その子との今までのメールのやり取りやさっきのメールの内容を鑑みて、俺は絶対にそうだと確信した。
俺は、一通りその子の打ち明け話を聞いたあとに返信をした。
俺『そっか~。なんか大変そうだね・・・。まあ、俺で良ければこれからも漫画の話とかアニメの話とか聞くし、全然メールしてもらってかまわないから』
数分後、その子から『うん! ありがとう!』と返事がきて、その日のメールのやり取りは終わった。
俺はそれから次第に、その子とメールを続けていくことが彼女と付き合うためと目標が変わっていった。
略奪愛――
その漢字3文字がはっきり自分の中で実感できるまで、そう時間はかからなかった。
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