元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね!?
紅葉ももな
第1話始めまして異世界
雨天に響き渡ったクラクションとブレーキ音と誰のものともわからない悲鳴に振り返ると、赤色スポーツ車が私に突っ込んできました。
「大丈夫ですか!? おっ、おい! 救急車!」
「しっかり! 今救急車が来るから!」
通行人の方でしょうか、雨の中必死に呼び掛けるスーツ姿のおじさんと学生服の女の子が駆け寄ってきて、私を励ます声が聴こえます。
轢かれたのに感覚が無いので気が付かなかったけど、どうやら私の身体はまだ車体の下に挟まっているみたい。
沢山の人が懸命に引っ張り出してくれている。
私の血だろう液体で顔や服を真っ赤に染めながら何か言っているようですが、どうやら耳まで機能しなくなったらしいです。
アラサー目前なのに、仕事優先し過ぎて未だに彼氏無し……あ~ぁ処女で終わるなんてあんまりだ。
ナンパでもしておけば良かったかなぁ、それともお母さんがセッティングしてくれたお見合い受ければ良かったのかなぁ。
進学と同時に上京してからなかなか実家に帰れず、今年の年末には必ず帰るって連絡したのに、ゴメンね……帰れそうにないや。
はぁ、どうやら時間切れの模様です。 死んだなこりゃ……。
「おめでとうございます! 元気な御子様ですよ」
ん? あれ、生きてる?
「でかしたぞ! 世継ぎだ!」
「貴方のお子です。 抱いてやってくださいませ」
聞こえてくるのはトクン、トクンと規則的にリズムを刻む鼓動。そして誰の声? 聞き覚えないんですが……。
ふわりとした浮遊感を感じた後、寝心地が悪い硬い物の上に寝かされました。
「ふにゃー、ふふにやー! (ちょっと! 寝心地悪いんですけど!)」
ん? なんかおかしくない!? ふにやーってなに!? どうなってるのよー!
「よーしよしよし、其方の父だぞ~」
父だぞーって! あんた誰よ? うちの父さんはこんなに甘い声してないし、自分のこと父だって言わないわい。
顔の皺と反比例してどんどん頭部から髪が心許なくなってるわよ!
視点が定まらない眼を無理やり開けると、ぼやける視界に映ったのは燃えるような赤い髪の知らない男の人。
歳は私とあまり変わらないかも知れない外国人が満面の笑みを浮かべている。
彫りの深い顔に嵌まった二つの琥珀色の瞳がじっと私の顔を覗き込んでいた。
うぉいなんたこの偉丈夫は、何処からこんな色男出てきたんだ!?
「おっ! 眼を開けたぞ! リステリア! 瞳の色は貴女の色だね、美しい翡翠色だ」
ゴツゴツした肉体のこの自称父だと名乗る男は、よしよしと言いながらバシバシと背中を叩いてくる! だから痛いっての! 叩くな馬鹿力!
「アルトバール陛下! 赤子をそのように激しく揺さぶってはなりません」
この私を抱く男はアルトバールと言う名前らしい。 っていうか外人が流暢に日本語話してますけど、どういう事よ。
「おぉ、すまぬ。嬉しくてついな」
「陛下は昔から大雑把過ぎます」
ボディービルダー顔負けの上腕二頭筋からやっと脱出して、ふくよかで柔らかい腕の中へと手渡される。 安定感が違う!
「まぁまぁ、本当にリステリア王妃様にそっくり。 綺麗な翡翠色でございますね。 リステリア様、ほら」
母とそう変わらない歳でぽっちゃり体型のワンピースを纏った女性はそう言うと、ゆっくりと丁寧に首の据わらない私をベットの上に横たわる女性へと差し出した。
「はじめまして、私の天使。 あなたの母ですよ。 産まれてきてくれてありがとう」
そう言ったのは見たこともない超絶美女、目鼻立ちが整った顔立ちは疲れてはいるものの、達成感に満ちている。
白磁の如き白い額には玉のような汗を浮かべて金色の波打つ髪が張り付き、化粧をしていないにも関わらずその端麗な容姿は褪せるどころか色香さえ感じさせる。
スッと通った鼻梁の先にはっきりとした二重と長いまつげに彩られた吸い込まれそうな緑色の瞳がいとおしいと言うようにこちらを見詰めている。 えっ、母?
「ふにゃー、あふぁわ(いえいえ、こちらこそご丁寧にすみません)」
ってやっぱりふにゃふにゃ言ってるよー。 誰か本当にこの状況説明してくれないかなぁー!?
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