『螺旋図書館』 鐘古こよみさん

〇作品 『螺旋図書館』

 https://kakuyomu.jp/works/16817330653172473953

 

〇作者 鐘古こよみさん


【ジャンル】

 SF


【作品の状態】

 3,000字弱の短編・完結済。


【セルフレイティング】

 なし


【作品を見つけた経緯】

 こよみさんの作品なのでいつもの理由です。


【ざっくりと内容説明】

 DNAの二重鎖モデルである二重螺旋を図書館に見立てて、お話が書かれてあります。


【今回の感想は】

 ネタバレをしております(すみません💦)。

 お読みなる際はお気をつけください~。


【感想】

 このお話は、図書館で働く者の目線から話が始まります。


 どういう図書館かというと、「二本の通路がとぐろを緩ませた蛇のように、揃って螺旋状の弧を描く。古代ギリシア神殿の列柱を思わせる細長い本棚たちが、その螺旋を繋いでいる」(『螺旋図書館』より引用)とあり、ここでピンときた方は、「遺伝子(DNA)」のことだと分かることでしょう。


 さらに話を読み進めると、「遺伝子」の図書館がとある種類の「トマト」であることが分かります。


 そして、図書館の働き手と館長の会話から、「人気が出たほうがいい」「運命のバケモノがやってくる」などの、何やら謎な言葉が出てくるのです。これらは要するに、人が「おいしい」とか「作りやすい」と思う「人気のトマト」をつくるため、「運命のバケモノ」によってゲノム編集をするということをここでは言っているのですが、果たして、このトマトの遺伝子はどうなるのでしょうか――というのがこのお話です。


『螺旋図書館』は先ほども申しましたように、「遺伝子」のことを図書館に見立てたお話になっています。面白い発想ですよね。遺伝子にはさまざまな情報があるので、それらの一つひとつの情報が「本」で置き換えるとするなら、遺伝子というのは沢山の情報がある図書館というふうに作者さんはお考えになったのかもしれません。


 さてさて。

 作中にはゲノム編集の名前が登場します。名前は「クリスパー・キャス9」(『螺旋図書館』より引用)。2020年に、E=シャルパンティエと、J=ダウドナがノーベル化学賞を受賞しています。


 これについて説明するのは少々難しいのですが、分かりやすい内容のものがありましたので下記に引用いたします。


「クリスパー・キャス9の最大の特徴は、狙ったゲノムの場所を簡単に改変できる点にある。クリスパー・キャス9では、細胞の中の核に含まれるデオキシリボ核酸(DNA)を切断する機能を持つ人工酵素『キャス9』でDNAを切断し、切断した部分の遺伝子の働きを失わせたり切断部に別の遺伝情報を挿入することで遺伝子を改変する」

(『三菱電機 Biz Timeline いま欲しいビジネスアイデアを』「【ノーベル賞解説】『クリスパー・キャス9』って何?新型コロナにも有効?」より引用)


 これでも難しいかもしれませんが、要は「クリスパー・キャス9」という技術が生まれたことにより、高精度で、しかも手軽に遺伝子改変を可能にできるようになったということです。

 ただ、その一方で安全性の課題もあるようです。ゲノム編集の際に、失敗が起こることがあるようなんですね。そのため、この安全性を高めることが課題となっているとのこと(2020年時点の情報です)。

 そうなってくると、「クリスパー・キャス9」でゲノム編集されたトマトはどうだったのか……と気になる方もいるかもしれませんね。この部分は、「なるほど、遺伝子側からみるとそんなふうになっているのやも……」と思うような表現となっていますので、気になった方は注目してみてください。


 遺伝子組み換えやゲノム編集というと、とても突飛なものに思うかもしれませんが、地球上の様々な生命たちは長い年月をかけてそれをやってきました。

 そう思うと「ああ、生命の営みの一つなんだ」ということが分かるかと思いますが(この点は『螺旋図書館』にも別のことにたとえて書かれています)、人はそれを技術によって、あっという間に行ってしまいますから、この作品を読まれた方の中には「ちょっと大丈夫なのかな?」と思う方もいるのではないかなと想像します。


 また、この作品では、ゲノム編集を使って純粋に「よりおいしくなる」ことを目指しています。それは私たちの食卓に出るトマトも、「よりおいしくなる」可能性を秘めているというわけですね。


 その一方で、近年は増える人口に対する食糧不足を懸念して、害虫に強く、沢山実る作物をつくろうとしていると聞きます。これもゲノム編集で行っていくと思われますが、これらによる安全性というのはどうなのでしょう。食べることによる体への影響は確認されていないとのことですが、「害虫に強く、沢山実る作物」が大地にもたらすことや生態系への影響などはないのだろうか……と作品を読みながら、そんなことを考えました。研究者はそれでも、前へ突き進んでいくと思いますが……。


 遺伝子を図書館と見立てたお話。

 そのまま読んでもいいですし、さらに一歩進んで「ゲノム編集」のことについても考えるというのもありかもしれません。


 気になった方は読んでみてはいかがでしょう。


 今日は『螺旋図書館』をご紹介しました。

 それでは次回、またお会いしましょう。



<引用URL>

(『三菱電機 Biz Timeline いま欲しいビジネスアイデアを』「【ノーベル賞解説】『クリスパー・キャス9』って何?新型コロナにも有効?」

https://www.mitsubishielectric.co.jp/business/biz-t/contents/newswitch-column/column018.html

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