余命1週間の私は、1週間だけの恋をする
水鳥楓椛
第1話
▫︎◇▫︎
私は、あと1週間しか生きられない。
私は、あと1週間で何が残せるんだろうか。
私は、生まれてからの16年間で何ができただろうか。
私は、何のために生まれてきたのだろうか。
わからないことは山積みで、でも、私はずっとやりたいと思っていたことをまとめたノートの1番上にあった言葉をなぞった。
わからないなら、行動するしかない。
生まれた意味がわからないのならば、わかるまで探し続けなければならない。
タイムリミットは1週間。
私、
わからないままで死ぬしかない。
でも、そんなのは嫌だ。
病院のベッドから抜け出して、もうまともに動かない身体で屋上を目指す。看護師さんの動きは、ここにいる時間が人生で最も長い私にとっては分かりきったもので、誰にも見咎められることなく、屋上に登ることができる。
私の習慣。
大空の下でやりたいことを考える時間。
私はいつの日か入院歴30年の先輩にもらった鍵で、屋上に入る。
ーーーざわっ!!
風が舞い上がって、私の身体は最も簡単に飛ばされそうになるけれど、それがとても心地いい。
「!?」
やっとのことで目を開けると、フェンスの向こうには人影があった。
「!? ちょっ、ちょっと何してんのよ!?」
自分で思っていたよりも大きな声が出て、私は驚く。
「何って………。死?」
ふわっと振り返った人影は、とっても綺麗な男性だった。
私とは多分同い年。
色素が薄くて、髪が薄茶で、瞳が琥珀色の私とは正反対の濃い色彩。漆黒の艶やかな髪に、切長の黒曜石みたいな瞳。
普通に、綺麗だと思った。
「いやいや待って!?何してんの!?戻ってこい!!」
「………あぁ?」
私はぼろぼろの身体を叱責して、彼の方に突っ込むようにして走る。多分、ふらふら横に揺れながら歩いているだけだろうけど、自分の中では走ってる。
彼との距離がわずかになって、私は安堵した。
ほっと息をついて、彼の水色の病院着を引っ張ろうとして、けれど、弱すぎる私の身体はそこで限界を迎えた。
ふらっと目の前に倒れていく身体に、視界の先に見える10階下の芝生。私は、ぎゅっと瞳を閉じる。
「馬っ鹿じゃないのかっ!?」
「ぐえっ、」
彼に病院着の首根っこを引っ張られて、ひしゃげた蛙みたいな声が出た。
死ぬと思って痛みを覚悟した直後に、別の意味で思ってもみなかったところに痛みが走って、私はぱちぱちと瞬きする。
「えっと………、それはこっちのセリフでは?」
「いやっ、こっちだろっ!!」
(まつ毛なっが、お肌すべすべ。お鼻高い………)
めちゃくちゃに人生初レベルに怒鳴られながらも、私は目の前の国宝級イケメン?を眺める。
うん、普通にめちゃくちゃ好み。
「ねえ、君名前は?」
「………お前、さっきまでの話聞いてた?」
「聞いてなーい!ねえ、名前は!!」
私が詰め寄ると、彼は思いっきり溜め息をついた後に、その形のいいくちびるを動かした。
「………柏木。
(かしわぎ そうまくんか………。よしっ、決めた!!)
私はにっこり笑って、彼の胸ぐらを掴んだ。
「私が、君に生きる意味を教えてあげる!!」
私の余命は1週間。
最初で最後の恋の相手に、私は生きる意味を与えることでこの人生の幕を閉じることを決めた。
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