504 縁あれば千里
薬で金髪、付け毛で長髪にしてから一ヶ月。
金髪長髪、ついでに【幻影】で青目にして来たエアだが、薬効期間が過ぎ、元の虹色光沢がある夜色に戻った。
付け毛の耐久性チェックも、この辺でいいので、元通り、前髪は長く襟足はスッキリと短い短髪に。
報告書もまとめてあるので、転送でシヴァに提出。
そして、エアは今日もアイリスとアデライデをパワーレベリングに連れて行こうと、『ホテルにゃーこや』の従業員寮に迎えに行った。
寮の前で、準備を整えて待っていたアイリスとアデライデだが――――。
「……まあ。エア殿、ゼノハ王国の方でしたの?」
アデライデがこぼれそうな程、目を見開いてエアを見つめ、そう訊いて来たのだ。
「……ちょっと待て。何だ、その国名は」
悪い予感がしたエアだが、聞かない方が悪手だ。
「ゼノハ王国はかなり南、ティアマト国の更に南、小国群と呼ばれる国の一つでしたわ。十数年前に滅びた国ですが、書物がヒマリア国にも色々と流れて来ていましたの。中には王侯貴族名鑑がありまして、王族の姿絵もありましたわ。夜色の髪、鮮やかな緑の目、繊細に整った顔立ちは、他人のそら似と言うには似過ぎていますもの。エア殿は縁の方だったのかと思ったのです。どこかで見た顔立ちだとは思っていたのですけれど」
「……王族か……」
何だか頭痛を覚えて額に手を当てると、ぽんっぽんっと猫型精霊獣たちが、前足で軽く叩いて来た。
両手で頭を抱えたアイリスにも。
本当に、どこで繋がっているのか分からないが、アデライデと「縁」があったのは確かなのだろう。
「?どうかなさいまして?体調がすぐれませんの?」
エアとアイリスの反応がよく分からなかったらしく、不思議そうにアデライデが訊く。
そういえば、アデライデは、アイリスの本当の姿も見てないかもしれない。出かける時は認識阻害仮面を装着していて、まったく違和感がないため、帰って来てからもアイリスも外し忘れている。
万が一、『ホテルにゃーこや』の客に顔を見られた場合、厄介なことになるかも、というのもあった。身元調査はしてあっても、その子供に追いかけられたこともあるので。
「おれたちは廃村になった小さな村出身で、王族とはまったく関係ないと思ってただけに、な。もう滅びた国でも、たった十数年前じゃ、その姿絵を覚えてる奴もいるだろうし。…いや、王侯貴族名鑑となると、かなりの数が配られてるのか?」
「購入するものだと思いますわよ。結構な厚みでしたので費用もかかっているかと。しかし、面倒なことにはならないと思いますわ。ゼノハ王国があった場所は、本当にかなり南ですのよ?よく流れて来たものだと感心しましたもの」
「ティアマト国ぐらいまでは行動範囲なんだよ…」
「まあ、それは、すごいですわね。……ん?となると、エア殿、髪色を変えて長髪にしていたのはモニターをなさっていただけではなく、厄介なことにならないよう用心もあったということですの?」
「念のため、な。とんでもない祖母の形見が出て来たんで」
「……まさか、それは『
アデライデの勘がいいのか、「とんでもない形見」で連想するのが、他にないのか。
『紅の光輝』はエルフの至宝とされていた、カット面が多い赤い石の付いたブローチだ。色んな書物に絵付きで載ってるらしいので、アデライデも見たことがあったのだろう。
赤い石はシヴァが買い取り、他の脇石もバラし、土台も素材に変えてあった。
「…………」
何か言いかけたアイリスだが、慌てて口を手で押さえる。何がマズイか分からないので、黙っておこう、と考え直したらしい。
「よし。情報をまとめよう。シヴァに連絡するから」
一番、情報を豊富に持ってるのは「にゃーこや」店長のシヴァだ。
王侯貴族名鑑が存在するのなら、欲しがるだろうし、他の国の情報もあるかもしれない。
******
「どう見ても、エアたちと血の繋がりが感じられる姿だな。美化し過ぎてなくて写実的なら、だが」
エアたちはエアの【ゲートリング】でヒマリア国王都ロセレインに転移し、その後、シヴァの転移でヒマリア国王宮、その王宮図書室に来ていた。
レリーフや飾り金具が施された背の高い本棚が並び、所々に絵画が飾られ、至る所にソファーや机があり、重厚で荘厳な雰囲気だった。
普通の閲覧席だけじゃなく、読書台や板で区切られ半個室や、完全に個室になっているキャレル、大きな地図や資料を広げるための大きな机もあった。
書物から得られる知識が大事なことだと思う王族か、書籍収集家の王族が代々いたらしく、蔵書の数はかなりのものだった。
そして、特に重要とは思われていない書物は、分類された所に戻されておらず、貸し出し中のままだったり、適当な所に返されたりもしている。
その中から、ゼノハ王国の王侯貴族名鑑を探し出そうとすると、普通はかなり、難しいのだが、幸い、アデライデが戻した位置にあった。
そして、そのゼノハ王国の他の書物を探すのは、【速読】と【高速思考】スキルを持つエアとシヴァがいれば、かなり簡単だった。
【速読】スキルはアイリスも持っているので、探し出した書物の分類を任せてある。エアたちに関わりそうな情報か、そうじゃないか、で。
手持無沙汰なアデライデは、机で手紙を書いている。弟のオルデリック王子宛てだ。せっかく、里帰りしたものの、非公式なので、堂々と面会するわけにも行かないので。
一応、国王の許可はシヴァが取ったが、人払いはしてなかった。結界に【幻影】を付与して、人がいないよう見せかけてあるので。
エアたちは冒険者姿、シヴァはラフな普段着なのだ。王宮に似つかわしくないことに。
アデライデがドレス姿だったとしても、
「他の姿絵も似たような感じだな。ルーツ確定?」
他のゼノハ王国王族の姿絵も発見したが、本当にエアたちに似ていた。
こうなると、エアは渋々ながら認めるしかない。
「おそらく、だな。姿絵と『紅の光輝』だけだと確定するには弱い」
「それもそうか。ところで、古代魔法の本も結構あるんだが」
意外にすごかったのだ。ヒマリア国王宮図書室の品揃えは。
「そうそう!ある意味、宝の山。そう裕福な国じゃないから未チェックだったんだけど、ある所にはあるもんだな」
一番、喜んでるのはシヴァじゃないだろうか。
ダンジョンコアの分身、コアバタたちも密かに活躍しているので、この蔵書、全部の複製を作るつもりなのだろう。
「じゃ、研究者もいるかもしれない?」
「かつてはいたかも、程度だろ。すぐに実績が出ない研究に費用を出せる程、裕福な国じゃねぇし」
世知辛いが、仕方ない。
とりあえず、知りたいことは知ることが出来た。
他の興味深い書物は「にゃーこや」が複製を作るのなら、いずれマルチツーの【タブレット】の情報も更新されることだろう。
エアはそれを待っていることにする。
猫型精霊獣六体は、背の高い本棚をぴょんぴょん跳び回り、追いかけっこを楽しんでいた。
音を立てず、高速なので、見えてるのはエアとシヴァだけだったが。
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新作☆「番外編89 悲鳴の流儀」
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818792440250227769
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