158 天災は運に左右される
午後からの行程も問題なく進んだが、進むうちにみるみる雲が黒くなって行き、バケツをひっくり返したような土砂降りになった。
進むに進めないので、街道半ばで結界を張り、しばし雨宿り。
「ロビン、土魔法でみんなが入れる小屋を作ってくれ。床はちょっと高くして。ロッソは焼いて補強、ルーチェは明かりをよろしく」
ゴロゴロと雷が鳴り始めた。
ここはまだ山。
高い木が周囲にたくさんあるので近くに雷が落ちてもおかしくない。
これはマズイとしっかりとした避難場所を作成する。
水は電気を通すので小屋の内側は濡れないよう、みんなの水気も飛ばすようクラウンに頼み、エアは小屋が丸ごと入る結界を張り直した。
小さな窓は作ってもらったが、見えないと雷の位置が分からないし、音が聞こえないと危機感を持たないので防音にはしない。
飛行カメラを飛ばせばいいのかもしれないが、画期的過ぎるマジックアイテムを人目に付く所で見せられないし、隠蔽をオンにして飛ばすのも壊れるのが嫌なので。
「エアさん、ここに留まるより、雷が来る前に急いで移動した方がよくないですか?」
落ち着いた所で、依頼主の商人がそう言って来た。
「却下。雷の速度を甘く見過ぎだ。音より速いから光ってから音がする。雷が落ちてるのは光ってる時だ」
「え、そうなんですかっ?」
「それに、水は雷を通す。近くに落ちたら感電して終わりだな。耐性があるおれは無事だけど」
「…それは失礼しました。雷を甘く見てました…」
「他で雷と遭遇した場合、どうすればいいんですか?」
バズーはその辺が気になったらしい。
「水場や高い木から離れる。建物があればその中へ。雷よけの護符やらマジックアイテムやらがあっても買うな。大半は詐欺。自然の雷限定では試すことなんて出来ないからな。何でも使えるから結界の魔道具を用意しておいた方がいい。雷耐性のある装備もあるけど、限定装備というのは何でも高い。安いのは詐欺」
「何も用意がないと雷からは逃げようがない、ということですか?」
「そう。後は運がいいか悪いか。今日はおれと精霊獣たちがいたことで運がいい」
「洞窟があったらそこに逃げ込むのはダメですか?」
そこに、クリフがそんな質問をして来る。
「先住者にやられるだけだな。いなかったら運がいい」
「…そうですね。魔物や盗賊がねぐらにしてることが多いんですっけ」
「魔法で雷の方向をズラしたり、誘導したりは無理なんです?」
バズーがそう質問して来た。
「大半の人には無理。雷は意識があるワケじゃなく自然現象。高い木に落ちることが多い、というだけで、確実じゃない。雷の方向をズラすのは光より速く動けて魔法も打てるのなら可能かもな。出来る?」
「無理ですね…」
「結界魔法以外に雷を防御出来そうなのは、盾スキルのシールドバッシュや身体に
「エアさん、何でそんなに詳しいんですか?」
「勉強したから。おれが知ってると思ったから訊いたんだろ」
小窓が眩しく光り、近くに雷が落ちた。
移動しなくて大正解だったのが、もう証明された。
「そうですけど、本当にそんなに詳しいとは……わっ!」
ドカーンッ!
バズーが話してる最中に、遅れて雷の大きな音がした。
バズー以外も大きな音に飛び上がる。
小心な馬が不安そうに震えて足を鳴らすので、よしよし、とエアはその首を撫でてなだめた。
精霊獣たちも撫でて欲しいらしく、馬の首に張り付くので、可愛い奴らめ、と撫でてやる。
土小屋内の湿度を水の精霊獣のクラウンが調整し、風の精霊獣のシエロが換気してくれているが、気温がまだまだ下がらないので、エアが氷魔法で温度を下げた。過ごし易い気温の方が馬も落ち着くだろう。
しばらく、ゴロゴロ、バリバリと派手に落ちていた雷だが、雨足は徐々に治まって来ていた。
「あー火が点いたか。シエロ、消して来てくれる?」
木が燃えると山火事になりかねない。雨足が治まって来ているので尚更だ。
「にゃ?」
何で自分?とばかりに小首を傾げるシエロに、エアは説明する。
「火は空気がないと燃えないから、風の精霊獣のシエロが一番速く消せる」
納得したようで、頷いてからシエロは火事を消しに行った。
魔法の火なら火の精霊獣のロッソが適任だが、雷が燃やした火事は風の精霊獣のシエロだろう。大気も扱うので。
「にゃーあ」
ぼく、暇なんですけど?みたいな感じで鳴くニキータに、エアは笑って頭を撫でた。
影の精霊獣でも木ごと影収納に入れてしまえばいいが、燃え続けてしまう。燃えてる部分だけ切ってしまうのも有効だろうが、時間はかかる。
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