第36話
本当に、弱い。
もう4匹目をやってしまった。
もはや障害となりえないだろう。
後は大翼の悪魔させなんとかしてくれれば逃げられるが。
クルア先輩の方を見る。
彼女は、苦戦していた。
悪魔の突き。
跳躍でかわす。
さらに嘴で突き。
臼で防ぐ。
ただそれの繰り返し。
けど、大翼のラッシュはどんどん速度を帯びていく。
戦意さえ喪失してしまったのか、襲ってこない最後の1匹を後目に加勢する。
まずは四本脚を使ってのジャンプだ。
クルア先輩はまだ、大翼の攻撃を防げている。
悪魔が右翼を引いて瞬間、そして嘴を突き出した瞬間を狙って、上空から蹴りを入れる。
前に戦った時の経験から効かない事は分かっている。
だが隙は作れる。
頭に着地。大翼が動揺し、ラッシュがやんだ。
その隙を見て、クルア先輩が影に入った。そしてそのままアッパーカット。
悪魔は大口を開け、空を仰いだ。
衝撃で脳が揺れているのだろう。
どんな生き物でも、校内は柔らかい。
私は口の中に入り、足の一本を突き刺した。
「――グァ――ギェ――!」
よく響く悲鳴だ。
しかし、この場に悪魔は近づかない。
刺さったままの足を動かす。
校内をずたずたにされるというのは、想像ができない痛みを齎すだろう。
それに悶えてしまった彼は、大きな隙を晒してしまった。
「”月読み”――天之尾羽張剣!」
クルア先輩の前でその隙は、死と同義だ。
いつのまにか、大翼の横に移動していた彼女は、刀を振りかぶった。
「これで、終わりっ!」
そして、悪魔の首が裁断された。
まさかここで倒してしまうとは。
だが、有難がっている時間はない。
「急いで移動しましょう! もうすぐ大量の悪魔がやってきます!」
「了解!」
クルア先輩は兎のまま、私は化物のまま走る。
来た時は速度が段違いだ。
木の根も葉も苦ではない。
ちらり、と1人残った悪魔が眼に入った。
震えるからだ、立てない足。
別に倒す必要もない。
私は見ないふりして、ピラミッドから離れた。
――
ゼブルくんの視界で確認する。
東から進行していた悪魔群はピラミッドでとまり、そこから移動する気配はない。
私達はさっき休憩していた、自然のツリーハウスまで戻っていた。
足をもとの形に戻しながら、クルア先輩に話しかける。
「もう大丈夫でしょう」
「ホント? よかったぁ」
「やっぱり強いですね、クルア先輩。あのまま倒すとは思いませんでした」
「まあ、ね。月の出てる日なら戦えるよ」
「……前から気になってたんですけど、もしかして新月の日って」
「……うん、弱くなる。昼間よりかは戦えるけどね。天之尾羽張剣とかは出せないなぁ」
クルア先輩は頼りになる戦力だ。
弱体化は痛い。なら新月の日は地球で力温存、みたいな感じになるだろうか?
飽くまで帰れた前提の話だけど。
「それより、さ。じゃーん! これ持ってきちゃった」
自慢気に見せられたのは、生々しい肉。
1㎏くらいだろうか。
なぜか今も脈打っている。
「え、これもしかして……」
「お、気付いた? そ、大翼の肉! ウロが食べたがるかなーと思って拝借してきた」
「マジか……ありがとうございます」
何故か、クルア先輩の中で私が大食いキャラになっている気がする。
けどまあいい。食べたいのは事実だ。
火を起こす過程は前と同じ。
これが一番簡単で確実だ。
ちょっと残念なのが、調味料が何もない事。
苦さも臭さも、それさえあれば何とかなるかもしれないのに。
まあ、取り合えず今は、直火で焼くだけで完成させた。
「いただきます」
「いただきます」
……なるほど。先程の悪魔よりジューシーで美味しいと感じる。もちろん、苦みはのこっているのだが、段々味覚がマヒして来たんだと思う。
「そういえば、毒ある悪魔もいる、と言ってましたね」
「……あ。忘れてた。どうなんろう、大丈夫かな」
「毒を持ってるなら戦闘中につかって来たでしょう。こいつは無いと信じます」
「そ、そうだね……」
大翼の肉片を食べ終わって、この先を考える。
あいつは、大顎のように消し去ったわけではない。
と言う事はまた復活しているんだろう。
ピラミッドを見るにはあいつの除去が必須だ。
戦闘は避けられないが、その戦闘で私が傷を負っても行けない。
後ろで戦闘指示役にでもなるか?
テレパシーなら余裕な気がするけど、私が嫌だな。
この手で勝ち取りたいという欲がある。
私は我慢しないと決めたんだ。
じゃあその為に何が必要だろう。
人間だ。
メンバーは決まっている。
チヒロとカイ。この二人さえいれば、クルア先輩が最強になれる。
……結局私が何もしない形になった。
まあ、このメンバーなら許せる気がした。
「ウロ、今度はどうするの?」
「地球に戻ります。ピラミッド攻略の為に準備が必要だと思うので」
「おっけ。なんかウロと居ると毎日刺激的だな」
なんだか急に褒められた。
誉め言葉だよな?
少なくとも私には誉め言葉だ。
「ありがとうございます。退屈が嫌なもので」
「あー、そりゃ拠点生活から逃げたくなるわけだ。特にウロは拘束されてたらしいしね」
「他のメンバーも退屈だったんですか?」
「勿論。チモがいる限り食料問題は発生しない。つまり、外に出る必要がないんだ。外に関りを持たないと何も起きないもんね」
彼女の言う通りだ。
刺激を求めるにせよ、変化を求めるんにせよ、内だけでは完結しない。
外の、何か別との関わりがあって初めて変化が起こる。
空を見ると、月はもう消えていた。
「ウロ、本当に平気?」
「はい、全然」
「そう……じゃあ今日もお言葉に甘えさせてもらう。おやすみ」
「おやすみなさい」
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