第29話

 「……大顎の悪魔」


 今思い返すと、わかる事がある。

 私は学校で、コイツに2回襲われた。

 

 1回目の襲撃時、銃撃でハチの巣にされていた。

 なのに2回目があった。

 他の悪魔同様、再生能力を所持しているのだろう。


 さて、じゃあどうするか。

 悪魔と睨みあう。


「おぅらっ!」


 が、急にイササが飛んで現れた。

 そのまま彼は、光を収束させ剣の形にし、悪魔の頭に突き刺した。


「――ギャ――――グァ!」


 奴は叫んで暴れ、イササを引っ剥がす。


「おぉっ!」


 イササは光をコントロールして上手く着地した。


「大丈夫かお前ら!」

「助けに来たよ!」


 今回ばかりは心強い。

 正直、大ピンチだ。

 カイは攻撃をくらいかけ、私は右腕を失って――あれ?


「ウロ、それ!」

 

 私の右腕は、完全に消失していた。

 しかしその代わり、背中側から3本の触手が生えている。


「うん、大翼にやられた時の……」


 もしかして、怪我した所がこの姿に置き換わるのか?

 じゃあ完全体になりたければミンチになる必要がある、と言う事だ。

 というか、大翼にやられたときはミンチになっていた、と言う事だ。


「い、いや、今は大顎!」


 激励の為に叫んで視線を移す。

 目立つのは頭。そこには流血と、イササが作った切り傷が……ない!


「もう再生したのか!」


 いくらなんでも早すぎる!

 大翼だって掌だって、何時間もかかっていたのに!


「くそ、ここ戦いづれぇ。学校に誘導するぞ!」

「黒貌、6本武器作って!」

「承知しました! ”木剣”!」


 全部作るには時間がかかるようだった。

 とりあえずは一本だけ受け取って、今も戦っているイササに加勢する。


 木剣を持っているのは、触手の内の一本。

 流石の身体能力、適当に振ってみるだけで木が折れた。


 しかしそれで生まれた轟音に反応したのか、悪魔がこちらを見た。

 すぐに突進が来る。


「っ!」


 空いている二本の触手を地につけ、跳ねる。

 ギリギリ躱すことが出来た。

 そのまま姿勢を変え、イササの近くに降りる。


「どうやって学校へ?」

「戦いながら引く! 俺の後ろが学校だ!」


 叫んで、彼は光を纏い始めた。

 暗い樹海の中に明るい物。

 自然目立って、悪魔はイササに注目する。


 その隙を見て、背後から切りかかる。

 触手を使った跳躍は速い。


 木剣が悪魔の首を襲う。

 しかし弾かれて、そのまま折れる。

 この体でもダメか。


 悪魔は私を補足した。

 首の向きをぐるりと変え、こちらを見る。

 そしてガバァッと大口を開け――私の足を噛みちぎった。


「ぐっ――!」


 また痛み。

 悪魔が完全に切断したせいで、私は地面に落とされた。


 一周回って冷静になる。

 自分の、腰元を断面を見た。

 そこからは、新たな足が生えている。

 灰色の物が、四本。


 それでも注目がこちらに集まってしまった。

 当然だ。噛み千切られた人間、心配しないはずがない。

 

「ウロサマは無事です! 戦ってください!」


 黒貌はいい仕事をする。

 おかげで皆、戦いに戻れた。

 

 痛みと、硬い地面に落ちた衝撃で私はまだ動けない。


「このっ!」


 イササが悪魔を殴打する。

 武器は作らず、自分の手で。

 光をエネルギーに変換したのか、異常な力の乗る拳は悪魔を吹き飛ばす。

 相変わらずのバ火力だ。

 

 さて、私も動けるようになった。


「ウロサマ、これを」


 いち早く気が付いた黒貌。彼女はさっき依頼していた木剣を渡してくれる。

 

「ありがとう」

「無茶しないでくださいね! ウロサマが平気でもこっちは気になるんですから!」

「ごめん、無配慮だった」


 そういって、新しい足で駆ける。

 

 私はテレパシーを持ってはいるが、興奮すると色々忘れてしまう。

 人の心とか、先の事とか。

 格好つけているわけではない。

 単純に、自己中な性格、というだけだ。


 手痛い攻撃を受けたことで、冷静に戻れた。

 常時テレパシーを展開し、連携を強化する。

 

 イササの考えが、みんなに伝わるように。

 カイに周りの声を届けるように。


 これだけで、もっとスムーズにチームプレイできる。

 テレパシーの正しい使い方だ。


「おおっ!」


 イササは悪魔を殴り続け、学校の方向へ押している。

 彼に雑念入らないだろう。

 しかし、隙は必ずできる物。

 悪魔も雑魚ではない。その一瞬の隙をついてイササを喰らおうとしている。

 だが、そんな物はお見通しだ。ゼブルくんの視界越しに。

 どんな行動でも予備動作がある。

 悪魔のそれは、人間の目に留まらないわずかなものだが、蠅の目なら探知できた。

 情報を周りに流して伝える。

 つまり、悪魔の攻撃をテレパシーで感知したカイが、いち早く触手で止めたのだ。


 ああ、これが連携。

 素晴らしいものだ。

 出来るなら私も、持て余した剣3本と4つの足で参戦したい。

 ぐちゃぐちゃになるのが見えているのでやらないけど。

 結果的に、私と黒貌は後ろで見ているだけになってしまった。


 私が弱いんじゃない。

 あいつらカイとイササが強すぎるんだ。

 そう言い訳をしながら、自分のできる事を全うする。

 

 他の悪魔が参戦しないよう、周囲の見張り。これも大事な仕事だろう。

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