第12話
なぜ、暗いのか。
太陽の向きによって、ピラミッドの影になっただけか?
いや、それはない。
先程までは明るかったのだ。
急激に影の向きが変わる事はない。
何が起こっている?
外に出なければわからない。
しかしカイの神は出るなと言う。
周りを見ると、異常さに気が付いたようで警戒を強めていた。
クルア先輩はしかめっ面で入り口を見張っている。
今、彼女は戦えない。
チヒロを見ると、必死にカイを起こそうとしている。
そうだ、彼の鏡は割れている。
ピラミッドが光を反射してはいるが、それは固定されている。
生成物の角度も同じになるということだ。
戦える手札がない。
いや――いや。
そもそも暗くなっただけだ。
敵がいると決まっていない。
慣れない状態で緊張して、考えが飛躍している。
落ち着け。
何が最善だ?
情報を得ることだ。
その為には?
ゼブルを外に出す。
しかし、それは神によって禁止されている。
なんだこれは。
八方塞がりとはこの事だ。
悪魔であればよし。最悪、なんとかできる。
だが、災害。地獄特有の災害の場合だ。
太陽を覆い隠す程の規模。もしくは影に入る程度の距離。
それなら、今すぐ逃げないと間に合わない。
よし、決めた。
外にゼブルを向かわせる。
もしテレパシーが切れてしまったら、それはゼブルが死んだって事だ。
間もなく、外に出た。
光はなく、しかし夜とは様相の違う世界。
一見、周りに異常はなく。
ただ太陽だけが見えない。
地面は当然何もない。
ピラミッドも変わりはない。
自然、空を見上げる。
そこには――三日月があった。
陰の、三日月。
だが、近い。
掌の悪魔の跳躍と、同じような距離と認識できる。
何故か。
情報量だ。
三日月は、太陽を覆い隠している。
その時に出来た影で辺りは真っ暗になっているのだ。
しかし、漏れた太陽の光が、三日月の模様を映し出している。
折れた短い棒が日本。それなりに太いが、これも折れた棒がまた2本。
ここで何となく想像がついた。
ただ、後1つ足りない。
幾許か時間がたって、太陽が動いた。
そのお陰か、姿がしっかりと確認できる。
こちらを凝視する、
まるで戦闘機のコックピットだけが、こちらを向いているようで。
ああ、見たことがある。コイツは――
「――大翼の、悪魔。っ図書館に突っ込んだ奴です!」
「!」
思い出すのはその光景。
チモ先輩が行った後、そこに悪魔が落ちた。
巨大で、硬く、隕石のような急降下。
金属の外壁をものともせず。
ただ全てを破壊した、悪魔。
それが、私たちの真上に居る。
示している事は、明白だ。
全員、走り出す。
目的は脱出。何もかも忘れ、今生きる事だけを考えて――
しかし、唐突に出口が塞がれる。
触手だ。黒く、グロテスクな触手が行先を阻んでいる。
「カイちゃん! 何を!」
「だめ……でちゃ、だめって……」
カイはまだ、完全回復したわけじゃない。肩で息をしてまで止めに来たのだ。
「このままだと死んじゃう!」
「ウロ……そいつ、いつからいた?」
「……正確な時間はわからない。でも、しばらく前から居たはず」
何時から暗くなったのかが不明だ。
私たちはピラミッドの深いところに居るから、太陽光は直接届かない。
気が付いたのは、私が外の景色を見たからだ。
おそらく、それが5分くらい前。
少なくともそれ以上の時間、あいつは対空している事になる。
「ここに突っ込めない、何か事情がある」
冷静になって考える。
カイの言う通りだ。
彼女の神が言った事にも助けられた。
外に出ていたら、いとも簡単に殺されていただろうし。
降ってこない理由を考える。
悪魔は金属を嫌う……しかし、金属で出来た図書館には突撃していた。
何が違う? ここと図書館で、何が?
いや、判断できない。
ピラミッドの情報がなさすぎる。
考えていると、大翼の悪魔が動き始めた。
「っ降下してきます!」
テレパシーで様子を見る。
どうも、ゼブルは目に入っていないらしい。真横を通り過ぎていった。
そして、触手の隙間から目を覗かせた。
大きく丸く、そして生気のない黒い目。
「っ!」
恐怖からか、自然に皆が後ろに退く。
悪魔の目つきが鋭くなった。
「――グァ――ル――マァ――!」
聞くに堪えない発音。
叫んだ後、触手を啄み始めた。
悪魔を引き裂ける強さの触手だ。それなりに固い。
しかし相手は上回る。
触手の硬さをものともしない速度、回数、威力。
5秒も持たず、入り口は開かれた。
「くぁ、喰らえ!」
大翼の悪魔の顔が、こちら側から伸びた。
チヒロの能力。
後ろでカイと協力し、準備をしていたのか。
敵の悪魔は咄嗟に回避し、頭を外に戻す。
今度は、反射された悪魔の顔が壁になった。
ホッとする。
のも束の間、チヒロの能力が引き裂かれた。
威力を増して、突撃してきたのだ。
その首は遂に私達まで辿り着き、嘴に加えられる。
「――え」
強い力。しかし、何故か噛み砕かれない。
そのまま全員、外に投げられた。
「ぐっ!」
背中に強い痛みが走って、木の葉が舞った。
気にぶつけられたようだ。
「――ゲェ――ギ――?」
何かを叫びながら、こちらに近づいて来る。
足を地面に着かせ、ゆっくり歩いて。
また、私か。
こちらをしっかり見て、地面を揺るがし、木を踏み潰して向かってくる。
何か、何かないのか。
この状況をどうにかする、何か。
周りを見る。
誰も動けない。
痛み、怪我、恐怖。
様々な要素が組み合わさって、立つことすら出来ない。
テレパシーで、何か……
(私が、助けないと!)
(これ、キッツ……)
(神よ――!)
それを最後に、私は感覚を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます