第28話 プルップ! 出てこい!!

「しねぇぇ!!」


 新人の騎士が興奮しながら攻撃している。腕で振っているので力は入っていないが、それでもビッグボアごときなら両断可能だ。それほどオーラをまとうと体や武器は、性能が大きく向上するのである。


 ベテランは馬の走る勢いを使って攻撃しているので、効率よく殺している。力はほどよく抜けているみたいで、長く戦えるように調整していた。今回は短期決戦ではないからベテランの戦い方は正しい……のだが、俺は違う。全力を出す予定だ。


 戦場で目立つことによって、プルップに発見してもらおう作戦である。


 手傷を負って撤退することになった憎き相手だ。見つけたら喜んで襲ってきてくれるはず。そこで俺が返り討ちにすれば、この戦いはすぐに終わってくれるだろう。


「俺は奥に行く! お前たちはビッグボアを殺し尽くせッ!」


 シンプルだが誰にでも分かる命令を出すと馬を走らせる。こいつは魔物に近いと言われている品種で、何年も一緒に戦場を駆けてきた。オーガが近づいてもビビることはない。むしろ鼻息を荒くして、楽しそうにしているぐらいである。魔物を目の前にしても怯えることがないので、安心して乗っていられる。


「臆病者のプルップはどこだッ! このマーシャルが相手してやる!!」


 叫びながらオーガの体を両断した。


 ゴーレムにも襲われて混乱しているため、逃げ出そうとする個体もいる。狩り放題である。


 近くに立っているオーガが殴りつけてきたので、剣で受け流して回避する。プルップ探しが忙しいので、馬の足は止めない。離れていく。


 悔しそうにオーガは叫び声を上げているが、土のゴーレムに殴られて吹き飛んでしまった。


 あいつらは少ない知能を持ってしまったが故に隙を作りやすい。思考や感情を捨ててしまった魔物の方が、まだ恐ろしいぞ。


 オーガを適当に斬り殺しながら奥に進んでいく。


 血を浴びすぎて俺や馬は真っ赤に濡れているが、それでも動きは止めない。というか、止まったら包囲されて死ぬ。必死に動き回らなければいけないのだ。


「俺の領地から出ていけッ!!」


 馬の上に立つと跳躍してオーガの肩に乗る。暴れ出す前に黒い剣で頭をブッ刺すと、踏み台にしてまた別のオーガに乗って同じことを繰り返す。


 敵の数が多く、俺が優れているからできることだ。一般的な騎士ならすぐに振り落とされていたことだろう。


 オーガの肩に乗り続けて十体ぐらい殺していたら、ついに限界が訪れる。次の移動先を探す前に囲まれてしまったのだ。仕方なくその場から飛び降りると、真下にいた馬に乗る。


「ヒヒーーン!」


 鎧を着ているから重かったのか、抗議の鳴き声を上げられてしまった。すまんな。


「人間を恐れる臆病者のプルップはどこにいる! 出てこいッ! 俺と勝負だッ!!」


 馬で戦場を駆けながら叫ぶ。


 これだけ挑発すればプライドを大きく傷つけられて出てくるはずなんだが。


 聞こえてないのか? いや、もっと奥にいるのかもしれない。


 目の前にいるオーガを斬り捨ててから、さらに進んでいく。


 味方であるゴーレムの数が増えてきた。ほとんどのトレントは破壊されて倒れている。止まっても安全そうなので馬から下りて周囲を見渡す。


 敵を倒し追えたゴーレムの一部は、オーガに向かって移動を始めている。決戦兵器は充分な力を発揮してくれたようで、仮に魔物の第二波がきたとしても持ちこたえられるだろう。


 トレントの残骸の下にはゴブリンどももいるので、血なまぐさい臭いが充満している。多くの命が奪われたんだなと感じてしまった。


 外壁の方の戦いは順調なようで、ビッグボアを倒し終わった騎士が、オーガと戦っている。外壁にいる弓兵が援護射撃をしていて連携は悪くない。初戦は人類側の勝利で終わりそうだ。


「プルップ! 出てこい!!」


 だからこそ、魔族が見つかっていないのが気がかりである。プライドが傷つくの我慢してまで何を考えているのか。何を狙って……ッ!?


 後ろから膨大な魔力を感じたので確認もせず横に飛ぶ。背後が熱い。振り返ると炎の通った道があった。


 トレントやゴブリンの死体は燃えていて、地面は黒く変色している。炎のブレスを吐いたのだろうか。まあどうでもいい。本人に聞けばすぐに分かるのだから。


「会いたかったぜぇ、プルップッ!!」


 額に一本の角が生えた赤髪の女が立っていた。服は着ておらず全裸だ。冒険者ギルドで見たときよりも背が低くなっている。半分ほどだろうか。


 元がスライムの体だから、体積が減ったんだろう。俺の与えたダメージが回復しきれてないんだろうよ。


 都合が良い。

 これは勝てたな。


「マーシャルのせいで家はボロボロになったし、殺す日を夢見てずっと過ごしていたよ」

「だったら、隠れてないですぐ来れば良かったじゃないか」

「それは何度も考えたけど……殺すだけじゃ足りないって気づいたんだ」


 話ながらプルップは、この世にある全ての悪意を濃縮してしまったような笑みを浮かべた。


 全身から殺意が放たれている。


「足りないってどういうことだ?」

「全てを奪ってから最後に殺すと決めたんだッ!!」


 プルップが両手を挙げると街から煙が上がった。外壁の上にいる兵たちが慌ただしく動いている。


「何をした!?」

「僕に勝ったら教えてあげる。ほら! 早く倒さないと大変なことになっちゃうよっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る