第258話 ゴーレムの可能性

 巨大なマッドゴーレムはズシーンズシーンとゆっくり歩く。

 どろどろと泥をこぼしながら歩いて十歩ほど行くと半分ぐらいに痩せてしまった。

 最大体積まで保持してこぼしていく感じかな。


「ゴブリンが来るよ、三匹」

「丁度良いわ」


 マリちゃんが指さしてゴーレムをズシーンズシーンと動かした。

 ゴブリンが森の向こうから出て来て、ゴーレムを見て奇声を上げた。


「いけ、ゴーレム君一号!」


 のっしのっし。

 ゴーレムはゴブリンに向けて腕を振り上げた。


「ぎゃっぎゃっぎゃ!!」


 動きが遅くて戦闘には使いにくい感じだね。

 ゴブリンはゴーレムの攻撃をひょいひょい避けていたが、一匹のゴブリンにあたった。

 そのまま質量を乗せてゴーレム君一号はゴブリンを押しつぶした。

 一匹倒したが他のゴブリンはゴーレム君を無視してこちらに襲って来た。

 望月先生が麻痺薬を水鉄砲で発射し、二匹を麻痺状態にした。

 竹宮先生、宮川先生が残った二匹をたこ殴りにして戦闘は終了した。


「やっぱり、あまり戦闘向きじゃないですね」

「動きがもっさりしすぎだからね、四足歩行にして籠を付けてカートにしたらどうかな」

「そうですね、泥で簡単に作れますけど、石か何かで実体を作った方がよさそうです」


 稼働石像というか、普通のストーンゴーレムだな、それは。

 なんかのマネキンとか動かしたら良いんじゃないかな。

 廃棄ペッパーくんとかどうだろうか。


 そんな事を考えつつ、五階に下りて狩りをする。

 高田君が歩きながら斧を収納したり取り出したりして落ち着きが無い。


 チアキはくつしたに乗って前に出たり戻ったりして前方を確認している。

 ゴブリンを倒したり、オークを仕留めたり、五階ぐらいは安定の感じで付き添いは暇だな。


「そう言えば陰陽師に人形符の術があるね」

「ええ、麒麟が得意ですね、私はそんなでもありません」

「では、今度、合わせ技で、人形符ゴーレムを実験してみましょう、朱雀さん」

「面白いですね、あれって自然に動かすのが難しいのですけど、ゴーレム玉が入っていれば自立的に動けそうでもありますね」


 新しい技術が出ると色々とアイデアが出るな。

 火炎符で出来た火炎ゴーレムは強そうではないだろうか。


 マッドゴーレムは五百メートルぐらい持ったが、泥が減って自壊した。

 マリちゃんが石の玉を回収してタオルで拭き、ジップロックに入れた。


 洞窟入り口に入り、六階に下りた所で小休止である。

 水場で水筒に水を入れよう。

 泥舟が携帯ヤカンでお湯を沸かして紅茶としゃれこんだ。

 リプトンのティーパックだけどね。


 薄暗い迷宮でお茶を飲むのはなかなか良い感じだ。

 今日の泥舟は甘納豆だな。

 俺はナッツバーだ。


「今日は七階までかい?」

「そうですね、半グレたちも居ますから注意してください」

「『たこ焼き一番』は襲ってこないかな」


 チアキがおにぎりを食べながら言った。


「その恐れはあるけど、こちらに剣を向けた瞬間に殺そう」

「「「!」」」

「こ、高校生同士で、その殺し合いはその」

「なんとか穏便に済ませられないかしら」

「迷宮内は無法地帯なので、剣を向けたら殺します」

「そうしないとさ、先生、別のパーティが舐めて殺しに掛かってくるんだよ」

「まあ、チアキちゃん……」


 宮川先生がふうと大きいため息をついた。


「やっぱり、迷宮は危ない所だなあ」


 そうですよ、安全なテーマパークでは無いので。

 姉さんが暴漢を無条件で殺してくれてるお陰で、『Dリンクス』はわりと舐められていない所がある。

 ダンジョン内は弱肉強食なのだ。


 小休止が終わったので六階を歩き始める。

 この階から本当の迷宮、という感じだよね。


 ライトの明かり以外の部分は薄暗い。

 遠くから見えるライトに緊張する。


「オーク三」


 後ろから何か来てるな。

 バックアタックだ。

 俺が後ろを向くと、隣の高田くんも振り返って戦斧を抜いた。


「敵かお?」

「アタックドックが三、追いついてきた」

「やっつけるお!」


 高田くんが盾を持つ手に戦斧を移し、腰から投げ斧を抜いて投げた。


 GYAN!!


「タカシ?」

「こっちは、俺と高田君、朱雀さんで片付ける。泥舟はオークを」

「了解!」


 血まみれの投げ斧が帰って来て高田君がキャッチし、ホルスターに収めた。

 手負いのアタックドックと無傷のアタックドックが二匹駆け込んでくる。

 朱雀さんがスナップを利かせて火炎符を投擲した。


「火炎陣急急如律令!」


 二枚の符が生き物のようにアタックドックの首に張り付き燃え上がった。


 Gawaaaan!!


 暴れるアタックドックの攻撃を『浦波』で弾き、『暁』で首を落とす。

 高田君が戦斧を大上段から叩きつけて、アタックドックは全滅した。

 振り返るとオークの方も終わっていた。


「新宮くんが居てくれて良かった、オーク三体とアタックドック三体に挟まれていたら対応が大変だったね」

「犬系は足が速いんで危ないんですよ」

「犬に効く悪臭液とか調合したいねえ」


 望月先生の麻痺液水鉄砲もなにげにチートだと思いますよ。

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